2020年度から小学5、6年生で英語が教科に。今、日本の英語教育はどのように変わろうとしているのか

小泉清裕先生

2011年度から小学5、6年生で必修化された外国語活動が、2020年度からは3年生以上に拡大。さらに5、6年生は教科になることが決定しています。大きく変わろうとしている小学校の英語教育について、長く実践に携わり、小学校英語の実情に詳しい小泉清裕先生にお話を聞きました。


目次

  • 教科になると教科書が作られ、評価を伴う
  • 「英語科」のスタートで小学校教育がより豊かになる
  • 保護者が新しい英語教育を理解することはとても大切

教科になると教科書が作られ、評価を伴う

――2020年度から小学5、6年生で英語が教科になりますが、具体的にはこれまでとどのように変わるのでしょうか。

小泉 教科になることで大きく変わる点は2つ。教科書が作られるということ、そして評価を伴うようになるということです。

教科書については、現在使われている「We Can!」は教科書ではなく、あくまでも英語の授業を実施するための教材で、2019年までの期間限定の使用ということが定められています。教科書会社は2017年にできたシラバスを参考にしながら、教科書を作り始めているところだと思います。

2020年度から全面実施される新学習指導要領では、文部科学省が「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力」など、3つの柱を挙げています。それに基づいて、評価についてはテストをするのか、子どもたちの授業態度から行なうのかなど、具体的な評価方法や基準については今のところ何も提示されていません。少なくとも授業が始まる半年前までには、示されるのではないでしょうか。

本来はまず評価の基準が示されて、それに基づいて教科書が作られ、その上で先生たちがどういう授業をしたらいいのかを考えるのが順当なのですが、最初にあるべき評価基準がいまだに出ていないというのが現状です。

「英語科」のスタートで小学校教育がより豊かになる

――教科になると、小学校の英語は「中学校英語の前倒し」になるのでしょうか。小学校で英語を学ぶ意義とは、何なのでしょう。

小泉 その質問にお答えする前に、まず小学校の教育と中学や高校の教育との違いをお話ししたいと思います。小学校では中学校などと違って、担任の先生がほとんどの教科を教えます。この年代の子どもは1つ1つの教科をバラバラに教えるのではなく、一人の先生が複数の教科を有機的につなげるような授業をする方が効果的です。教科の壁を作らず、国語を教えながら、その時学んでいる算数の話を出すこともあれば、理科を教えながら社会と結び付けることもできます。

私は、いつも小学校教育は「肉じゃが」のようなものだと説明しています。ご存じのように「肉じゃが」は、肉やジャガイモ、タマネギ、ニンジン、しらたきなどいろいろな具材に、砂糖、しょうゆといった調味料を加えて作る料理です。これを小学校教育に置き換えると、国語はメインのジャガイモで、算数が肉、社会がタマネギで、理科はしらたき。音楽と体育は砂糖としょうゆ、といったところでしょうか。小学校教育は「肉じゃが」のように、1つの鍋にいろいろなものを入れて煮込んで、それぞれが味を出し合って作り上げる教育なのです。

そして今までは具材と砂糖、しょうゆを入れて終わりだったところに、世の中が変わってきたので違う調味料も加えてみよう。もっと味と艶をよくするために、みりんを加えようということになった。このみりんが英語です。

みりんは「肉じゃが」をもっとおいしくするために入れるのであって、決してみりん単体を味わうために入れるのではありませんよね。同じように、小学校で英語をやるのは英語教育を推進するためではなく、今までの小学校教育をもっと豊かにするためなのです。

小学生

保護者が新しい英語教育を理解することはとても大切

――5、6年生の教科化と同時に3、4年生も英語が必修になります。

小泉 「英語を使える人にする」ことが目的なら、もちろん英語に触れる時間を増やす必要があるので、3年生から始めることには意味があると思います。ただ今回の改正では6年生までの4年間で、英語の時間は最大でも210時間しか取れません。たったそれだけの時間で英語が話せるようになるかといったら、それはとても無理でしょう。

その反面、210時間でも授業のやり方によっては、「英語が話せると楽しい」という気付きや、「みんな違っていいんだ」といった発見など、子どもの心に変化が起きる可能性もあります。せっかく英語を入れるのですから、ぜひそういう授業をやってほしいですね。

授業はアイディア次第。小学生にとって身近なもの、分かりやすいものを教材にしていくことが大切です。昔の中学の教科書のように”I have a pen.”や”I am a boy.”を覚えましょうというような授業では、興味を持たせることは難しい。そんな授業をしていたら、中学校に行くまでに英語を嫌いになってしまう可能性もあります。

そういった意味では、小学校の英語教育の中心になるのは担任だと言えるでしょうね。担任の先生は子どもたちの興味や関心をよく知っていて、今までもいろいろな教科を結び付けながら授業をやってきたのですから。

――家庭でのサポートという点で、親には何ができるのでしょうか。

小泉 保護者の方にお願いしたいのは、今回、小学校で始まる英語は自分たちが受けてきた英語教育とは違うということを認識していただきたいです。英語教育に限らず、これまでの日本の教育は「記憶する」ことに重きを置いてきて、それに対してテストが行われ、評価されてきましたが、もうそういった教育では世界に通用する人間を育てることはできないことが判ってきました。世界の国々では、記憶し理解するだけでなく、それを応用して自分で何かを創造するような力を持った人間を育てる流れに向かっています。そして文部科学省もその方向に動き出しています。

保護者の中には、先生より英語が得意な方も大勢いらっしゃると思いますが、批判的な目で見るのではなく、準備に時間がない中で努力している先生たちを温かく見守ってください。子どもたちにとって大切な先生が自信をなくしてしまうのは、とても残念なことです。

そしてできれば、英語が得意な人でも苦手な人でも、子どもと一緒に英語を楽しんでほしいと思います。親が楽しんで英語に触れている姿を見せる。これはとても意味のあることです。

小泉先生のお話が直接聞けるセミナーを10月28日(日)に開催します。

小学校の英語教育 これからセミナー
―【第3回】小学校英語の「理想と現実」 そして「これから」―

指導者に求められる英語力とは? 小学校英語は「何を」「どのように」することが大切? など、具体的な実践例を示しながら、小泉清裕先生と狩野晶子先生にお話いただきます。

第1部: 小学校英語どうなるどうする―音と文字をつなげるには
狩野晶子先生 (上智大学 短期大学部英語科 准教授)

移行期間に入った小学校英語。先生も子どもたちも楽しめて実りある学びとするために、指導者に求められる英語力とは? どのように音と文字の結びつきを育ててゆくのか? 具体的な実践例を示しながらともに考え、ともに学びます。

第2部: 小学校英語で本当に大切なこと―何をどこまでどの順序で行うか
小泉清裕先生 (昭和女子大学大学院 文学研究科 特任教授)

文部科学省が今後どのようなことを小学校英語に求めているか、そして、実際には「何を」「どのように」することが小学校英語として大切なのか、など、実践例を示してお話します。

【日時】10月28日(日)10:00~16:30
【場所】アーバンネット神田カンファレンス(地下鉄・JR神田駅)
詳細・お申し込み>>

小泉清裕先生
小泉清裕 先生
日本私立小学校連合会会長、東京私立初等学校協会会長、昭和女子大学大学院文学研究科特任教授を務める。著書に『[小学校]英語活動ネタのタネ』(アルク)、共著に『小学校からの英語教育をどうするか』(岩波書店)他多数。


取材・文: 榎本幸子
写真: アルクplus 編集部
写真提供(2枚目): Photo AC

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