大学入試制度、高校・大学の英語教育はどう変わっていくのか【大学のグローバル化 情報交換セミナー開催報告】

2020年度にスタートする新学習指導要項や、大学入試制度の改革など、大きな変化を控えて教育現場ではどのような対応が必要とされるのでしょう。11月に開催された「高校教育課程の変化と大学の取り組み~大学における、英語スピーキングテストと指導~」から、竹内理先生(関西大学)の講演と、スピーキング力の現状・指導についてご紹介したセミナーの一部をお届けします。

高校教育課程の変化と大学の取り組み
~大学における、英語スピーキングテストと指導~

第1部: 高校教育課程の変化と大学における取り組み ―英語教育の視点からー
竹内 理 先生(関西大学 外国語学部 学部長・教授)

第2部: 今後の英語コミュニケーション力の強化の必要性とそれに伴うスピーキングの指導法について
尹英海(アルク Creative Speaking トレーナー・TSST評価官トレーナー・SST/TSST主任評価官・SST試験官)

【日程】2018年11月11日
【場所】ハービスPLAZA貸会議室(阪神梅田駅・JR大阪駅)


大学入試選抜で変わっていくこと

最初に、関西大学外国語学部の学部長・教授であり、中学・高校の検定教科書執筆や英語教育改革に関わるさまざまな委員会などを通して、広く英語教育の場に関わっておられる竹内理先生にお話いただきました。

「学校教育の場において、さまざまな変化が起こりつつあります。大学入試制度では、大学入学共通テスト、英語における民間4技能試験の導入といった改革がありますが、この改革の背後には、知識を蓄えて、テストの時にはき出すだけではなく、いろいろな知識をつなげて、実際に活用していく能力を見たいという考えがあります。また、入試区分の変更も行われ、AO入試が定員制限なしの総合型選抜に、推薦入試が定員の5割まで充足できる学校推薦型選抜に、一般入試が一般選抜へと変わります。全ての入試区分において、知識・技能を問う試験を行えるようになり、加えて多面的・総合的な評価もできるようになったのが大きな変更点です。

小中高校では学習指導要領の改訂があり、全ての校種と教科を貫いて育成すべき3つの柱が示されました。1つ目は、知識・技能の定着。知識と技能が1つにまとめられているということは、覚えた知識を使える力までに育成するということになります。英語なら、例えば受動態について理解し、これをどのような目的と場面で使うのかを判断して、実際に使えるようになることです。

2つ目は、思考力・判断力・表現力の育成です。これは、英語で考えるという意味ではなく、コミュニケーションの場において、目的や場面、状況などに応じて適切に考えをまとめ、形成し、表現することです。

3つ目は、主体的・対話的な深い学びの形成。いわゆるアクティブ・ラーニングであり、相手に配慮しながら、自らの目的と意思をもって英語でコミュニケーションを図る力を養います。

活用するための英語(英語運用能力)の育成にシフトする高校教育

これらの学力観をもとに、高校の英語教育がどう変わるのかというと、“英語を活用する”という観点が徹底されることになると思います。ただし、それはいわゆる英会話教育ではありません。例を挙げると、「共感する」「説得する」「質問する」など、英語を使って何ができるようになるかが重視され、ディベートやスピーチなどの言語活動は目的・場面・状況を重視して高度化されます。

文法はコミュニケーションを支える力の一つとして捉え、意味のある文脈の中で学びます。活用力を測るパフォーマンス・テストも重要な評価方法になります。また、学びの目標設定が高くなり、学習到達目標は、CEFR-A2からB1程度へ、なじみのある英検でいえば、「準2級~2級」から「2級~準1級」へ、高校修了時までに学ぶ語彙も3,000語から5,000語に増えます。

大学側は、こうした高校の新しい学びを理解した上で、入試問題や入学後のカリキュラムを設定する必要があります。英語の活用に重点をおく高校英語教育の変化により、目標としている英語運用力を測定するためには、大学入試に4技能試験を導入せざるを得なくなるでしょう。この試験の導入については、公平性の担保、各種技能試験の対照表の妥当性などの観点から、反対する声もあります。このような視点への配慮も重要ですが、私は導入の是非を議論するよりも前に考えるべきことがあると思っています。それは入試と大学の3ポリシーの整合性です。3ポリシーにあわせて、4技能試験導入の是非を検討し、あとは実施可能性の観点から、民間にするか、自前にするかを各大学・学部が判断すればよいと考えています。

3つのポリシー ~関西大学外国語学部の例~

大学の3ポリシーとは、どんな人間を育てて社会に出すのかという「学位授与方針」(ディプロマポリシー)、これに沿った人間を育てるための「教育課程編成・実施方針」(カリキュラムポリシー)、大学・学部の目的に合致した人材像を志願者に表明する「入学者受け入れ方針」(アドミッションポリシー)から成り立っています。

私の所属する関西大学の外国語学部を例にすると、ディプロマポリシーは、英語または中国語の主専攻言語と、これにプラスしてもう1つの副専攻言語に関して、卓越した運用能力を身に付けることです。これに加えて、言語教育、言語分析、地域言語、異文化コミュニケーション、通訳翻訳の5つの専門領域いずれかに関しての知識と技能を主体的に活用し、考えて、行動する力(これを「考動力」と呼びます)を身に付けることです。

これを実現するために、専門教育課程のカリキュラムでは、1年次に少人数による基礎教育、言語教育を導入し、2年次には全員が1年間の海外留学(専門科目を学ぶ留学)を体験すること、および、3、4年次では、演習科目は8人までの少人数で卒業プロダクトの制作にあたる、などを掲げています。そして、これらに対応する力を担保するために、CEFR B2レベル以上(英検でいえば、準1級以上)の英語運用能力とコミュニケーション力が必要だと考え、これをアドミッションポリシーに反映させ、さらに大規模入試の実施可能性にも配慮して、民間4技能試験のCEFR B2レベル以上のスコア・グレードを有していれば、英語の試験を100点満点とみなす入試制度を取り入れています。さらに国語力、地歴の力、論理思考(数学)を重視することから、このような科目も入試科目に入れています。つまり3ポリシーにあわせて、入試要件を決めているということなのです。

大学入試をどう考えるべきか

このように、育成したい人材やどんなカリキュラムを行うかによってアドミッションポリシーは決まってくるのですから、それにあった試験を行えばよいことになります。求める人材像やカリキュラム運営において英語力を問わないのなら、4技能試験を導入する必要はないかもしれません。もっと大切なものを入試で問えばよいのですから。きちんと3ポリシーに基づいた入試の在り方について考えないから、4技能試験導入の是非論争に振り回されてしまうのです。私たちの経験から言えるのは、変化に対応する際、局地的なことばかり注視せず、まずは大きな枠組みを見ることが大切。大枠が決まれば、何をしなければならないか、といった細かい部分は自ずと決まっていくものです。

3ポリシーに従って、成果確認を検証するシステムも必要です。私たちの場合、費用は学校負担でTOEFL-ITPや中国語検定などによって言語運用能力の伸長を4年間で3回確認。口頭運用能力の測定は、アルクのTSST を利用して2回確認しています。TSSTを採用したのは、出題形式や評価対応などが私たちの求める前提条件(例えば実施の容易さなど)に合致していたからです。さらに、学業の産物として卒業プロダクトの提出、専門プログラムの修了認定を行い、“生きる力”と問題解決能力は1年間の海外留学の修了によって育成・検証されると考えます。

大学ができるのは3ポリシーを出して、教育を行い、成果を検証するまで。その結果、私たちの教育がどう評価されるかは、ステークホルダーである学生本人、保護者、卒業生の入社企業の判断次第。私たち大学は、3ポリシーにあった入試、教育に、しっかりと取り組んでいくだけなのです」。

スピーキングスキル向上のステップ

次に、学校教育の場でも能力の育成が重要となっていくスピーキングの指導について、アルクのスピーキング向上プログラムのトレーナーである尹英海が話しました。

「英語の4技能のうち、学び手にとって最も難しいスキルは何でしょうか。最も易しいのはリーディングで、難しいのはスピーキングであると答える人が圧倒的に多いのです。これは、経験の差が大きく影響されると考えられ、スピーキングの練習量を増やす必要があります。

4技能の仕組みについて説明すると、インプットの技能であるリスニングとリーディングは、“認識”してから“理解”するという2ステップで行われます。アウトプットの技能であるスピーキングとライティングは、“創造”というプロセスを経て“伝達”します。創造とは、何について話したいか、書きたいかを考えるプロセスです。創造ができたら、語彙力や文法力、発音理解という知識を活用して伝達します。

では、プロセスが同じであるスピーキングとライティングの大きな違いは何でしょうか。ライティングは調べたり見直したり、人に確認したりという長い時間をかけて完成することが可能です。一方のスピーキングは即興性が求められます。特に対面の場合、素早く知識を活用して伝達しなければなりません。このスピーキングに必要な“創造、伝達、スピード”の3つの能力のことをOral Proficiency(口頭運用能力)といいます。口頭運用能力とは、スピーキングレベルのことです。従って、スピーキング指導では、口頭運用能力を上げていくところに目標を設定します。

効果的な英語スピーキングのトレーニングとは

では、どのようなスピーキング指導が適切なのかというと、既存の知識を最大限活用して口頭運用力を向上することです。既存の知識とは、語彙や文法知識のこと。スピーキング力の向上を目指すときに、トレーナーは新しい知識を教えません。なぜなら、今持っている知識をスピーキングに生かせていない学習者が圧倒的に多いからです。 そこで、まだ使っていない既存の知識を効果的に使えるように指導していきます。

次に、知識を効果的に活用するとはどういうことかを考えてみます。例えば、「昨日、何をしていましたか」との質問に対し、「私は○○へ行きました」と答えた学習者に、「何の目的で?」「誰と一緒に?」「その後はどうしたの?」など質問を重ねていきます。すると、「私は○○をするために、○○と一緒に○○へ行った後、夕食に○○を食べました」というように、情報量が増えます。

この情報が多いと内容がより明確になり、会話はキャッチボールであるから聞き手の反応の選択肢が増え、より円滑なコミュニケーションが図れます。この時、新しい語彙や文法を教えてはいません。ただ発話の手助けをしただけ。これが今ある知識をより効果的に活用して、スピーキング力を上げていくトレーニングの一例です。

細かなフィードバックを提供する「言語機能別トレーニング」

私たちアルクが実施するスピーキング向上プログラム講義「Creative Speaking」の仕組みについて、もう少し詳しく説明しましょう。最初に、言語機能別トレーニングを行います。言語機能とは言語を使ってできることで、“描写する、叙述する、理由づけする、質問する、比較する、意見を述べる、プロセスを説明する、物・事柄・概念を説明する”などがあります。

コミュニケーションは、これら言語機能の重なり合いです。だから、それぞれの言語機能の目標は何なのかをしっかりと理解することから始め、一つ一つの機能を用いる練習をしていきます。例えば、“叙述する”の目標は、物事を相手に順番に明確に見せていくことです。これを理解した上で、“複数の出来事を並べる”“起きた出来事には必ず付加情報を加える”など、この言語機能を効果的に活用するためのキーポイントを教え、使いこなすためのトレーニングを行います。

言語機能を学んだ後は、フィードバック型トレーニングにより、たくさん発話の練習をしていきます。受講生の発話の後には、必ずトレーナーがフィードバックをします。情報量が少ない人には情報量を増やすためのやり方、流ちょうさがない人にはまず単文で話すことから始める助言をするなど、持っている力に合わせて、知識をさらに活用して口頭運用力を伸ばすためのアドバイスをしていきます。

このプログラムでは、アカデミック・カンファレンスを始めとする、英語がコミュニケーションとして必要な環境にいる方々のスピーキング力向上のサポートをしていますが、「プレゼンだけでなく質疑応答に対応できるようになった」といった効果を実感する声も頂いています。

言語機能の向上を測るテスト、TSST

最後に、アルクが提供しているスピーキング力を図るためのテスト、TSST を紹介します。アメリカの口頭運用力テストACTFL OPIをベースに開発したもので、電話を利用して口頭運用力を図ります。ACTFL OPIと異なるのはレベル設定で、日本人学習者に多いレベルを細分化し、正確な評価ができるようになっています。評価の仕組みは、①言語機能、②さまざまな内容と場面設定、③構文力、④語彙や文法、発音などの正確性、という4つの評価基準をもとに総合的に評価するものです」。

「定期的にテストで会話力のレベルや弱点を客観的に把握すると、さらなる成長につながる」と、多くの企業や大学が、受験を勧めています。日々の学習の効果も実感できるでしょう。

本セミナーについて、参加いただいた方からは「小中高大のあらゆる状況を再確認でき、今後の教育活動を考える機会になった」「スピーキング力を伸ばす授業のヒントが得られた」といった感想をいただきました。今後の改革、教育の方向性について、情報を知り、整理する場となったようです。


取材・文: 溝口葉子

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