突然、長期休暇になってしまった通訳ガイドたち

桜

通訳ガイド(全国通訳案内士)にとって、一番の繁忙期が桜のシーズン。お仕事をめぐる現状を、松本美江さんにレポートいただきます。


新型コロナウイルス感染拡大で、スケジュールは空白に

新型コロナウイルスの感染拡大があっという間に世界中に広がっています。通訳ガイドの仕事は訪日のお客さまあってのことですから、1月末に中国政府が団体海外旅行を禁止した頃から、不安が広がり始めました。その時はまだ中国語の通訳ガイドだけの問題でしたが、年間で一番の繁忙期である春を目前にしてのこのニュースから目が離せない日が続きました。

各国の渡航規制や入国規制が出るたびに、仕事を依頼してくれている旅行エージェントからキャンセルの知らせが入ります。ツアーの予約で一杯だった私のスケジュール表は日を追うごとに空欄が多くなり、3月半ばにアメリカとヨーロッパの国々が、全ての国からの入国禁止を発表した時点で、私だけでなくほぼ全ての通訳ガイドの4月のスケジュールが真っ白になりました。

よりによって桜の季節

通訳ガイドが一年で一番忙しいのは、3月から4月、桜の季節です。開花する3月中旬から4月にかけて、全国の通訳ガイドはほとんど毎日のようにツアーに出掛けていきます。

紅葉の秋も行楽シーズンですが、何と言っても桜を見に来るお客さまの数は比較にならないくらい多いのです。それはきっと、長い間政府が日本を海外に宣伝するポスターに桜と富士山を使ってきたからなのでしょう。

ですから、一年でこの時期だけ通訳ガイドが足りないということが毎年のように起こり、全国通訳案内士試験を合格したばかりの新人ガイドには貴重なデビューの機会となっています。仕事が集中するこの2カ月ほどの間に、多くのガイドは年収の30~50パーセントを得ています。今回の新型コロナ感染拡大の被害が甚大なのは、よりによってこの一番の稼ぎ時の桜の季節に合致してしまったからなのです。

訪日依存100パーセントの悲劇

訪日観光で潤ってきた産業は他にもあります。ホテルなどの宿泊業、そして旅行会社や免税ショップなども今大打撃を受けています。しかし、統計によると宿泊業全体のインバウンド依存率は17.4パーセント、旅行会社では4.6パーセントですが、通訳ガイドの場合は収入の100パーセントがインバウンドによるものなので、海外から旅行者が来ないということは、全く無収入になるということなのです。

ごく最近になるまで、通訳ガイドの仕事だけで生計を立てるのはとても困難でした。それは年間を通じて仕事があるわけではなく、安定した収入が保証されていないからです。それがここ数年前から訪日のお客さまが急増したため、状況が一変し、新しい人たちでも適性のある人は ぜいたくをしなければ専業でやっていけるようになってきていました。

そこへこの大打撃ですから、事態が長引けば、ようやく育ち始めたインバウンドの将来を担う若い世代の通訳ガイドが転職をやむなくされる危機的な状況になります。

国会議員に陳情の日々

今私たちが行っているのが、政府にこうした現状を知ってもらい、経済的な支援をお願いすることです。私も協同組合 全日本通訳案内士連盟という千人を超えるメンバーのいる団体の長として、要望書を書き、毎日のように国会議員さんと面談をしています。同時にメディアにも取り上げてもらい、訪日観光の最前線で貢献しながらも、世間であまり知られていない私たちの職業の持つ社会的な役割とその存続の危機を知ってもらう努力をしているところです。

来年に延期が決まった東京オリンピック・パラリンピックに、「信頼できる通訳ガイドが足りない」という事態にならないように。


文: 松本美江 (全国通訳案内士)

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