中央線を軸に、街場から盛り上がる杉並区のインバウンド施策

杉並区

個性派ぞろいの飲食店が建ち並ぶ中央線沿線は、訪日リピーターから注目を集めるツウ好みのエリア。東京高円寺阿波おどりを始めとする地域のイベントも、年間を通じて多数開催されています。そんな杉並区のインバウンド施策について、杉並区産業振興センター観光係に聞きました。


――インバウンドの観点から見た杉並区の特徴を教えてください。外国人にはどのエリアが人気でしょうか。

杉並区 杉並区は住宅街の広がる緑豊かな地域で、東西を横切る中央線の4駅(高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪、西荻窪)を中心に、にぎわいを見せています。区の観光施策においても、まさに「にぎわいと商機」がキーワード。観光を通じて街ににぎわいが生まれれば、そこに商機が生まれます。訪日外国人旅行者の数は右肩上がりですから、区としてもインバウンド需要を取り込み、商店街などににぎわいと商機を創出したいと考えています。

中央線4駅とも、近年は外国人観光客の姿を見かけることが増えました。新宿から電車で1本、10分から15分程度なので、観光面では有利な立地と言えます。中でもメディアへの露出が高く、外国人に人気なのが高円寺。年間を通じてさまざまなイベントが開催されており、高円寺演芸まつり(2月)、高円寺びっくり大道芸(4月)、東京高円寺阿波おどり(8月)、高円寺フェス(10月)は「高円寺4大まつり」と呼ばれています。

こうしたイベントを目当てに杉並区を訪れる外国人は多いですが、過去に実施したアンケートでは「商店街を見たかった」「日本の日常風景を見たかった」という声も聞かれました。中央線沿線の個性的な居酒屋や飲食店も人気です。初来日ではなく、2度目、3度目に日本を訪れたというリピーターの方が多いのも特徴。いわゆる有名観光地ではできない日常を体験できるのが、杉並区の魅力なのだと思います。

高円寺フェス高円寺フェス恒例のプロレスは、毎年大にぎわい

――杉並区内の観光振興組織としては「中央線あるあるプロジェクト(以下、あるあるプロジェクト)」が知られています。この取り組みについて教えてください。

杉並区 地元の産業団体、企業、NPO団体などが集まり、2013年5月に「中央線あるあるプロジェクト実行委員会」を立ち上げました。官民連携で、区内の中央線沿線の魅力を伝えるさまざまな取り組みを行っています。

インバウンド施策としての大きな取り組みは、飲食店向けに英語のメニューとマップを制作し、配布したことです。店舗にヒアリングした結果、外国人客の受け入れに関しては言葉の面で不安があるという声が多く聞かれました。そこで、英語メニューを作成して店舗に配布するとともに、外国人向けにマップを作り、これらの店舗を紹介することにしたのです。高円寺と阿佐ヶ谷はそれぞれ200店舗、荻窪・西荻窪は合わせて200店舗を掲載しています。

一番の目的は、店舗側に外国人客を身近に感じてもらい、地域に外国人客を受け入れる機運を醸成することでした。飲食店のメニューは頻繁に変わるので、継続的に支援するのは難しい部分があります。必要に応じてお店側が自分たちで動けるように、きっかけ作りをさせていただいたということですね。実際、独自に英語メニューを増やしている店舗もあるんですよ。

また、Facebook(日本語、英語、繁体字)とInstagram(日本語、英語)で、区内のイベント情報などを多言語で積極的に発信しています。

あるあるプロジェクトは区が主導しているように見られるのですが、実際に動いてくださっているのは各参加団体と地元の皆さんです。ありがたいことに、杉並区には地域に愛着を持ち、街を盛り上げようと主体的に動いてくださる方がたくさんいます。そうした活動を側面支援して、何年も続けていただけるような環境を整えることが、区として果たすべき役割だと考えています。区が介入し過ぎてしまうと、かえって活動が続かなくなることもあるのではないでしょうか。

――区の取り組みには「杉並体験ツアー事業」もありますね。どういうものでしょうか。

杉並区 昨年度から、外国人に杉並区ならではの文化を体験してもらう「杉並体験ツアー事業」を実施しています。体験していただく内容として、まずは外国人にも人気の高い東京高円寺阿波おどりを選びました。東京高円寺阿波おどり振興協会や民間の旅行会社などと提携し、海外からの参加者を募っています。

今年8月末に行われた阿波おどり本大会では、参加者に踊りをレクチャーし、本番では連(踊り子のグループ)に加わって一緒に踊っていただけるプログラムを実施しました。2日間で合計100名の外国人が参加し、皆さん、そろいの法被を着てとても楽しそうに踊っていらっしゃいました。こうした観覧・体験プログラムは本大会の時期以外にも実施しており、年間を通じて東京高円寺阿波おどりを楽しんでいただくことができます。

東京高円寺阿波おどり

実は、東京高円寺阿波おどりは台湾の方に人気が高いのです。杉並では、民間ベースで以前から台湾との交流を盛んに行っていました。近年では、台湾で人気を誇るブロガーやユーチューバーがこの阿波おどりを紹介してくださったこともあり、大きな反響を感じています。

区では例年、観光情報の発信について公募を行っていますが、インフルエンサーを起用するご提案は多いですね。今年10月には、台湾の人気インスタグラマーによる投稿をきっかけに、台湾から来日した旅行者が阿波おどり体験プログラムに参加してくれました。

――ほかにも、杉並区ならではのインバウンド施策があれば教えてください。

杉並区 「すぎなみ観光大使」は、杉並の魅力を海外に発信するボランティアです。杉並区在住経験があり、現在は海外にお住まいの方や、定期的に海外を訪れる機会をお持ちの方が活動しています。今年は7名の観光大使が、イギリス、アメリカ、UAE、台湾など世界各地で活動してくださっています。現地でよく使われているSNSなど、日本にいては気付きにくい情報が、大使を通じて得られるのもありがたいですね。

杉並区の観光においては、アニメも重要なコンテンツです。実は、杉並区はアニメ制作会社が日本一多い地域なのです。荻窪にある東京工芸大学 杉並アニメーションミュージアムは、外国人の来場者も多いですね。また、お隣の中野区と連携して、「中野×杉並アニメフェス」を開催しています。ただ、こうした地域のイベント情報は外国人旅行者には届きにくいので、引き続き多言語での情報発信に力を入れていきたいと思います。

大田黒公園大田黒公園(荻窪)で紅葉を楽しむ旅行者が増えている

――インバウンドに関して、今後の方針や課題はどういったものでしょう。

杉並区 インバウンドは「モノ消費からコト消費へ」と言われています。杉並区には、消費してもらえる「モノ」はそれほど多くないかもしれません。でも、体験してもらえる「コト」については、長年の区民生活の中で育まれた「文化」のコンテンツをたくさん用意できるのではないかと自負しています。

具体的な課題としては、複数のコンテンツを組み合わせた観光プログラムをいかにして充実させるかということです。東京高円寺阿波おどりといったイベントや、東京工芸大学 杉並アニメーションミュージアムのようなスポットを単体で楽しんでもらうだけでなく、例えば和菓子作りや史跡巡りと組み合わせるなどして、一日を通して杉並の魅力を味わってもらえる工夫をしたいですね。

ただし、観光の主役はあくまで街場です。区が率先してインバウンド施策を行っても、街場にそれを受け入れる意気込みや雰囲気がなければ、観光客が行ってみたいと思うエリアにはなりません。一つ一つの取り組みを進める中で、街場の反応を見ながら、外国人観光客が自然と街に溶け込み、楽しめる環境を作っていけたらと思います。

杉並区


取材・文: いしもとあやこ
写真提供: 杉並区、中央線あるあるプロジェクト実行委員会

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