人材育成の新潮流: レンタル移籍がもたらす成長効果【後編】

「レンタル移籍」を提供する株式会社ローンディール。代表取締役社長の原田未来さんに、「レンタル移籍」がもたらす効果や今後の展望をお聞きしました。(前編はこちら)

株式会社ローンディール
企業間レンタル移籍プラットフォーム「LoanDEAL」を提供。
「レンタル移籍」は、研修・出向などの企業間契約に基づいて、イノベーション人材・次世代リーダー育成に取り組む大企業と、事業開発力を強化したいベンチャー企業のマッチングによって実現。2015年9月にサービスを開始し、2020年7月現在、導入企業はトヨタ自動車・経済産業省・NTT西日本など大企業 38社、97名。受入企業として324社のベンチャー企業が登録。オープンイノベーションの仕掛けとしても注目され、2019年、内閣府が主催する第一回日本オープンイノベーション大賞において「選考委員会特別賞」を受賞。
https://loandeal.jp/

成長できる適性

ーー「レンタル移籍」をされる方々は、大企業の中で期待され、背負ってくるものが多いんでしょうか。

原田 移籍先で成長して戻ってきて、会社の成長を担える期待が持てる方を移籍させてくださいとお伝えしています。

移籍者は選抜であったり公募であったりと、いろいろな選び方がありますが、移籍者を選ぶ時は当社も参加させていただいています。移籍して成長できるタイプの方であるか、その「適性」の見極めはとても大事です。既存事業で利益を出すことが向いている人に無理にベンチャー企業へ行ってもらうのは酷なので、候補者の話を聞きながら、移籍の適性を丁寧に確認していくようにしています。

ーー そういう「適性」は、本人も気づいているものでしょうか。

原田 うーん、難しいところかもしれません。僕たちが大事にしているポイントは、素直さなんです。とてもシンプルな話になってしまうんですが。

大企業は過去の実績もたくさんあるので、まだ赤字が続いているベンチャー企業へ移籍した時に「こういうやり方もあるんだな」と受け入れられるには、素直さがないと難しいと思います。「まだ赤字ばかりの小さな会社が何を言ってるんだ!」と思ってしまったら、得られるものがないですからね。

移籍先に対してリスペクトを持ち、違うやり方を受け入れられること、アンラーニングできることが大切です。10年、20年、大企業で教えられてきた「正しい方法」を、一旦全て捨てられるか。捨てることができるまでの時間は個人差があるので、移籍者を選定する時にはその部分も注意して見るようにしています。

人生を賭けて取り組みたいことは何か

ーー どのように移籍者を選ぶのですか。

原田 選定過程では、面談を1回と、研修を1日行います。「ベンチャー企業に行く」というのは、目的ではなく手段の1つです。送り出す会社の期待以上に、移籍するご本人が「人生を賭けて取り組みたいことは何か」を言語化できているかが大切です。

そのためにも、研修では自分のビジョンやミッション、価値観を整理しましょうとお声がけしています。ビジョンやミッションが達成される時に、今現在は手にしていなくて、新しく得たい経験とは何ですかと聞きます。

すると、「(そのためには)自分はこういうベンチャー企業に行きたい」「こういう仕事をしてみたい」ということが見えてくるんです。それが見えないと、移籍してみたい場所も選べないというのが僕たちの考えです。

ーー 移籍前の面談や研修も、とても大切なプロセスですね。

原田 移籍先は送り出す会社側が決めると思われることもあるんですが、移籍者が決まったら、その方が自分で行先を決めてもらいたいとお伝えしています。これはとても大事で、「自分で決めたんだから最後まで頑張らなきゃ」という良い意味でのプレッシャーになるんですね。自分で考えて、自分で選ぶというのがいいんです。

行先は自分で決める

原田 大きな組織では、次はこのポスト、その次はこのポストと、会社側から提示されることが多く、自分で考えて選ぶことはそんなにないんですよね。ですので、移籍先を自分で決めようとした時に、すごく葛藤する人もいます。「自分はいったい、何をしたいんだろうか」と。

でも、そういうことにすぐ答えが出る人って少ないじゃないですか。それを「なんだろうな」と内省できると、その先の成長や変化が違ってくるのではないでしょうか。ですので、最初のプロセスには時間をかけるようにしています。

ーー 移籍中もメンターがつくのですか。

原田 はい、当社からメンターを派遣し、移籍中も伴走してくれます。移籍者は週報を書いてメンターに共有し、メンターはそれに対して返事を書きます。また、月に1回は移籍者に会いに行きまして、1 on 1 ミーティングも行います。

移籍先での業務内容はメンターや僕らが口を出せることではありませんが、そこで何を経験したのか、その経験はどんな意味を持つのかということは聞きます。移籍者の中で起こっているマインドの変化を聞くんです。

たとえば、資料作成を頼まれて、30分後に「まだ?」と聞かれて驚いた移籍者(前編参照)は、自分でも考えるわけです。

今までは1週間の持ち時間の中で、資料をきれいに作らないと怒られていたのに、ベンチャー企業に来たら「30分で」と言われたと。汚くてもいい、手書きでもいいと言われた、この違いって何だろうか、と。

そういう時、メンターは答えを教えるのではなく、思考が深まるような問いを一緒に立てるようにしています。

自分のことばで、蓄積する

原田 考え深めていったことは、自分のことばで蓄積していきます。
移籍者は週報以外に月報も書くのですが、そこでどんどん言語化していきます。言語化すると、再現性が出てくるんです。移籍から戻った後も、新しく学んだことがしっかりと活きてきます。言語化を促すためにも、メンターは「それはなぜ?」と小さな問いを重ねていくようにしています。

ーー 移籍者を送り出す側からの反響はいかがですか。

原田 移籍者が書く週報や月報は、送り出す側の人事部も読みますが、「人が変わる瞬間、成長していく瞬間を初めて生で見た」というお声をよくいただきますね。ある日突然、書きぶりが明確に変わる瞬間があります。

また、移籍終了時には必ず報告会を開催します。移籍期間に実際に起こったことではなく、未来に対しての報告をお願いしています。戻った会社でこれから貢献していきたいことを宣言するのですが、みなさんの熱い思いが溢れて、とてもいい共有の場になります。

ーー 移籍者は、自分の会社に対するエンゲージメントも高まるのでしょうか。

原田 はい、高まります。「ベンチャー企業を見ちゃったら、もう戻ってこないんじゃないの」と心配される方もいますが、今のところ、そのまま転職した方はいないです。

その理由の1つは、ベンチャー企業での仕事もはたから見るほど楽しいことばかりではないと気づくからでしょうか。権限はあるけれど、お金の制約など課題もありますので、現実はそんなに甘くないとわかるわけです。

もう1つは、送り出す人事部や移籍前の上司みんなが、移籍者をすごく応援してくれる仕組みであるということです。「移籍先でも頑張れよ、帰って来たらまた一緒に仕事をしよう」と、待っていてくれる人がいるので「ここに帰ってこよう」と思えるんだと思います。みなさんがそういう思考になるのは、僕たちの新たな気づきでもありました。

ーー 移籍終了後には「移籍者たちのストーリー」という記事もまとめていますね。

原田 移籍先から戻った方たちは、自分の経験を他者に話すことで、自分自身の思考がすごく整理できます。ですので、インタビューはとても良い機会になります。

また、何万人、何十万人もの社員がいる大企業では、レンタル移籍者の話を直接聞けるのはごく一部の人ですので、記事化して多くの人の目に触れるようにしています。そうすることで、「そういえば、ベンチャー企業から帰ってきた人がいるから、ちょっと相談してみよう」という展開にも繋がりやすく、移籍終了後も新たな成長の機会が広がってくるんです。

「&ローンディール」はウェブマガジンのほか、紙媒体でも展開している

移籍者だけでなく、周囲も変わる

ーー 「レンタル移籍」を提供される中で、想定外だったことはありますか。

原田 いちばん嬉しくて、良い意味で想定外だったのは、大企業の上司のみなさんも変わるということでした。

移籍者が変わるのはもちろんですが、応援している側の上司にも「あんなに頑張ってるんだな、自分もちょっと勉強しないとな」という反応が出てくるんです。移籍者が挑戦している姿を見ることで、まわりの関係者たちも変わっていくことは想定外でした。1人の挑戦が、周囲も変えるんですね。

ーー 「レンタル移籍」の今後の展望を教えてください。

原田 「日本的な人材の流動化」を標榜しています。流動の方法が今は転職などに限られていますが、日本企業らしさを残したまま、より流動性を高められればと思います。

何でもすぐにシリコンバレーなどと比較して、日本企業の独自性を指摘する論調もありますが、独自性は強みでもありますので、日本企業らしさを大切にしながら人材の流動化を支援していきたいです。

以前は企業側も、新卒で入社後は、まわりを見せずに終身雇用で最後まで会社にいてもらう発想でやってこれましたが、もう現代では物理的に無理です。みんなが外を見る前提に立った時、それでも会社に留まってもらうには何が必要なのかを真剣に考える必要があります。企業側がそう思考していくことで、社員にとっての会社の価値も上がっていきます。

社員も自分の能力をもっと発揮しようと思うようになりますので、それは相乗効果になっていくでしょう。その時の選択肢の1つとして、「レンタル移籍」を活用していただけたら嬉しいですね。

取材・文・写真(下):アルク第3編集部  写真(上)提供:ローンディール

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