高校生275人を3年間追跡調査して分かった、英語スピーキング力向上の秘訣

アルク総研

アルク教育総合研究所(アルク総研)が、2018年7月に発表した「日本の高校生の英語スピーキング能力実態調査」レポート。高校生275人を3年間かけて追ったこの調査からは、彼らの学習実態やスピーキング力の変化など、さまざまなことが見えてきました。調査結果について、アルク総研の平野琢也所長と木下あおい研究員に詳しく聞きました。


アルク教育総合研究所
平野琢也 所長

入社以来、教材編集や各種テストの開発・運用、英語学習アドバイザー資格認定制度の立ち上げ・運用などに関わる。2014年からは、アルク教育総合研究所で英語教育関連の調査・研究に携わる。

木下あおい 研究員
広告や教材の営業から教材編集、学習者支援までさまざまな業務を経験。2016年からはアルク教育総合研究所で、自社商品・サービスの効果測定、英語教育に関する調査・分析などを幅広く担当。


「日本の高校生の英語スピーキング能力実態調査」とは?

  • 2015年度から2017年度にかけての3年間、高校3校(A高校・B高校・C高校)の協力を得て、その生徒を対象に実施した。
  • スピーキング力については、電話を使った英語スピーキング能力測定試験TSST(Telephone Standard Speaking Test)で測定。評価はレベル1から9までの9段階。
  • 調査を開始した2015年度、当時の高校1年生にTSSTを受験してもらい、それと同時に、英語の学習時間や学習内容に関するアンケートにも回答してもらった。調査は年1回、3年間に渡り実施し、経年変化を見た。

出発点は「高校生ってどのくらい話せるの?」

──調査を実施するに至った背景を教えてください。

平野 きっかけは、大学入試改革です。入試がどうなるべきかをめぐってはさまざまな議論が交わされてきましたが、スピーキングも含めた4技能化が取り上げられる一方で、「そもそも高校生ってどのくらい話せるの?」というデータを持っている人が、当時は誰もいなかったのです。文部科学省からでさえ、こうしたデータは公表されてなかったと思います。そこで、「高校生が実際、どのくらい話せるのか知りたい。調べてみたい」という思いがわきました。

全国調査は難しいので、私たちの手の届く範囲で、なるべく日本の高校生の全体像を表すようなサンプルが採れればと考えました。大学の先生方にもご相談して、幸いなことに、その条件に近い3校にご協力いただけることになりました。

さまざまな学習が相乗効果を生む

──3年間の調査を終えて、分かったことを教えてください。

調査結果の概要
1.【英語学習時間】
高校1年次から3年次にかけてスピーキング力を向上させるには、高校3年次の時点で、学校と自宅などにおいて少なくとも週に7時間の英語学習が必要で、週に14時間以上学習した場合には、さらにその可能性が高まる。

2.【英語学習内容】
学校と自宅などにおける英語学習時間の合計が週に14時間未満でも、以下のような工夫をすることで、スピーキング力向上につなげられる可能性がある。

①「発音練習」「音読」などの「既存の英文を声に出す学習」、「会話・ディスカッション」「英文を書く」などの「英文を作って発信する学習」、「単語・文法学習」といったスピーキング力向上に寄与するさまざまな学習を、各学習につき少なくとも週に30分以上実施する。
② ①の実施が難しい場合、「既存の英文を声に出す学習」「英文を作って発信(話す・書く)する学習」「単語・文法学習」などスピーキング力向上に寄与するさまざまな学習を、各学習につき週に10分以上実施した上で、「音読」については少なくとも週に30分以上実施する。
③ ①の実施が難しい場合、「文法」を週に30分以上学習した上で、英文を「(自分で組み立てて)書く」学習については少なくとも週に30分以上実施する。

※アルク教育総合研究所「日本の高校生の英語スピーキング能力実態調査 III ─高校1年次から3年次で高校生の英語力はどのように変化したか─」より抜粋。さらに詳しくは、こちらの記事もご参照ください。

木下 スピーキング力を向上させるためには、学習時間の長さがとても重要であることが分かりました。どの高校でも、TSSTで1レベルアップした生徒は、レベルに変化のなかった生徒よりも、週あたりの英語学習時間の平均が長いという結果が出ています。最も短いA高校で週に約7時間、最も長いB高校では週に約14時間でした。このことから、高校生の場合、授業を含めて週に少なくとも7時間は学習したほうがよいと考えられます。

また、学習内容もスピーキング力向上の大きな要因となったようです。後で詳しく述べますが、結論を先に言うと、スピーキング力を上げるための「発信」に限らず、さまざまな学習を偏りなく行ったことがレベルアップにつながったと見られます。

スピーキングと言っても「ないものを発信する」ことはできないので、「単語」や「文法」の学習は必要です。かといって、勉強してすぐに話せるようになるわけではありません。「音読」や「発音練習」で、学んだことを何度も口に出して定着させる。その上で、またはそれと並行して、「ディスカッション」や「書く」といった発信する活動を行う。そのようにして、さまざまな学習をまんべんなく行うことが、相乗効果を生むのだと思います。

アルク総研

スピーキング力向上が顕著だったB高校

──B高校では、スピーキング力の向上が顕著に見られました。その要因は何だと考えられますか。

木下 B高校は他校と比べて、英語の会話やディスカッション、もしくは英語を書いて表現するような「発信」する活動と、単語や文法をしっかり学習する活動の両方を週に30分以上行っていました。一方、単純な「音読」や「発音練習」については、他校とあまり差が出ませんでした。

ところが、B高校の中で1レベルアップした生徒さんを見てみると、そうでない生徒さんよりも、「音読」や「発音練習」といった声に出す活動も週に30分以上行っていたのです。学習時間も長く、授業を含めて週に平均14時間という結果でした。結局は、「さまざまな学習をまんべんなく、長い時間をかけて行ったこと」が、スピーキング力の伸びに良い影響を与えたと考えられます。

B高校でもう一つ注目したいのが、授業外でも生徒に学習を促す環境が用意されていたことです。例えば、自宅学習の目標時間は「1日3時間」と設定されていました。また、学校に自習用の教室が確保されており、「○時○分のバスに乗る生徒は、部活後45分あるのでB教室へ」といった具体的な指示がなされていました。このように「学習することが当たり前」な雰囲気が作られていたことも、大きかったように思います。

高校生はレベル4~5を目標に

──3校とも、TSSTレベル3~4の生徒が大半を占めています。実際、高校生ではどのレベルを目標とするといいでしょうか。

平野 レベル3は「短い文は言えるが途中で止まってしまうことも多い」、レベル4は「言いよどみはあっても、簡単な文で話せる」という段階です。実は、大学生や社会人も含めて過去にTSSTを受験した約2万5000人のデータを見てみても、一番多いのがレベル4なのです。

ただ、英語で仕事ができるといえる英語力は、レベル6以上。TOEICのスコアで言うと、だいたい850~900くらいでしょうか。レベル5と6の間には大きな壁があり、なかなかレベル6に到達できない方が大勢います。

高校3年次の目標としては、レベル4~5と考えていいでしょう。今回の調査でも、高校1年次ではレベル3が最多でしたが、2年次、3年次と頑張ってレベルを上げることのできた生徒さんが一定数いました。これは、なかなか良い結果だと思います。高校生でレベル4まで行けば、大学生、社会人でレベル5~6に到達することも、不可能ではないでしょうから。

TSSTのレベルの概要について、詳しくはこちらをご覧ください

アルク総研

社会人は「アウトプット」と「頻度」を意識

──大人が英語スピーキング力を向上させたい場合、どのような学習をするとよいでしょうか。

木下 社会人の場合は、学習時間が限られます。それでも、何もしないよりは、とにかく何かしたほうがいいでしょう。学習方法が正しいかそうでないかはあまり気にせず、まずは興味のあるものをやってみるのがいいと思います。

インプットが多くなりがちだとは思いますが、1日に1回でも「英文を書く」などのアウトプットの時間を持つと、新たな発見があるのではないでしょうか。いざ書いてみたら「ここが分からなかった」と気付くこともあります。また、TOEICテストの教材なら、単に問題を解くだけではなく、問題文を音読するなどの「声に出す」練習をするといいと思います。今回の調査では、A高校、C高校の事例から、こうした学習もスピーキング力向上に役立ちそうだということが分かっています。

平野 社会人は学習時間がなかなか確保しにくいと思いますが、1回あたりの時間よりも、学習の頻度の方が大切かもしれません。学んだ内容を定着させるためには、同じ素材を3回繰り返して学習するのがおすすめです。

──今回の調査を、今後どのように発展させていく予定ですか。

木下 調査を通じて、新たに見つかったテーマや課題がありました。その一つが、「レベル4から5に上げるにはどうすればよいか」。特に進学校の先生方は、こうしたテーマに興味をお持ちかもしれません。

また、学習時間を確保したほうがいいと分かっていても、部活動などでどうしても難しい場合もあります。そのようなときに、「授業の中で、あるいはプラス10分間の自宅学習で、より効率よく学習するにはどうしたらいいのか」。そうした内容も追っていけたら、さらに高校などでの授業改善に役立てていただける結果が提供できるのではないかと思います。


取材・文: いしもとあやこ
写真: アルクplus 編集部

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