動き始めた日本の「医療通訳認定制度」

医療通訳認定制度

医療通訳の認定制度が実現に向けて動き出しています。これまでの動きや課題、また今後の展望を、国際医療福祉大学医学部の押味貴之さんに解説いただきます。


オレゴン州の医療通訳認定制度

米国オレゴン州のポートランド市には”Keep Portland Weird” というスローガンがある。独特な都市開発で近年魅力を高めている同市だが、2000年代初頭に医療通訳の分野でも独自の制度を生み出した。当時米国で医療通訳の認定制度があったのは、シアトル市があるワシントン州のみ。その後他の州にも広がり全米規模になったが、私が興味を持ったのはスローガンの通り、独自のコンセプトで制度を設けようとしたポートランド市の取り組みだ。

当時のワシントン州は、筆記と実技試験だけで認定が受けられた。トレーニングの有無に関わらず試験結果だけで認定を与える制度は、認定医療通訳者の数を確保しやすい反面、医療通訳の質の保証が難しい側面がある。しかし当時から専門家の間では「試験よりもトレーニングを優先すべき」という意見があり、試験のみでの認定には批判的な声が多くあった。その声を反映する形でポートランド市から提案されたオレゴン州の認定制度は、60時間以上のトレーニングと25時間以上の実務経験を必須とする、当時としては要求水準の高い制度であった。

動き始めた日本の制度

在住外国人および訪日外国人の増加に伴い、日本の医療現場でも一定の品質が保証された医療通訳者の需要が高まっている。これに対処すべく、2014年に厚生労働省は「外国人患者受入れ環境整備推進事業」として、医療通訳者およびコーディネーターの配備による拠点病院の構築を開始した。

2017年にはカリキュラムの基準テキストを作成して実施規定を提示。そして「医療通訳の認証のあり方に関する研究」を引き継ぐ形で「医療通訳認証の実用化に関する研究」が実施され、制度の実用化に向けた方法が提示された。

これまで何度も立ち上がっては消えてしまった認定制度が、ようやく実現化しようとしているのだ。

医療通訳認定制度の概要

認定制度実現に向けて国際臨床医学会の制度委員会の部会(医療通訳士認定部会)が発足し、医療通訳士認定制度の準備を進めている。この制度では試験認定実務認定という2つの資格に加え、医療安全向上のための講習会を計画している。

試験認定としては実施団体の募集要項を公開。適格と認定された試験(国際臨床医学会認定医療通訳試験)に合格した者は、「国際臨床医学会認定医療通訳試験合格者」と認められる。

そして合格後1年以内に講習会を受講して部会に申請。審査を経て「国際臨床医学会認定医療通訳士」として認定される。登録有効期限は4年で、継続には更新手続きが必要となる。

実務認定は医療通訳の実務経験はあるが、諸事情で試験認定が困難な人を対象にする。講習会を受講後、医療通訳の実績を提出し、審査に合格すると国際臨床医学会認証医療通訳士として認定される。こちらも4年毎に更新が必要だ。

試験認定は、先ほど紹介した医療通訳育成カリキュラム基準に沿うため、トレーニングを受けずに合格するのはかなり難しいだろう。オレゴン州の認定制度と同じように「試験よりもトレーニングを優先すべき」という発想があるのだ。

残されている多くの課題

ようやく実現化にめどはついたが、課題は数多く残っている。試験認定だけでも、英語や中国語といった言語はともかく、ベトナム語やミャンマー語などの希少言語に関する試験は実現できるのか。さらには、地方でも実施できるのか。また通訳はできるが日本語での筆記試験を苦手とする受験者が不利にならないような試験を準備できるか。試験運営で妥当性と信頼性を確保できるのか。

妥当性とは「医療通訳に必要な知識・技術が評価できる試験なのか」、信頼性とは「条件や場所が変わっても同じような基準で運営可能か」を表すが、複数の試験が実施される場合、その妥当性と信頼性をどこまで標準化できるかを判断するにはさらなる議論が必要だ。

実務認定に関しても、試験認定と内容や難易度で乖離が生まれないかという問題がある。書類審査は「妥当性(医療通訳に必要な知識・技術を評価する審査であるか)」と「信頼性(審査官が変わっても同じ基準で運営可能か)」を確保する必要がある。講習会は、その費用負担を医療通訳者自身に負わせるだけのメリットがあるかどうか、地方での実施や研修先の確保などの課題が残る。

医療通訳者の待遇改善につながるかどうかがカギ

最大の課題は、医療通訳者の待遇改善につながるか。制度により認証された「国際臨床医学会認定医療通訳士」を使った医療通訳が医科診療報酬の対象となれば、医療通訳者の待遇改善につながると考えられる。そのためには、この制度で認められた医療通訳者が現場で評価されるだけのパフォーマンスを発揮することが大切になる。やはり「試験よりもトレーニングを優先すべき」という発想が重要なのだ。

ポートランド市は私の故郷である札幌市と姉妹都市で、2019年は両市の姉妹都市提携60周年となる記念すべき年でもあった。私自身も医師としてはかなり「異質」のキャリアを歩んできたわけだが、来年は久しぶりにポートランド市を訪れて、もう一度”Keep Portland Weird“のスピリットに触れてみたいと思っている。


文: 押味貴之(英語医療通訳者・医師)
イラスト: つぼいひろき

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