英語教師 Naoのケニア授業日誌: 第4回「伝えたい」という気持ちが生み出す言語教育の可能性

コイノニア

ケニアのスラム街に住む子どもたちが通う学校「コイノニア」を訪れた飯塚直輝先生(鎌倉学園中学校・高等学校)が、授業を実践。日本とケニアの子どもたちの反応の違い、発見したことなどをレポートします。


皆さん、忘れていませんでしょうか、僕が英語の教員だということを。自分でも忘れてしまっていたほど、この連載では英語について書いていませんでしたので、今回はケニアで行なった英語の授業実践について報告をしたいと思います。

コイノニアの生徒たちの英語力

ケニアは国語がスワヒリ語、公用語が英語で、英語教育に力を入れています。そのため、子どもたちにとって英語を話す・書くのは、難しいことではありません。スラムに帰れば、親が英語を話せないこともあるため、コイノニアに通う子どもの方が正確に英語を話せる場合もあるくらいです。

テレビ番組や学校ではSpelling Beeという、英語のスペリングを限られた時間内で正確に言うゲームが行なわれています。授業でも、自分の考えを英語で伝えたり議論したりする機会が多く、一般的な日本の生徒と比べても、英語のレベルは非常に高いように思えました。

そんな中で僕が英語の授業を行うことになったので、コイノニアの子どもたちにとって僕の授業は簡単過ぎるのではないか少し不安でした。

「伝わってうれしい」気持ちが笑顔を作り出す

まず挑戦したのは、Word Explanation Gameです。これは和田玲先生(順天中学校・高等学校)に教えてもらったペアワークで、日本の授業でもよく行っています。Information Gap※を利用したこの活動は、中学1年生から高校3年生まで楽しんで取り組めます。

※聴き手と話し手の間に情報の差があり、その差を埋めるために情報共有を必要とすること

ペア(Aさん、Bさん)を決め、Aさんのみが黒板に示されたお題(絵、写真)を見て、それが何か英語で説明します。定義、色や形の特徴、どんな時に使用するかなど、思いつく限り言葉にしていきます。Bさんは、Aさんの説明をよく聞いて、何を説明しているか当てなければいけません。自分は分かっているのに、相手は分かってくれないもどかしさや、意図が伝わったときのうれしさを感じることができます。

ケニアでは「キリン」や「カンガルー」の身近な動物から始め、「コーヒー」や「靴下」など少しずつ難しいお題を出していきました。「サンタクロース」のお題に苦戦する子もいましたが、正解できたときのうれしさはどの国でも同じようで、笑顔でハイファイブをしていて、本当に楽しそうでした。小学生から高校生までの授業で実践させてもらい、小学生は正解したらぴょんぴょん跳ねて喜ぶほど、大興奮してくれました。

コイノニア
お題を当てたことを祝ってハイファイブ!

女子の目がハートになる活動!?

Movie Explanation Gameは、牛来正之先生(磐城緑蔭中学校・高等学校)の実践を参考にさせていただきました。

教師は1~2分のテレビコマーシャル(以下CM)をペアに半分ずつ見せ、内容を話し合わせます。これもInformation Gapを利用した活動です。ポイントは、素材にするCMを“ただのCM”にしないことです。半分見ただけでは物語の全貌が分からないものを選び、2人が情報を共有することで明らかになるものを選ぶ必要があります。

ケニアで使ったのは、Extra GumのCM。簡単に内容を説明すると、大学で出会った男女が機会あるごとにガムを一緒にかみ、キスをする。彼女にガムを渡すたび、彼氏は包み紙に何か描いていく。大学を卒業してからも、付き合う2人の間には常にガムがあり、ガムと共に思い出を重ねていきます。ここで前半は終了です。後半ではその包み紙に描かれていたものが、何か明らかになるのです……。

日本でこの動画を見せると、男子中学生は目を覆いながらも指の隙間からこっそり見て興奮し、男子高校生は体をうねらせ喜び、女子高校生は目がハートになり「私もこんなふうに告白されたい」とうっとり感想を言います(笑)

ケニアではどうだったかというと、それぞれの反応に関しては日本と全く同じでした(笑)。もちろん、彼らは日本の子どもたちよりも英語で説明するのが上手なので、物語を理解するのは早かったです。興味深かったのは、ケニアの子どもたちは英語で詳しく描写ができる分、「物語の起承転結」や「オチ」に焦点が当てられていない淡々とした説明が多いように感じました。対して、日本の子どもたちは細かい説明はできないのですが、最後のプロポーズに焦点を当てた説明をできることが多かったです。英語を流ちょうに話せないからこそ、話の要点を示せることもある、という発見ができました。

コイノニア
恥ずかしそうに説明をする中学生

“What will happen next?”

最後に僕のオリジナル教材です。数あるCMの中には、オチやメッセージが秀逸なものがあります。また、そのオチやメッセージによって売り込みたい商品が明らかになるような優れたCMもあります。

授業ではオチの直前まで見せ、その後何が起こるかを予想。その後の展開とオチを絵で描写し、どんな商品を売るCMなのかをShow and Tellの形で説明させます。おのおののアイデアを共有したところで、CMを最後まで見せます。

この活動で面白いのは、子どもたちのアイデアを共有していく中で、実際のCMよりも、生徒たちがさらに面白いアイデアを出してくることです。説明では、たどたどしい英語でも、アイデアが良ければ、全員が耳を傾け、大きなリアクションをしてくれます。必ずしも英語ができる生徒だけが活躍するわけではないのです。

コイノニアで行なったところ、これも大好評でした。商品の予想では日本の子どもたちと同じものを挙げることが多かったのですが、日本(鎌倉学園)はウケ狙いの商品予想が多かったのに対して、コイノニアの子どもたちは真面目に予想をしてくれました。商品のオチが分かった瞬間にはみんなで大爆笑。これは日本と全く同じ反応でした。

コイノニアCMのオチにくぎ付け

「言葉のリアリティー」の可能性

今回の実践で分かったことは、日本でも、ケニアでも、「誰かに伝えたい」思いは、子どもたちをやる気にさせるし、だからこそ伝わったときの喜びは増すということです。逆に「伝わらなくて悔しい」という気持ちが生まれるのも、この「伝えたい」という思いがあるときに限ります。

「伝えたい」という思いを持って発せられた言葉は、「言葉のリアリティー」を持ちます。自分だけが知っていることを相手に伝えたい思い、自分のアイデアを共有したい思い、そういった思いを授業の中で作り出すことができれば、言語教育はもっと楽しく、本質的になるのではないでしょうか。

コイノニア授業後に子どもたちからもらった手紙

新校舎建設のための、学校運営の募金にご協力ください

NPO法人 ケニア・コイノニア友の会ジャパン
お振り込み先:
ウェブサイトから>>
・郵便局振替口座 00110-3-291395
・三菱UFJ銀行 板橋支店 0117029

※認定NPOを取得しましたので、所得税控除の対象となります。銀行からのお振り込みは、住所とお名前(団体は正式名称)をメールでお知らせください。領収書をお送りします。
koinonia.kenya.j@gmail.com

http://www.kirakame.sakura.ne.jp/amaniafrica/
コイノニアエデュケーションセンター

第5回 “I still say YES to life.”>>


文・写真: 飯塚直輝先生(鎌倉学園中学校・高等学校 教諭)
2010年より同校に勤務。2014年からESS同好会「鎌倉学園ESS」の顧問を務める。“言語を通じて、生徒の心を揺さぶり、人間的な成長を促す”をモットーに、授業のみならず学級運営や特別活動などにおいても、常に生徒の表情の変化が絶えない実践を目指し奮闘中。

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