『接遇英語のプロが教える「出だし」だけ+ジェスチャーから始めるおもてなし英語』の著者で、おもてなし英語の研修やセミナー講師を務める中野美夏子さんが、英語で接客するためのヒントをお届けする後編です。
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さらにストレスフリーなおもてなしへ
前回、「ストレスフリーなおもてなし」への第一歩として、海外からのお客さまと接する際には「異文化を知るって楽しい」という感覚を忘れないでくださいとお伝えしました。とはいえ、コミュニケーションの手段の一つである「英語表現が口にできない」と、どうしてもストレスを感じてしまいますよね。
そんなときはなるべく早く、言葉が出ない理由を相手に伝えることが大切です。相手の英語が聞き取れなかったのであれば、”Excuse me, but could you (say that again), please?”(申し訳ありませんが、もう一度おっしゃっていただけますか?)と言ってみましょう。
単語の意味が分からなかった場合は、その単語を復唱して語尾を少し上げると、「○○はどのような意味ですか?」というメッセージが伝えられます。そうすれば相手はもう一度ゆっくり言ってくれるでしょうし、何か他の単語で言い換えたり図を描いたりして、こちらが理解できるように助け船を出してくれるはずです。
さらにこんな時は……
単語がはっきり聞き取れなかった場合も諦める必要はありません。聞こえた通りに単語をまねたり、最初の音だけでも口にできれば、相手がどの単語が不明瞭なのかを察してくれるはずです。
相手の言っていることは分かっても、英語でどう答えたらいいか分からなくて黙ってしまうこともありますね。その時は”I’m sorry but (I only speak) a little English.”(少ししか英語が話せなくて)と伝えましょう。この場合も相手の方からコミュニケーションが続くように助けてくれるか、それほど重要なことでなければ気にしなくていいですよ、と流してくれると思います。いずれにしても印象が悪くなることはありません。
さらに、英語の問題ではなく、日本語でも答えられないケースはあるでしょう。この場合、”I don’t know.”(分からない)でも意味は伝わりますが、言い方によってはコミュニケーションを断ち切ってしまう可能性があるので、”I’m not sure.”(分かりかねます)という柔らかい表現がお勧めです。「分からないのでは仕方ない」と相手も納得するでしょう。
このように「コミュニケーションが止まってしまう」状況にも、実はいろいろな事情があります。それを少しでも早く相手に伝えることで状況が改善し、ストレスを回避できます。
Noは我慢せず、でも柔らかく
マナーが悪いお客さまへの対応に悩む現場も増えているようです。具体的には、飲食店に他店のものを持ち込んで堂々と召し上がる、大量のゴミを残す、商品を勝手に箱から開けてしまう……などなど。想像しただけでも大変ですが、「英語に自信がないし、注意してもやめてくれないので、そのまま我慢しています」という話もよく伺います。これではストレスがたまってしまい、笑顔で対応などとても難しいのではないでしょうか。
“No.”(ご遠慮ください)のメッセージは我慢せずに伝えましょう。ただし、伝え方には十分な配慮が必要です。まず、もう一度その行為がそのお客さまの文化でも「マナー違反なのか」を考えてみます。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。お客さまの文化では受け入れられていることで、 悪気があってしたことではないかもしれません。だとすれば、いきなり強い口調で”No! No!”と言われたらお客さまもショックを受けてしまいますね。”No.”のメッセージには必ずクッションを添えましょう。
私がお勧めしているのは、”I’m afraid …”(恐れ入りますが)というクッション言葉です。あまりなじみのない表現かもしれませんが、その後にくるネガティブなメッセージを柔らかく伝えることができます。”No.”は我慢せず、クッションを添えて柔らかく、が「おもてなし」を提供しながらストレスをためないコツです。
楽しく思い出に残る交流を
これまでご紹介した、「異文化を知ることを楽しもう」「なぜコミュニケーションが止まってしまったかを伝えよう」「Noは我慢せず、柔らかく伝えよう」という3つのヒントで、おもてなしでのストレスが減り、皆さまにとって海外からのお客さまとのコミュニケーションが楽しく、思い出深いものになりますように願っています。
文: 中野美夏子
イラスト: つぼいひろき