人材育成の新潮流: レンタル移籍がもたらす成長効果【前編】

サッカーなどプロスポーツの世界において、選手が期限付きで他チームへ移籍する制度を「レンタル移籍」といいます。これをビジネスへ応用し、企業間で人材を移籍する「レンタル移籍」を提供するのが株式会社ローンディールです。代表取締役社長の原田未来さんに、発案の背景や創業から5年を経た現在の状況についてお聞きしました。

株式会社ローンディール
企業間レンタル移籍プラットフォーム「LoanDEAL」を提供。
「レンタル移籍」は、研修・出向などの企業間契約に基づいて、イノベーション人材・次世代リーダー育成に取り組む大企業と、事業開発力を強化したいベンチャー企業のマッチングによって実現。2015年9月にサービスを開始し、2020年7月現在、導入企業はトヨタ自動車・経済産業省・NTT西日本など大企業 38社、97名。受入企業として324社のベンチャー企業が登録。オープンイノベーションの仕掛けとしても注目され、2019年、内閣府が主催する第一回日本オープンイノベーション大賞において「選考委員会特別賞」を受賞。
https://loandeal.jp/

長く働いた先の「閉塞感」と、離れてからわかったこと

ーー レンタル移籍を構想された背景を教えてください。

原田 もともと、僕自身は大学卒業後に就職した会社で長く働きました。入社したのはベンチャー企業だったんですが、入社当時は10人くらいの会社で、新規事業を担当させてもらうなど、さまざまな仕事を経験することができたんです。

ですが、同じ場所にずっといると仕事はこなせるようになってくるんですね。そして、30歳を過ぎたころから、閉塞感に似たものを感じるようになってきました。しかも1社しか知らないと、本当は自分がもっと気持ちを込めて働ける場所があるんじゃないか、もっと成長できる仕事があるんじゃないか、そんな課題感が募るようになりました。

そして、1社目で13年間勤めた後に転職しました。転職をすると、そこで初めてわかることがたくさんありましたね。環境を変え、新たなことが学べるポジティブな面がある一方、1社目の方が僕自身には合っていたかもしれないことにも気づきました。

「ああ、1社目ってこんなところが良かったんだ」とか「あんなにできることがあったんだ」という、離れてみたからこそわかることがあったんです。

外を見ることは意味があるけれど、そのために会社を辞めなければいけないのは、リスクが大きいとも思いました。それで、会社を辞めずに外を見る仕組みを作りたいと、サッカーの「レンタル移籍」にヒントを得て、ビジネスで応用することを考えたんです。2社目では1年半ほど働いて、現在の会社を立ち上げました。

ベンチャー企業に行きたいという声の多さ

ーー 周囲の方は「レンタル移籍」のアイデアをどう受け止めましたか。

原田 起業してから大企業の方と知り合うことが多かったのですが、とても共感していただきました。「うちの会社にこそ、導入してほしい!」と。特に、大企業の30代の方々から反応がありました。

2015年ごろは大企業も変革を迫られ、課題意識が出てきた時期だったのだと思います。何万人もの社員を抱える大企業の方々にこんなに共感していただけるとは思ってなかったんですが、「ニーズがあるんだな」という手応えを掴みました。

どんな会社を見てみたいのかを尋ねると、「ベンチャー企業がいい」という方が多かったのも特徴的でした。2010年代以降、ベンチャー企業に就職する人が増えてきましたので、大企業の30代も「ベンチャー企業の人たちは、なんだか生き生きと仕事をしているなぁ」と感じていたのではないでしょうか。

そうして、レンタル移籍の構想も「大企業からベンチャー企業へ」という形に焦点化していきました。

ーー 大企業の30代が希望するんですね。ちょっと立ち止まる時期なのでしょうか。

原田 やはり、30代は閉塞感を感じる時期なのかもしれません。これは大企業に限らず、どんな仕事でもそうだと思いますが、仕事にも慣れてきたころの閉塞感というのがあるようです。

ですが、30代はいろいろなしがらみが出てくる世代でもあります。結婚したり子どもができたりすると家族のことも考えますので、実際問題として、自分1人の希望だけで転職を決断するのは難しいものです。新しい場所で働いてみたいけれど現実的には難しいという葛藤が、30代のみなさんはより強いのではないかと思います。

ーー「レンタル移籍」の発想とみなさんのニーズが合致したんですね。

原田 でも、「レンタル移籍」を導入していただくようになるまでには時間がかかりました。30代の方々が強く共感しても、大企業の組織の中ではまだ決定権がなかったりするので、導入には至らないことが多くて。

ですので、そこからが大変でした。1年目のレンタル移籍者はたった1人です。2年目も数人。3年目、4年目を経て少しずつ、利用される方が増えてきました。現在は起業してから丸5年が経ちますが、レンタル移籍者は累計で約100名になりました。

ーー 移籍者が戻ってきた翌年には次の移籍者を送り出すという、「レンタル移籍」をリピートされる企業もあるようですね。

原田 そうなんです。結局のところ、大企業の中のたった1人が移籍先から戻ってきても、大企業で変革を起こしていくことは難しいですよね。ですから、中長期的な取り組みとして継続活用される企業も出てきています。

起業5年後の景色 ーイノベーションも「人づくり」へー

ーー 起業当時と5年後の現在では、「レンタル移籍」を取り巻く環境に変化を感じますか。

原田 変化はありますね。起業当時は、新規事業開発部など新しいことに取り組む部門からの問い合わせが多かったんです。それが次第に、企業の人事部からの問い合わせが増えてくるようになりました。

おそらく、新規事業開発やイノベーションって、5年前は「仕組み」の話だったと思うんです。新規事業部署を別の場所に作りましょう、コーポレート・ベンチャー・キャピタルを作りましょう、的な感じです。仕組みを作れば新規事業はできるという考えが比較的主流だったのではと思います。

ところが、仕組みを作っても、その場所で誰がやるかがとても重要だということに、大企業が気づいてきたように思います。「仕組み」と「人」と両方ないと、事業って生まれないんだと。イノベーションという課題が「仕組みづくり」から「人づくり」へ変わったタイミングです。3年ほど前からその変化を感じています。

ーー 具体的にはどのような「人」を求めているのでしょうか。

原田 新規事業を作るマインドセットがある人だと思います。たとえば、すでに実績の積み重ねが豊富にある大企業においては、何かをやろうとして失敗したら、怒られることも多いと思うんです。

でも、ベンチャー企業など新しいことをやる仕事では、失敗することは前提にあるので、失敗してもいちいちへこまない、へこんでいられないんですよね。「100のことに挑戦してみよう!」というマインドです。

大企業の「一発一中で、どうにかしないといけない」という強いプレッシャーの中では事業は生まれにくい、そういう意識の違いがあるように思います。大企業には、なかなかベンチャー企業的なマインドが許容されにくく、またそんな人が育ちにくいのかもしれません。

ちょっと異質な人を育てたい、多様性へつなげたい・・・、問い合わせていただく大企業の人事部にはそのような思いがあるようです。

作法の違いと新しいマインドセット

ーー チャレンジしていかないと、失敗も成功も生まれないということですね。

原田 そうなんですよね。大企業からベンチャー企業に「レンタル移籍」された方が、ある時、社長に見せる資料を作るように言われたんです。社長に見せるんだからと、きれいな資料を作ろうとするんですが、作り上げるのにいつもの感覚だと1週間かかります。そうしたら、30分後に「資料まだ?」と聞かれて、「ええっ!?」っと驚いたそうです。

その方がそれまでに学んできた方法は、過去のデータを活用して、資料はきれいにまとめるというものでした。大企業には何十年も積み重ねた既存事業の情報がありますので、社長にも完璧な資料を提示することで、より確かな判断へ近づいていこうと考えるわけです。

でも、ベンチャー企業では「資料を作って」と言われたら、30分後には手書きでもなんでもいいから、見せられることが大事なんです。新しいことをやる時はまだ正解がわからないので、1週間かけて資料を作るぐらいだったら、雑であろうが30分で一旦まとめて、細かく修正を繰り返しながら進めていくのがベンチャー企業的なプロセスになります。

これはどちらが良いということではなく、作法の違いです。こうして移籍者は、方法は1つでないこと、今まで自分の会社で正しいと言われてきたことが必ずしも正しいわけではないことに気づいていくようです。こういう気づきが、移籍された方が成長する大きな転換点になっていると思います。

(後編へつづく)

取材・文:アルク第3編集部  写真提供:ローンディール

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