子どもの好奇心を大事にし、21世紀をハッピーに生きていける自律型学習者を育てる

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変化し続けている社会を生きていくために、これからの子どもたちはどのような学びが必要なのでしょうか。またそのために保護者ができることはどんなことなのでしょうか。『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP社)、『「教えない授業」の始め方』(アルク)の著者・山本崇雄先生に教えていただきました。


「やりたい」「知りたい」という気持ちから自律型学習者が育つ

――「教えない授業」はどのような目的で始められたのでしょうか。

山本 「教えない授業」は、さまざまな課題に果敢に挑むことができる自律型学習者を育てることを目的に作り上げた授業スタイルです。僕は今の学校教育において最上位に目指すべきなのは自律型学習者を育てることだと考えているのですが、そう考える一番の理由は社会の変化です。

現代はものすごい勢いでAI化していて、10年後には今存在する職業の半分くらいがなくなると言われています。また地球上には貧困や不平等、気候変動など深刻な問題が山積しています。今の子どもたちはそういった社会で生きていくことになるわけです。そんな子どもたちに対してできる教育は、彼らの好奇心を刺激して、本当にやりたいことを見つけ、それをつかみ取っていく力をつけさせるとか、課題を自ら発見し主体的に考えることができるようにさせるということなのではないかと思っています。これらは教師が一方的に教える授業では身につきません。

――具体的にはどのようにして自律型学習者を育てるのでしょうか。

山本 「教えない授業」では、教師が一方的に生徒に知識を教えることはしません。たとえば通常中学1年生の授業はアルファベットの大文字小文字を覚えましょう、というところから始まることが多いと思いますが、僕はその前にまず英語を学ぶ目的をじっくり考えさせます。英語は手段です。たとえばトンカチの使い方を学んだとしても、トンカチを使って何を作りたいのか、犬小屋とか机とか、作りたいものがなかったら意味はありません。それと同じで英語のスキルを手に入れても、それを使って何をやりたいのか、目標がないと意味がないでしょう。

実際のところ、中1の始めから「英語を使って何かをしたい」という目的を持って英語を学ぶ子どもはほとんどいないのですが、だからといって子どもがその目的を見つけるまで何もしないわけではありません。たとえば「スカイプ」でインドの貧困層の子どもたちとつながって単語レベルであっても通じ合える喜びを体験させたり、SDGs(国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」)の関連動画を見せて少しでも知っている単語があることに気づかせたり、英語を使えると世界がもっと広がることを伝えて刺激を与えています。

するとそのうちに子どもたちから、「海外の子と話す機会があったときに自己紹介くらいはできるようになりたい」という意見が出てきたりします。子どもたちから「やってみたい」という声が出てきたら、それを拾い上げ、今度は「では『良い自己紹介』とはどういうものだろう」ということを考えさせます。生徒たちから「名前を言いたい」「好きなことを言いたい」「ボーイフレンドがいるのか聞きたい」というようなさまざまな意見が出てきたら、みんなで協力しあってそれを言うための英語表現を教科書などから探します。このようにして子どもたちは教師から教わるのではなく主体的に学んでいきます。つまり「やりたい」「知りたい」という気持ちが生まれるところから自律型学習者が育っていくのです。

自律型学習者を育てるためには、教師も親も思い切って意識を変える必要がある

――今までの授業ではまず教師が、その日に学ぶ単語や文法の入った英文を言い、“Repeat after me.”と言って子どもたちに繰り返させてインプットさせてきましたが、自律型学習者を育てる方法はまったく違うのですね。

山本 日本の先生は良かれと思って生徒が間違えないよう、失敗しないようにレールを敷くのですが、僕はむしろ「どんどん失敗していい、失敗は当たり前だ」というところからスタートすることが大事だと考えています。失敗するのは嫌かもしれないけれど、粘り強くそこから立ち上がる気持ちや、感情をコントロールすることの大切さを学びます。逆に先生の言うとおりにやっていればある程度はできるかもしれないけれど、イレギュラーなことには対応できなかったり、先生から教えられるのを待ったりするような癖がついてしまう可能性があります。「失敗させないように教える」か「失敗させて挑戦させる」か。これは今までの授業と「教えない授業」との大きな違いのひとつです。

また、今までの教育はどちらかというと子どもたちをおなかいっぱいにさせる教育でした。子どもが「おなかがすいた」と言う前に、次から次へと知識や方法を与えておなかをいっぱいにしてきた。僕はその逆で、子どもたちから「やりたいことがあるから、それを実現する方法を教えてほしい」と言ってくるまで教えません。

アメリカの教育者、ジョン・デューイ(1859~1952年)は、「子どもは『発見したい』『作りたい』『表現したい』『コミュニケーションしたい』などの欲求を本来、持っている。それを殺しているのが学校である」と言っています。幼児の時には誰でも触ってみたい、壊してみたい、外を走ってみたい、そういうワクワクする気持ちでいっぱいだったのに、小学校1年になると「おとなしく椅子に座りなさい」と言われ、「今はこれをやる時間だ」と強制され、そして我慢することを覚えされられます。それなのに勉強についてだけは主体的に学びなさいと言っても無理なのではないでしょうか。

だから子どもに主体的に学び、自律型学習者になることを期待するなら、教師の意識も親の意識も思い切って変えなくてはだめだと思います。口うるさく「~しなさい」とガイドしすぎずに待つ。待つのは時に辛いと思いますが、でも子どもを信じて、本来の好奇心に火がつくのを待つことが必要でしょう。

――待つこと以外に保護者にできるのはどのようなことでしょうか。

山本 親が好奇心を持ってやりたいことに真剣に挑戦する姿を見せるのは、意味があると思います。そしてできれば一緒に経験する。英会話を一緒に勉強したり、一緒にプログラミングしたり、何でも良いのです。親が「やりなさい」と怒ることで気持ちに火がつく子はいませんが、親が面白がって夢中になって学んだり取り組んだりしている姿を子どもは見ているはずです。必ず良い影響を与えると思います。「~しなさい」ではなく、「一緒に~しよう」と共に学びましょう。

山本崇雄 先生

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新渡戸文化小中学校・高等学校英語科教諭、横浜創英中学校・高等学校教育アドバイザーのほか、日本パブリックリレーションズ研究所主任研究員、アルクテラスClearコミュニティデザイナー、ゲイトCSR教育デザイナーなど複数の企業でも活動。東京都立両国高等学校附属中学校、東京都立武蔵高等学校附属中学校など25年にわたる公立学校での教師生活を経て2019年度より現職。2017年には日々変化する社会の中でも自律して行動できる子どもが育つ新しい教育のあり方を提案するプロジェクト「未来教育デザインConfeito」を設立。講演会、出前授業、執筆活動を精力的に行っている。検定教科書『NEW CROWN ENGLISH SERIES』(三省堂)の編集委員を務めるほか、著書に『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP社)、『「教えない授業」から生まれた英語教科書 魔法のレシピ』(三省堂)、『学校に頼らなければ学力は伸びる』(産業能率大学出版部)ほか、監修書に「21マスで基礎が身につく英語ドリル タテ×ヨコ」シリーズ(アルク)がある

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「教えない授業」の始め方
山本崇雄 著  アルク 刊

教師が「教えない」ことで、生徒の思考力・問題解決力を伸ばし、自分で考え行動できる自律した英語学習者に育てるための一冊。変化する時代に、リアルな社会で自律してハッピーに生きていく自律型学習者を育てたい、と願うすべての教師のための書。「教えない授業」とは何か、生徒はどう変わるのか。現役の教師だけでなく、教育に携わる方、教育者を志す方にも役立つ内容です。


取材・文: 榎本幸子
写真: アルクplus 編集部

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