ICTを利用した継続学習を促す教材とは【アルク語学教育研究支援制度 審査員対談(1)】

Web対談の画面より。上:根岸先生、下:左から森田先生、髙橋先生

「アルク語学教育研究支援制度」は、2019年に始まりました。今年度は、新型コロナウイルス感染症のため研究企画の募集を中止しました。その代わりに、今後の研究へのヒントをいただけたらと考え、この研究支援制度で審査委員をお願いしている先生方に「公開対談」をお願いすることになりました。

「アルク語学教育研究支援制度」の基本テーマは【継続学習を促す学習デザインの探求】です。支援分野は「ICT部門」「評価手法と評価結果の活用部門」「インタラクション部門」の3つに分かれています。

審査に関しては、東京外国語大学の根岸雅史教授に委員長をお願いしました。そのほかに6人の審査委員がいらっしゃいます。この対談シリーズでは、根岸先生に進行役をお願いして、3つの研究支援部門ごとに対談を行いました。対談では、コロナ禍の現在、それぞれの高校・大学がどのように対処しているか、支援分野の今後の研究に関して期待すること等について話し合っていただきました。また、対談途中で「チャット」によって質問を受け、対談の最後に回答いただきました。以下は【ICTを利用した継続学習を促す教材とは】をテーマとした対談第1回目の報告です。


■進行役
根岸雅史・東京外国語大学大学院教授

■対談者
高橋一也・工学院大学附属中学校・高等学校ラーニングマネージャー
森田光宏・広島大学准教授


 

コロナ禍における各大学・学校の対応は?

■根岸雅史先生: 新型コロナに揺れた2020年、みなさんの大学や学校では、どのように対応されたでしょうか。私が勤務する東京外国語大学の場合、たまたま昨年末、学長がICTの推進について話した時点では、「やはり語学の授業は対面で」というのが、おおかたの教員の反応でした。その後コロナで状況は一変し、3月にはZoomで授業をやることが決まり、5月のゴールデンウィーク返上で頑張って予定通り春学期を終了した次第です。

■森田光宏先生: 広島大学はターム制をとっており、第1タームから全面オンラインです。学生のインターネット環境を調査し、あまり容量をくわない文字ベースのオンデマンド型授業から開始しました。その後は、「オンデマンド型」でも、「同時双方向型」でも、その併用でも、各先生の判断で進めてもらっています。Microsoft Teamsを使ったグループワークのやり方などについては、教員研修を行いました。第3タームに入り、少人数での対面授業は再開しましたが、発話や対話が不可欠な語学の授業は、引き続きオンラインのみです。

■髙橋一也先生: うちの学校(工学院大学附属中学校・高等学校)では、もともと生徒全員がiPadを持ち、教職員間ではSlack(ビジネスチャットツール)を使っていました。英語の宿題もオンライン利用が多く、授業にもPBL(Project Based Learning)を以前から積極的に取り入れるなど、インフラとマインドセットの両面で、オンライン授業に対応する体制は整っていたといえます。
リアルタイムのZoom授業の開始は、ゴールデンウィーク明けからです。研修を通じてオンライン授業の授業設計を考え、全講義をオンラインで実施する米国のミネルバ大学の授業を研究して、中高レベルにあわせて応用しました。6月以降は、通常の対面授業が徐々に再開しています。

オンライン授業で変わる教師の役割

■根岸先生: 教育現場では、教師にも通常の対面授業とは異なる役割が求められるようになったように思います。私が気になるのは、オンライン授業ではどうしても、学生とのインタラクションが少なくなることです。授業開始と同時に本題に入り、そのまま最後まで進みますからね。対策として、途中でブレークを設けて学生と話すようにしています。

■森田先生: 広島大学ではオンライン授業用のICTツールとして、ZoomやMicrosoft Teamsなどの「同時双方向型」、「公式LMS(Learning Management System)オンデマンド型」、「外部サイト・オンデマンド型」を、各先生の判断で併用しています。モデレーターとしての教員の役割は、オンライン授業でも非常に重要だと思います。単位を出す以上、教員は学生としっかりインタラクションをとり、フィードバックも与えなければなりません。

森田先生がICT利用のパタンについて資料を共有しつつ説明された

■髙橋先生: この夏、教育系YouTuberの葉一さんを招き、オンライン鼎談をやりました。彼は2012年からYouTubeで授業を公開していて、小中高生で知らない子はいない存在です。
この話で何を言いたいかというと、「リアルタイムで授業をやる必要は、ないのではないか」ということです。生徒は葉一さんのようなYouTuberの英語の授業を見て、Zoomでディスカッションをします。アウトプットも教師のフィードバックも、オンラインで完結できるのです。僕たちの学校では、実際にそうした授業が増えていますし、先生たちも葉一さんの動画を研究して力をつけています。授業の形がここまで多様になってきていることを、僕たち教師は知っておく必要があると思います。

教員のICT習熟度や発想も、教育格差の一因に

■根岸先生: ICTを活用した教育では、通信環境などによって生じる「格差」の問題もありますね。外語大は学生のパソコン所有率が比較的高く、通信環境もわりと整っていますが、それでも授業の途中で回線が切れてしまう学生や、スマホで受講しているため使える機能が限られる学生もいます。雑音が多い環境でオンライン授業に参加する学生からは、「発言を求められてもミュートを解除したくない」といった声も聞こえてきます。これらも格差と言えるのかもしれません。

■森田先生: 広島大学では徐々に対面授業が再開されており、登校した学生が、そのまま構内で語学のオンライン授業を受けるという状況が出てきています。対策として、講義棟内に専用の部屋を複数設ける予定です。また、教員の「オンライン慣れ」やICT習熟度の差も無視できません。確実に授業の質を左右しますから、必要な先生には支援を提供し、学生の不利益につながる格差を、放置しないことが重要です。

■髙橋先生: うちの学校では、コロナ以降、英語によるオンライン授業の機会が増えました。知り合いの大学の先生に、英語でレクチャーをしてもらったりもします。生徒たちはそのレクチャーの映像に字幕を付け、トランスクリプトも作って、(協定校の)滋賀県の米原高校に送ります。そして最終的に、合同でオンラインディスカッションをするのです。つまりモノが足りない格差より、先生の発想の格差のほうが、大きいのではないかと僕は思います。

髙橋先生が同時双方向型クラスで行ったPBLの授業の様子

「ICTを利用した継続学習のための教材開発」に期待するもの

■根岸先生: ここまでの話を踏まえ、「アルク語学教育研究支援制度:A部門」(ICTを利用した継続学習を促す教材の開発または利用方法の工夫とその効果検証)に関し、どのような研究に期待されますか。

■森田先生: 個々の学生の学習状況や習熟度などを、教師が把握するための方法も含めて、ICTの活用を今後に繋いでいくための研究に注目しています。半年、1年というスパンで長く使って成果が期待できるICT教材が出てくると、僕たち教師にとってもオンライン授業はずいぶん楽になるでしょう。学生が授業の外で自律的に学習するICT教材も、開発されるといいですね。

■髙橋先生: 生徒の発話量、相手の話に介入するタイミング、集中の度合い、発話量と英語のスピーキング力の関係性といった研究は、今後、意味をもってくると思います。英語の授業で英作文を書くのに、うちの生徒は添削アプリのGrammarlyなどをよく使います。結果、教師はスペルや文法のミスなどで評価をすることがなくなり、より作文の内容をみるようになりました。ICTの導入で、従来とは違う評価軸ができ始めているのです。そういう分野の研究や、授業の目的を「見える化」するシステム開発にも、期待したいと思います。


 

【Q&Aセッション】

Q. Zoomのブレイクアウトのような機能は、Teamsにもありますか
■森田先生: Teamsの授業ページ下に、サブチャンネルのようなものを作り、ペアやグループに分かれて活動することができます。

Q. ブレイクアウトで、学生に積極的に活動してもらう工夫があれば教えてください
■根岸先生: 前もって、ブレイクアウトの目的を明確に学生に伝わるように話しておくことは大事です。

Q. コロナ騒動を経て、学生や生徒の総学習時間は増えましたか。減りましたか
■根岸先生: 個人的な感覚ですが、オンライン授業では雑談の余地がほとんどないので、学生もかなり勉強しているんじゃないかと思います。
■森田先生: うちの学生も、前期はすごくよく勉強してくれました。彼らによると、ステイホームで外にも行けず、他にやることがなかったからだそうです(笑)。

Q. 学習時間が増えすぎることのデメリットなどの議論は始まっていますか
■髙橋先生: 議論が始まっているかどうかはわかりませんが、デメリットとしては、私自身は目が辛いです。1限から6限までZoomで授業をしたときは、6限が終わったときに、視力が下がったように感じました。生徒も辛いだろうと思います。
■根岸先生: 私も4日間連続で、8時半から5時までのオンライン授業をやったのですが、やはり目がすごく辛かったです。大学としては、90分授業の合間にブレークを取るように指導しています。

Q. みなさん、G Suiteは使われますか
■髙橋先生: Googleが提供するツールですね。すみません、僕らはマイクロソフトなのでよく知りません。
■根岸先生: 外語大ではZoomのほかに、Moodle(東京外大のe-Leaning System)を使っていたのですが、この秋からGoogle Classroomというのを使うようになりました。G Suiteではありませんが、課題の回収や課題の共有などは、やりやすくなりました。


 

【用語解説】

・ICT
Information and Communication Technology。情報通信技術。ITとほぼ同義語だが、ITがコンピュータ関連技術全般を指すことが多いのに対し、ICTではどちらかというと情報伝達に焦点が置かれる傾向。教育分野での活用も急速に進んでいる。

・Grammarly
デジタルライティングツール。AIによる文法やスペルのチェックが便利。

・G Suite
Google が提供するグループウェアサービス。

・LMS
Learning Management System。e-Learningの運用において、教材の配信、成績、学習ペースなどを統合的に管理する「学習管理システム」の総称。

・Microsoft Teams
マイクロソフトが開発・提供するWeb会議サービス。画面共有や参加者を少人数グループに分ける機能などがある。一般に、Teamsと呼ばれる。

・Slack
ビジネスチャットツール。チャンネルベースのメッセージプラットフォーム。

・Zoom
Zoomビデオコミュニケーションズが提供するWeb会議サービス。資料を全員で共有する「画面共有」や、参加者がグループに分かれて討論できる「ブレイクアウトルーム」等の機能がある。

・オンデマンド型
非同期型ともいう。教員は、オンライン上の授業ページに、その回で学習する教科書のページ指定、資料(授業を録画した動画、参考用ウェブサイトへのリンク、テキストの一部など)、課題の説明などをあらかじめアップロードしておき、その後、学生が個別にアクセスして自分で学習し、課題等に取り組む。後日、教員からのフィードバックを受け取ることもある。

・同時双方向型
同期型ともいう。ZoomやTeamsなどのWeb会議システム上に「教室」を設定 し、教員と学習者が同時にアクセスして、オンライン上でリアルタイムの授業を行う。Web会議システムの機能を使って、双方向のやり取りや、ペアワーク/グループワークを行なうことも可能。

・ミネルバ大学
Minerva Schools at KGI。2014年に開校した全寮制の総合大学。キャンパスを持たず、学生は世界7都市に移り住みながら、すべての授業をオンラインで受講する。あらゆる国から入学希望者が集まり、入学は世界一の狭き門ともいわれる。


取材・文:田中洋子

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