次の学習行動を促すための評価法について【アルク語学教育研究支援制度 審査員対談(2)】

「アルク語学教育研究支援制度」は、2019年に始まりました。今年度は、新型コロナウイルス感染症のため研究企画の募集を中止しました。その代わりに、今後の研究へのヒントをいただけたらと考え、この研究支援制度で審査委員をお願いしている先生方に「公開対談」をお願いすることになりました。

「アルク語学教育研究支援制度」の基本テーマは【継続学習を促す学習デザインの探求】です。支援分野は「ICT部門」「評価手法と評価結果の活用部門」「インタラクション部門」の3つに分かれています。

審査に関しては、東京外国語大学の根岸雅史教授に委員長をお願いしました。そのほかに6人の審査委員がいらっしゃいます。この対談シリーズでは、根岸先生に進行役をお願いして、3つの研究支援部門ごとに対談を行いました。対談では、コロナ禍の現在、それぞれの高校・大学がどのように対処しているか、支援分野の今後の研究に関して期待すること等について話し合っていただきました。以下は【次の学習行動を促すための評価法について】をテーマとした対談第2回目の報告です。

(写真:Web対談の画面より。左から、根岸先生、水本先生)
 


■対談者
・根岸雅史・東京外国語大学大学院教授
・水本 篤・関西大学教授


 

東京外国語大学と関西大学のコロナ対応

■根岸雅史先生: コロナ以降、オンライン授業は世界的にも普及しました。東京外国語大学では、すべての授業をZoomとMoodleで行っており、予定通りに来日できずにいる海外の学生もオンラインで授業を受けているという状況です。関西大学ではいかがですか。

■水本 篤先生: 関西大学では春学期、3000科目以上の授業を、オンラインで実施しました。学生がどのくらい積極的に授業参加したかを調べたところ、「リアルタイム遠隔授業」では64.4%、「オンデマンド配信授業」では60.6%、教材を提示して課題をやらせる「教材提示による授業」では49.3%の学生が、「積極的に授業に参加した」と答えています。
 感染対策を徹底したうえで、秋学期からは8割以上の授業で従来の対面形式が再開していますが、体調がよくない先生や、基礎疾患をもつ家族がいる先生は、申請してオンライン授業を行うことも可能です。学生は各自で端末を持参し、キャンパス内の自習スペースで、オンライン授業を受けることもできます。こうして環境が変わったことで、反転授業なども一気に進んだと思いますね。

ファシリテーターとしての教師の役割も

■根岸先生: うちの学生が、先日おもしろいことを言いました。「Zoomには廊下がない」というのです。オンライン授業では、勉強のためだけにみんなが集まるので、授業の前後に廊下にたむろして雑談するような余裕が一切ない。こういうとき、学生間の交流を促すために、教師に何ができるのだろうと思いました。教師の役割の変化について、どうお考えですか。

■水本先生: オンライン授業という変化に応じたカリキュラム、教材、評価の枠組みの開発が、まず求められると思いますね。メタ認知の育成として、目標をたてる、振り返る、改善への取り組みを行うといったことを、何らかの形で教員が確認し、個々の学生の成長を見ていくことも重要です。
 自律・自己調整学習を促進する教員のファシリテーターとしての役割は、オンライン授業では重要度を増すと思います。また、学習者の能力診断や評価にも工夫が求められますが、私たちが最近開発した、New Word Level Checker (https://nwlc.pythonanywhere.com/) では、英文中に含まれる語の難易度や、レベルに応じて使いこなすべき語なども調べられますから、こういうサポートツールも活用されるとよいと思います。

■根岸先生: 私が関わったCVLA (http://dd.kyushu-u.ac.jp/~uchida/cvla.html) も紹介しておきましょう。同じく英文中の語の難易度を、CEFRに基づいて確認することができます。

オンライン化で変わる、授業と評価のあり方

■根岸先生: オンライン授業では、学習者の発話履歴、質問内容、問題解答情報などが、デジタルで蓄積されます。私自身、非常に細かく大量の情報が集まるようになったと実感しています。問題は、それをどう活かすかですが、オンライン授業とその評価を、次の学習につなげるために、どんな注意が必要でしょうか。

■水本先生: オンライン授業では、学生のネット環境への配慮が必須です。また、どの授業でもオンラインで課題が出る状況だと、学生の負担が重くなり過ぎるので、他の先生との足並みも、ある程度そろえる必要があると思います。
 たとえばスピーキングやライティングについては、学生はリアルタイムの授業を求めていると推察されますから、伸ばしたい能力を中心に、授業の方法と評価の枠組みを考えるとよいですね。説明ポイントの明確化も、評価においては不可欠です。

■根岸先生: 評価については、対面授業に戻ることも踏まえて考えないとなりませんね。

■水本先生: ええ、オンライン授業と対面授業、前期と後期でやり方が違うといったことが起こりえますので、全体をみて評価方法を考えなくてはなりません。オンライン授業で open-book exam が定着したとすれば、テストのやり方自体を見直す必要もあるでしょう。
 大量のオンラインデータの活用ですが、自由記述の文章に関しては、テキストマイニング (自由記述文を分析する手法) をフルで使えるサイトなどを使うのも一案です。
 個々の学生の能力や発達段階に応じて、どう授業や評価の枠組みを提示していくかという点では、adaptive learning / teaching や、dynamic assessment といった手法も必要になってくるように思います。

教師の役割変化に関する水本先生の資料より

■根岸先生: 先日、自分が作ったテストを見直しながら、これを学生が自宅のパソコンで受けたらどうだろうと考えてみました。すると問題の3、4割は、単に事実を聞いているだけだと気づいたのです。そこで、本当に内容を理解しているかどうかを見る問題に、書き換えました。
 結果、オンラインでの open-book exam なのに、テストの平均点は下がってしまいました。従来のテストが単なる記憶力のテストになっていないか、「オンライン側」から問われたような経験でした。ちなみに、水本先生が作ってくださった langtest.jp (http://langtest.jp/) を、私も使わせていただきました。テストのさまざまな統計分析ができて助かりました。

「評価法とその効果検証」をめぐる多様な研究に期待

■根岸先生: 「アルク語学教育研究支援制度」のB部門 (次の学習行動を促すための評価法とその効果検証) については、どのような研究テーマに注目されますか。私としては、オンライン授業で得た膨大なデータの活用法ですとか、学習者のつまずきや教員の指導の問題点を振り返るような、テストのあり方に関心があるのですが。

■水本先生: テストのあり方という点では、オンライン化でテストそのものが変われば、スペシフィケーションも変わりますから、そうした変化と対処法を見ていくような研究があってもいいと思いますね。
 ほかに、オンライン学習における個人差やビリーフ要因の影響、オンラインで管理する指導ジャーナルやポートフォリオの活用、自律・自己調整学習を促進するリソースの開発・利用の研究、新しいオンラインメディアを使ったストラテジー、自動評価システムの導入に関する研究なども、見てみたいと思います。
 Complex Dynamic Systems Theory (CDST)のようなテーマは、個人的にも興味がありますし、注目の反転学習がオンラインではどうなっていくのかも知りたいところです。

水本先生が期待する研究テーマ

■根岸先生: 2020年にCEFRの補遺版 ‘The CEFR Companion Volume’が出ましたが、オンライン・インタラクションの分野がかなり強化されていました。オンライン時代の「書く」「読む」とは、一体どういうことなのか。そんな視点も含め、示唆に富んだ研究に期待したいと思います。


 

【用語解説】

・adaptive learning / teaching
ICT利用の教育手法の一つ。学習者の能力等に適応して次の学習素材等が選択・調整されて提示される

・the Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment – Companion Volume
https://rm.coe.int/common-european-framework-of-reference-for-languages-learning-teaching/16809ea0d4

・Complex Dynamic Systems Theory (CDST)
第二言語習得の研究において言語自体を複雑適応システムと捉え、学習者は置かれている環境の中で自らも環境に影響を与えつつ、常に動的に変化し、発達し、適応するものとして包括的に学習者を捉えようとする考え方。chaos theory、dynamic systems theory、complexity theoryとも呼ばれる。

・CVLA 
CEFR-based Vocabulary Level Analyzer。利用者がペーストした英文のCEFR-Jレベルを、語彙情報やテキストの特性から推定。トップページ中ほどにあるパスワードを入力して利用する。http://dd.kyushu-u.ac.jp/~uchida/cvla.html

・dynamic assessment
「発達の最近接領域」の概念に基づき学習可能性を評価すること。評価過程における評価者とのやりとりを重視しやり取りの過程での受検者の変化もアセスメントの対象とする。

・langtest.jp 
英語のテスト統計分析サイト。英文ライティング・サポートツールAWSuMなどへのリンクもあり、教員・学生ともに利用できる。関西大学・水本篤先生による。http://langtest.jp/

・Moodle
世界230国、7000万人が使用する無料のオンライン学習管理システム

・New Word Level Checker 
英文語彙難易度解析プログラム。New JACET8000、アルクのSVL 12000、New General Service List 、CEFR-Jのワードリストが利用できる。https://nwlc.pythonanywhere.com/

・open-book exam
教科書持ち込み可の試験の形式

・Zoom
Zoomビデオコミュニケーションズが提供するWeb会議サービス。資料を参加者全員で共有する「画面共有」や、参加者が小グループに分かれて討論できる「ブレイクアウト」の機能等がある。


取材・文:田中洋子


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