【出口治明先生 特別講演】これからのグローバル人材育成を考える

出口治明さん

学生の多様性で突出した存在感を示すAPU(立命館アジア太平洋大学) の出口治明学長に、多様性の時代に求められるグローバル人材について、大学が果たすべき役割、英語の必要性などをお話しいただきました。

これからのグローバル人材育成とは
~新たな時代に大学が求められる人材育成の役割~

【日程】2019年5月31日
【場所】アーバンネット神田カンファレンス


これからの大学を考える――。その前に、出口先生はまず、この「考える」という行為そのものに言及。個人が陥りやすい偏向を排して、フラットに物事を見るには「タテ軸×ヨコ軸で考える」こと、「算数」つまり「数字・ファクト・ロジックで考える」ことが大切だと語ります。

「タテ軸」とは、歴史をさかのぼる時間軸。古今東西の先人の知恵です。対する「ヨコ軸」は地理的な広がりで、世界の人々の考えを知ることです。もう一つの「数字・ファクト・ロジックで考える」は、エピソードや感情に流されず、エビデンスで物事を見るということです。

このタテ・ヨコ・算数という3つのポイントに注意を喚起し、先生は日本の大学を取り囲む、日本社会の現状をどう見るかについて話し始めました。

少子高齢化時代。それは老いも若きも、みんなで社会を支える時代

日本社会が直面する大きな課題は少子高齢化です。となると、「高齢者を支える若者の数が減っている。さあ大変」という議論になりがち。しかし出口先生の切り口は異なります。

「この『若者が高齢者の面倒を見る』、すなわち Young supporting old という考え方は、本当に正しいでしょうか。先に高齢化が進んだヨーロッパでは、みんなで社会を支えて、困っている人に給付を集中させようという、All supporting all が当たり前になっているのです」。

つまり少子高齢化という現象は、所得税と住民票で回る社会から、消費税とマイナンバーがインフラとなる社会への、パラダイムシフト(考え方・価値観の変化)だと見ることができるのです。

少子高齢化に伴い、介護問題も深刻です。介護保険制度における「要介護」とはどういう状態か、先生はシンプルな式で示して見せます。

平均寿命ー健康寿命 = 要介護

「こう考えると、要介護人口を減らすには、みんなの健康寿命を伸ばす以外、解がないということが分かります。そして健康寿命を伸ばす方法を医者に聞くと、異口同音に『働くのが一番』と答えます。だったら、定年の廃止以外の政策はありません」。

先生いわく、「定年廃止は一石五鳥」なのです。

  1. 健康寿命が伸び、要介護が減る
  2. 医療・年金財政がダブルで好転
  3. 年功序列が消え、老いも若きも、意欲・体力・能力に応じて働く社会
  4. 中高年の意欲がアップ。人生100年時代、50歳、60歳は中間地点
  5. 労働力不足の解消

話を聞いて、目からウロコが落ちた人も少なくないのでは?

出口治明さん

出生率が国力を左右。停滞し減速する日本のパワー

そもそも日本の出生率の低迷は、男女差別に起因するところが一番大きいと、先生は指摘します。世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ(男女格差)指数で、日本は149カ国中110位。大胆なクオーター制※で男女格差をなくさないと、女性の社会的地位は向上せず、出生率も上がらないというのです。ここで先生は、シラク大統領(1995年~2007年)時代のフランスの事例を紹介しました。
※男女間格差を是正するために一定数のポジションを女性に割り当てる制度

  • 出生率向上に向けたシラク3原則
    ・産みたいときに産める。経済力が不足している女性には、政府が一定金額を給付。
    ・待機児童ゼロ。社会全体で子どもを育てる。
    ・出産・育児休暇から職場復帰した女性のランクダウンとキャリアの中断を法律で禁止。育児経験は人を賢くし、それは仕事に役立つのです。

このシンプルな原則だけで、フランスの出生率は10余年で1.66から2.0の大台を回復するまで伸びました。

さて、GDPは「人口 × 生産性」ですから、人口の増減は国力を左右します。日本の場合、平成の30年間でGDPの世界シェアは半減。世界の時価総額トップ企業20社中、平成元年には14社を占めていた日本企業は、完全に姿を消しました。また国際競争力(IMD)は、1位から3位まで落ちました。

「日本企業を押しのけてトップ20社に躍り出たのは、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などの新興企業群。GAFAの予備軍ともくされるユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場、設立10年以内の企業)は、アメリカに150~200社、中国に70社、インドに17社、EUにも31社あるといわれています。日本はゼロです」と出口先生。つまりこの30年間、日本はまったく新しい産業を生み出せなかったのです。

出口治明さん

求められる豊かな知識と発想。時代を拓くグローバルパーソンとは?

戦後の日本は、そこそこ偏差値が高く、素直で我慢強くて協調性があり、上司の指示をよく聞く人を一所懸命育ててきました。これらの資質は、製造業の工場モデルで働く人に必要な要素でした。

「ところがGAFAやユニコーンをけん引する人々は、多国籍と高学歴という二語に尽きます。好きなことをとことんやるという意味ではオタクであり変態です。そういうスティーブ・ジョブズのような個性の尖った人が新しい産業を生み出しています。だから世界中の面白い人を集めて、みんなでワイワイガヤガヤ議論する大学を作っていく。これがこれからの教育の根本です」。

教育について、今真っ先に出てくるキーワードは「グローバル」でしょう。

「自前資源がない国は、他国と協調してグローバルに生きる以外ありません。そしてグローバルに活動したければ、好きも嫌いもなく、共通語(リンガ・フランカ)のデフォルトである英語を勉強するしかない。少なくとも幹部になるには、TOEFL iBTで100点は必要です」。

一方、先生は知の基盤づくりを料理になぞらえて、「知識 = 材料、考える力 = 調理の力」だと語ります。良い材料と調理の技がおいしい料理を生み出すように、「おいしい人生」づくりには「知識 × 考える力」が欠かせません。では、「考える力」はどう鍛えればいいのでしょう?

「レシピを参考に料理をするように、考える力もはじめは先人の発想をまねるところから始まります。デカルト、アダム・スミス、アリストテレスなど、考える力が強い人の本を読み込んで、思考のプロセスを丁寧に追体験し、まねをする。それがいわゆるリベラルアーツです。知識を広げ、考える力を鍛えれば、偏見や社会常識から解き放たれます。AI社会やグローバル化が進めば進むほど、知識を得るのは簡単になっていくので、その分考える力がますます重要になっていくでしょう」。

出口治明さん

いつでも、誰にでも開かれた自由な大学を目指して

外国人との会話に、政治や宗教を持ち込むのはタブーだという話を聞いたことがありませんか。出口先生によるとこれは誤りで、「日本人の知識量が圧倒的に乏しく、考える力がないので、外国人が政治や宗教の話を避け、無難な会話にレベルを下げていることが少なくない」というのです。

もちろん日本人が知的に劣るわけではなく、教育や社会の仕組みが間違っているというのが、先生の見立てです。平成の30年間、日本の正社員の労働時間は2000時間強で、これは全く減っていません。家に帰れば「メシ・風呂・寝る」で、本を読む時間さえない。そこで先生が提案するのが、「メシ・風呂・寝る」に替わる、「人・本・旅」という生き方です。職場から早く帰って、さまざまな人と会い、本を読み、いろいろな場所へ出かけていく。そうして刺激を受けることで、新しい発想が生まれやすくなるのです。

大学にも、社会と大学を行き来しながら、常に知識をアップデートし、学び続けるリカレント教育が期待されます。APUでは学生数約6000人中、およそ3000人が92の国や地域から集まっているといいます。社会人のリカレントにも、こうしたグローバルな教育環境を活用してほしいと、言葉に熱がこもりました。APUでは、GCEPという2カ月、4カ月の社会人向けリカレントコースを用意しています。

「カイロのアズハル大学は、970年にまで起源をさかのぼる、世界最古の大学の一つですが、当初から『入学随時、受講随時、卒業随時』を掲げていました。勉強したければ、いつでも誰でも大学に来て、腹落ちするまで勉強すればいい。賢くなったと思ったら好きな時に出て行って、また学びたいことができたら戻ってくればいい。これが究極の大学の姿です。その理想が1000年以上も前に掲げられていた意味を、われわれは考えなくてはなりません」。

この言葉を参会者それぞれの立場でかみしめつつ、講演は終了しました。

出口治明さん

出口治明 (でぐちはるあき)
APU(立命館アジア太平洋大学)学長。学校法人立命館 副総長・理事。還暦でライフネット生命を開業し、社長・会長を10年勤めた。著書に『全世界史(上下)』(新潮文庫)、『0から学ぶ「日本史」講義(古代篇、中世篇)』(文藝春秋)、『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎新書)他。
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文: 田中洋子
写真: 横関一浩

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