伝統文化と下町情緒が色濃く残る文京区の、新たな訪日客対応とは

文の京まちなか観光案内人

由緒ある庭園や史跡が数多く点在する文京区。平成30年度にインバウンド歓迎戦略を掲げ、さまざまな取り組みに着手しました。文京区アカデミー推進課 観光担当に話を聞きます。


――観光という視点から見た文京区の特徴について教えてください。

文京区 文京区は、江戸時代の大名庭園だった小石川後楽園や六義園などの庭園が有名です。また、夏目漱石、樋口一葉、石川啄木、森鴎外をはじめとする文人に関する史跡など、歴史を感じさせる観光施設が数多くあります。区内には19もの大学があり、教育機関や研究施設が点在する教育・学術の街という側面も持っています。

花の名所も多く、年間を通じて区内各地で美しい花が咲き誇ります。中でも小石川・播磨坂さくら並木で行われる「文京さくらまつり」、根津神社の「文京つつじまつり」、白山神社の「文京あじさいまつり」、湯島天満宮の「文京菊まつり」と「文京梅まつり」は、「文京花の五大まつり」とされ、毎年大勢の人でにぎわいます。

文京シビックセンターのある後楽園周辺は都会的な景観ですが、根津・千駄木は下町風情が色濃く残っており、そうした街並みの対比も面白いと思います。地形的には、坂が多いのが大きな特徴です。区内が5つの台地に分かれ、それぞれの端が急な崖や坂になっているんです。名前の付いた坂だけでも115あり、無名の坂を加えると1150にも上ると言われているんですよ。

文京区は山手線の中にすっぽりと収まっており、区内にはJRの駅が一つもありません。その代わり、地下鉄6路線の駅が18あり、区外の観光地をめぐった際にもお立ち寄りいただきやすいのではないかと思います。

――のんびり街歩きをするのが楽しそうな地域ですね。在住外国人と訪日客向けに、英語のガイドツアーも行っていると聞きました。

文京区 はい。平成21年ごろから年6回ほど、英語観光ガイドによるツアーを実施しています。湯島天満宮や小石川後楽園、東京大学、根津神社など、外国人に人気のスポットを訪れる2時間ほどのウォーキングツアーです。各施設への入場料を除き、参加費は無料です。

おりがみ会館英語観光ツアーでおりがみ会館に。近年、外国人の来館者が増えている

英語観光ガイドは、平成19年度から26年度まで区で募集と育成を行い、現在は30名ほどに登録・活動いただいています。現在は東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を見据え、東京都と連携して「外国人おもてなし語学ボランティア」の育成事業を展開しています。こちらは、街中で困っている外国人を見かけた際などに、簡単な外国語で声を掛け手助けしていただくボランティアです。

――平成30年度からは、さまざまなインバウンド施策を新たに展開されているそうですね。

文京区 はい。2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向けて、文京区でも訪日客の受け入れ体制を整えていくべく、平成30年度はインバウンド歓迎戦略を重点事業に掲げました。「文の京(ふみのみやこ)まちなか観光案内人」「日本文化体験三昧」「花の五大まつり英語観光ツアー」を三本柱としています。

――「文の京まちなか観光案内人」について教えてください。

文京区 文の京まちなか観光案内人は、観光ガイド、外国人おもてなし語学ボランティア、大学生などが3人1組になり、訪日客を案内するものです。毎週土日に法被を着て根津・千駄木エリアを巡回し、困っていそうな方がいたら声を掛けます。「この場所への行き方を教えてほしい」というようなちょっとした質問が多いですが、時には「根津神社を案内してほしい」などのリクエストもあり、その際には文の京まちなか観光案内人が一生懸命に案内してくれます。

3人のうち必ず1人は英語が話せるようにチームを組んでいますが、翻訳機を携帯しているので、英語以外の言語にも対応することができます。

文の京まちなか観光案内人

根津・千駄木は外国人に人気のエリアで、中でも欧米系の方が目立つように感じます。文の京まちなか観光案内人がこれまでにご案内した人数の内訳も、多い順にアメリカ、フランス、中国となっています。「案内してもらってよかった」「うれしかった」という感想が聞かれ、区としてもうれしく思いますね。

――大学生も含めてチームを組むというのは、面白い取り組みですね。

文京区 区内の大学には観光を専攻している学生さんもいるのですが、学んだことを実践する場がないという声がありました。ですので、この活動を実践の場として活用していただければと思っています。ただ、就職活動などで参加できなくなってしまう方もいます。現在は各大学にチラシを置いていただくなどして学生さんからの応募を受け付けていますが、今後はより積極的に募集していく予定です。

――その他の事業についてもお聞かせください。

文京区 「日本文化体験三昧」は、根津・千駄木エリアにある地域コミュニティーセンター、不忍通りふれあい館を拠点に、さまざまな日本文化を体験していただく事業です。これまでにあめ細工や折り紙、茶道の体験を実施しており、いずれもその道のプロが説明をしてくれます。当日ふらりと気軽に参加していただけます。

茶道体験茶道体験の様子。近隣の宿泊施設にチラシを設置した

「花の五大まつり英語観光ツアー」は、花の五大まつりの時期に合わせて、事前申し込み不要のツアーを実施するというものです。先にお話しした英語観光ツアーは基本的に事前申し込み制なのですが、当日その場で参加できるようにすることで、より多くの方をご案内できるのではと期待しています。

――外国人観光客への情報提供は、どのように行っていますか。

文京区 区の観光協会が、区内の名所やレストランを紹介する冊子を英語、日本語、中国語、ハングルで作成しています。文京シビックセンターの1階には観光インフォメーション(観光協会)を設けており、翻訳機能付きタブレット端末を置くなどして、多言語に対応する態勢を整えています。

ただ、ウェブサイトやSNSでの発信については、今後の課題と言えるかもしれません。現在、区のホームページは自動翻訳機能を使って英語、中国語、ハングルに対応しています。ほかにTwitterとFacebookのアカウントを設けていますが、どちらも日本語のみです。観光で日本を訪れた方が区のホームページやSNSをどれだけ見るだろうかという点については判断しづらい面もあり、なかなか積極的に発信できていないのが現状です。

――区民や区内の店舗に向けて、外国人受け入れのためのサポートは行っていますか。

文京区 区民向けに、「日本語でおもてなしレベルアップ交流会」を開催しています。街中で外国人を見かけて「力になりたい」と思っても、実際は英語が苦手なために助けてあげられず、歯がゆい思いをしている方も多いようです。そこで、区内の日本語学校と連携し、外国人に伝わりやすい「やさしい日本語」で案内する方法を学べる講座を企画しました。今年1月にも開催しましたが、参加者からは「短い会話でも楽しくコミュニケーションがとれた」「講義で学んだことをすぐに実践できてよかった」などの感想をいただいています。

日本語でおもてなし

店舗向けには、ウェブサイトや看板、メニューブック、冊子といった店舗ツールの多言語化に要する費用の一部を補助する制度を設けています。平成29年度からは、店舗のWi-Fi環境整備にかかる初期費用も対象となりました。また、「外国人おもてなしセミナー」を開催し、事例を交えながら外国人客に対する接客方法のポイントや役立つツールなどをお伝えしています。来年度は、キャッシュレス決済用端末の導入を促進するためのセミナーも開催します。

――インバウンド施策に関して、今後はどのような取り組みを予定されていますか。

文京区 やはり、訪日客向けの情報発信をどのように行うかが課題です。区内で日本文化体験をした方がその様子をSNSに投稿するなどして、情報が拡散されるような仕掛けを実現できれば、効果があるのではないかと考えています。

区内の観光施設は、その多くが住宅街にあります。そのため、訪日客と区民の双方にとって、よりよい形での受け入れを目指すことが必要となります。日常の何気ない風景も、外国人の目には新鮮に映ることがあるでしょう。そのことが、住民にとっても地域の魅力を再発見するきっかけとなり、引いては地域活性化につながればと思っています。

6月頃に見ごろを迎える小石川後楽園の花しょうぶ


取材・文: いしもとあやこ
写真提供: 文京区

関連記事

  1. ダイバーシティ&インクル―ジョンが求められる日本の医療現場 ダイバーシティ&インクルージョンが求められる日本の医療…
  2. ナポリタンスパゲティに驚くイタリア人 外国人旅行者が日本で行きたい店、知りたいこと
  3. 中野ブロードウェイ 外国人も引きつける「サブカルの聖地」、中野ブロードウェイの魅力
  4. 訪日観光の今 進化する訪日観光、その時通訳ガイドは?
  5. 地理学者の宮口侗廸(みやぐちとしみち)さん 地方都市のインバウンド対応にいかす、地理学者の視点
  6. インバウンド活性 訪日客が喜び、街の活性化につながる取り組みって?
  7. 島崎秀定 ビジネスパーソンも知っておきたい、おもてなしの心得<前編: 欠か…
  8. 異文化交流 日本を訪れた旅行者と交流しよう! ――コミュニケーションのはじめ…
PAGE TOP