広域の観光情報提供が、訪日客を地方に分散させる鍵

広域の観光情報提供が、訪日客を地方に分散させる鍵

旅行者はもちろん、地域の観光案内に携わる人にもいい効果となるアイディアを、全国通訳案内士の島崎秀定さんが提案します。


多言語での案内が普及

私は全国通訳案内士として10年前から海外のお客さまを案内していますが、下見のためによく地方都市を訪れます。そんなときに必ず立ち寄るのが各地の観光案内所ですが、この10年で大きな変化を感じます。

改善されたと感じる点は、多言語での対応です。10年前には外国語のパンフレットは英語ですらあまり置かれていることがなく、外国語を話せるスタッフもほとんどいませんでした。それがここ数年、数種類の言語でパンフレットが置かれていたり、多言語を話すスタッフが常駐していたりするのが珍しくなくなりました。また、各地の観光協会や観光課のウェブサイトを見ても、アジア各国や英語以外の欧州の言語のページが増えてきました。これは大変好ましい変化だと思います。

狭い範囲に限られた情報

その一方でまだ不十分だと感じるのは、情報提供がその観光案内所周辺の狭い範囲に限られてしまっていることです。例えば、A県B市の観光案内所に行くと、A県全体のパンフレットは置いてあっても、同じ県内のC市のパンフレットはあまり見掛けません。ましてや隣のD県E市の情報などは、まず得られることはありません。もちろん、狭い案内所のスペースの中で、そんなにたくさんのパンフレットを置くことは現実的ではないかもしれません。

しかし、県は違っても、B市を訪れた後、多くの観光客が移動しやすいルートに沿ってE市を通過することは多々あります。もしかしたらE市には素晴らしい観光スポットがあるかもしれません。それなのに、情報がないと素通りしてしまいます。

新たなルート開拓の動き

皆さん、「ゴールデンルート」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。東京→富士箱根(→名古屋)→京都→大阪という、いわば王道の日本観光ルートです。初めて日本を訪れた人に人気のルートですが、観光庁では数年前から「訪日旅行客の地方分散化」をうたい、新たなルート開拓や地域への観光客誘致をしようとしています。しかしながら、まだまだ大都市集中の傾向は続いています。

飛騨高山の成功事例

そんな中で成功しているルートの一つが、「サムライルート」あるいは「ドラゴンルート(昇龍道)」と呼ばれるものです。前者は、名古屋あるいは松本を起点に、飛騨高山→白川郷→富山→金沢といったエリアを訪れるコースです。後者は、愛知県、岐阜県、富山県、石川県の4つの県と交通事業者が集まってプロモーションするルートで、専用のホームページを公開しています。

また、飛騨・高山観光コンベンション協会の英語サイトは、自分の地域の観光情報だけでなく、Neighborhood highlights というページを設け、県内外に関わらず周辺の地域の観光情報も提供しています。

一見すると「他県の観光地を紹介したら、そちらにお客が流れてしまうのでは」と思われるかもしれませんが、実際には「周辺にこれだけ見どころがあるのであれば、連泊してじっくり周辺を観光してみよう」ということになり、自分たちの地域の宿泊数の増加につながるでしょう。あるいは「東京からは遠いな」と思って行くのを諦めていた人が、「名古屋や金沢から近い」ということを発見して、名古屋や金沢を起点としたルートを検討することにもつながるでしょう。

外国人にとっては都道府県の区分など関係ありません。観光客の目線で見た、広域の情報提供が訪日客を地方に分散化する一つの鍵ではないでしょうか。


文: 島崎秀定 (全国通訳案内士)
イラスト: つぼいひろき

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