オンライン授業のメリット・限界から分かる教育機関に求められること

オンライン授業

オンラインでの語学教育を実践して発見した利点と限界を、国際医療福祉大学医学部の押味貴之先生にレポートいただきました。


否応なく始まったオンラインでの語学教育

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、全世界の大学教育が一斉にオンライン教育で行わざるを得ない状況となった。私が教べんを執る国際医療福祉大学も例外ではなく、医学部での医学教育も、大学院での医療通訳の教育も、全てがオンラインで行われることとなった。

私自身はずっと大学などの高等教育機関には「その時間、その仲間と、その場所でしか体験できないもの」を提供することが求められ、過去の「お祭り」をアーカイブで体験することにほとんど価値がないのと同様に、教育機関も仲間と共に学ぶことが重要な意味を持つ祝祭空間のような学び場になるべきであると考えていた。そんな私にとって全てをオンラインで行う必要があるこの状況は、とても困難なものと感じられた。

中でも特に困難なのが新入生たちだ。彼らはキャンパスに足を運ぶことも、同級生たちと対面することもなく新学期を迎えることとなった。既に同級生たちと交友関係を確立し、大学の教員やシステムを知っている上級生と違い、医学部や大学院で新たに学び始める新入生たちにとって、このオンラインでの教育環境は特に難しくなると感じられた。特に私は医学部でも大学院でも語学教育を担当しており、オンラインのみでの語学教育にはかなりの困難が予想された。実際にそれを始めるまでは。

意外なオンライン語学教育の利点

しかしオンラインでの語学教育を実際に始めてみると、意外な利点が見つかった。

まずは通学時間がなくなったことによる利点である。私自身も今回の外出自粛期間中にテレワークを実践し、通勤時間がなくなったことでさまざまな利益を受けた。学生たちも通学時間がなくなったことにより、1限目の授業の出席率が高まり、補講などにもこれまでよりも多くの学生が参加するようになった。

また対面授業よりもさまざまなメディアをその場で共有する機会が増えた。これまでの対面授業では授業資料を全てeラーニング上に事前にアップして、教室ではスライドを見せながら話していたのだが、Zoomを使った授業では授業の途中に補足的な資料をその場で共有する機会が増えた。また私はいつも授業の合間に洋楽を流しているのだが、オンラインになったことで学生からのリクエストを受けるようになった。おかげで今の学生たちがどんな音楽に興味を持っているのか、以前よりも分かるようになった。

そして何より「サボる」学生が減ったことが大きい。これは特に新入生に顕著なのだが、互いに対面で会ったことがないためか「周りの学生たちは真面目に勉強しているに違いない」と感じるようで、従来に比べて「サボる」学生が大きく減った印象を受けている。Zoomでの授業を終えた際になかなか退出しようとしない学生が多いのも特徴で、これも「この後に何か大切な話がされるのではないか」という心理が働いているのではないかと感じている。オンラインでの教育では「サボる」学生が多くなるのではと懸念していたが、これはうれしい誤算であった。

オンライン教育では補えないもの

他にもオンライン語学教育には、Zoomのチャット機能を使っての質問が増えたこと、eラーニングとの接続が対面授業よりもスムーズであること、対面よりも小グループの割り振りが柔軟にできることなどの利点が発見された。

このように意外な利点が数多く発見されたオンラインでの語学教育ではあるが、その限界もはっきりと見えてきた。

私は語学教員の仕事として「学生を観察すること」が最も重要だと考えているのだが、オンラインでの語学教育ではこの学生の観察が極めて困難である。対面授業であれば学生たちが互いに話す様子を見て、それぞれの強みと課題がよく分かるのだが、Zoomなどのオンライン教育ではこの観察が極めて難しいのだ。「学生の観察」を重視する私にとって、これは本当に難しい問題である。

また学生の視点では「余白の時間」がないことが何よりも大きな欠点となる。どんなに良い内容の授業を受けたとしても、学生が「余白の時間」を通じて互いに語り合うことで、その内容を吸収することが必要となる。休み時間や昼休み、放課後といった他の学生たちとの「余白の時間」こそが大学という学び場にとって重要なのだと、改めて思い知らされることとなった。

今回のコロナ禍は、教育の意義やその将来を改めて考えるきっかけとなった。語学教育に限ってみても、オンライン教育にはかなりの利点があり、それらの利点を再確認できる良い機会となったことは間違いない。しかし大学や大学院という教育機関には「その時間、その仲間と、その場所でしか体験できないもの」を提供することが求められていることも事実である。かつてのようにキャンパスが学生たちに解放され、彼らが学ぶ姿を肉眼で見ることができる日が1日でも早く来ることを待ち望んでいる。


文: 押味貴之(英語医療通訳者・医師)
イラスト: つぼいひろき

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