国内屈指の高校生英語弁論大会「ジョン・ニッセル杯」──上智大学の吉田研作先生がその魅力を語る

吉田先生

今年で8回目を迎える、高校生の英語弁論大会「ジョン・ニッセル杯」。英語の正確さよりも、「相手に伝えたい」という気持ちの強さ、自分の思いや考えを自身の言葉で聞き手に届ける力があるかどうかが重視されるユニークな大会です。審査員長の吉田研作先生に、高校生に期待すること、大会への思いなどを聞きました。

ジョン・ニッセル杯
英語での発表を通じて、英語力の向上を図るとともに、高校生たちが将来世界を舞台に活躍する人材として成長するきっかけをつかんでもらいたいという想いからスタートした弁論大会。現在、応募を受け付け中で、締め切りは8月24日(金)。本選は11月17日(土)に、上智大学四谷キャンパスで行われる。

応募の詳細は、以下を参照のこと。
http://www.sophia-cler.jp/hs-students/nissel-cup.html

自分の意見を堂々と言える人材の育成を目指して

――「ジョン・ニッセル杯」は、どのような経緯でスタートしましたか?

吉田 上智大学の外国語学部英語学科と言語教育研究センターで、国籍や留学経験、学校の形態などには一切条件を付けず、学校教育法第1条が定める高校に通う生徒なら、誰でも参加できる弁論大会を行おうと決めました。

これまでにも高校生を対象にした弁論大会はたくさんありましたが、そのほとんどが帰国子女は駄目、日本国内で育った日本国籍の生徒であること、といった条件を付けていました。でも今は、海外にルーツのある生徒や、他国で生活した経験を持つ人が、どこの学校にもいるような時代。そんな中で、純粋培養の生徒だけで競争することに果たして意味があるのだろうかと考えたわけです。

ボーダレス化する世界で大切なのは、自信を持って自分の考えを発信できる力です。それなら一切の枠を外して、どういう環境の中でも、しっかり意見を周囲に伝えられる人を育てていきたいという発想で、この大会を始めました。

大会のタイトルになっているジョン・ニッセル先生は、かつて英語学科で教べんを執られていた素晴らしい教師です。彼の功績をたたえる意味を込めて、名前を冠しました。

グローバル社会でどのように生きるか

――応募条件だけでなく、採点基準にもこだわりを感じます。

吉田 本選では英語力そのものより、内容や相手に伝えたいという気持ちの強さを重視していて、採点の比重も内容に一番重きを置いています。例えば1次審査では、最初に応募者の原稿を読んで、内容の独自性、発想のユニークさによって200人近くから50人くらいに絞ります。その後、原稿を読み上げた音声を聞いて、話し方や声色などの印象、発音を含めて聞く人にアピールする力があるかどうかを見て、本選に進む20人を選びます。

本選では、スピーチの後に審査員による質疑応答が行われますが、これも印象点として加算されます。僕ら審査員は、単に彼らの英語を聞いているのではなくて、ちゃんと主張してほしいし、われわれを説得して、なるほどと思わせてほしい。そういう意味では毎年、自分の言葉で素晴らしいスピーチを聞かせてくれる高校生が大勢出場してくれてうれしく思っています。

大会のテーマは毎年変わりますが、根底にあるのはグローバル社会でどのように生きるかということ。ですからスピーチの内容は抽象的な話ではなく、自ずと個人ベースの、過去において自分自身が経験したことや感じたことなどの話になってきます。

高校生くらいの時にあまりにも大きな、例えば政治的な話をしようとすると、どうしても頭でっかちな内容になりやすいものです。でも自分の人生について語るのは、年齢に関係なく何歳であっても本物だし、本人以上に話せるものではないですよね。しっかり自分の体験を織り込みながら、その中で感じてきたことを話してもらうのは、聞いている僕らも引き込まれるし、社会の中で自分の立ち位置を考え、若い彼らが一生懸命にやっていることがすごくよく分かって、ジーンとくることもよくあります。

今年のテーマは、“Action Speaking Louder than Words”。「単なる言葉より、実際に行動することこそ大事」という意味です。理屈だけでなく、自分が考えたこと、感じたことをどうやって行動に移そうと思っているのか、あるいは今までどうやって行動に移してきたのかを、体験を踏まえて話してほしいと思っています。

ジョン・ニッセル杯

英語のスキル上達だけでなく、意識を変えることも重要

――大会に参加する高校生たちのように、自分の考えを堂々と言える人が少しずつ増えている一方で、人前で意見を言うのが苦手な人も多いようです。新しい学習指導要領では、小学生の頃からその辺りを変えていこうとしていますが、うまくいくでしょうか。

吉田 時間はかかると思いますが、学校教育の中で意見を言ったりディベートをしたりする機会が増えれば、少しずつ素直に、正直に自分が思っていることや感じていることを言えるようになっていくのではないでしょうか。「これについてどう思う?」と聞かれた時に、「さあ」で終わってしまうのではなく、思っていることを一言でも言えるような練習をしていくのは大事です。

教育だけでなく、今は環境も非常にグローバルになってきているので、その辺りもいい作用を及ぼしてくれるのではないかと思います。一昔前の日本と比べて、今は学校の中も少しずつ変化があり、国際結婚家庭や外国籍の生徒が増えています。親の方もいろいろな体験をして、幅広い考えを持った人がいるでしょう。親が多様化すれば、子どもたちも影響を受けます。そういう中で、少しずつ互いに相手と違うことを理解し、認め合いながら生きることに慣れていくのではないでしょうか。

もちろん先生方の意識も重要で、この先生の前で自分の考えをあまり言ってはいけないというような雰囲気があると、生徒は萎縮してしまう。教師が生徒の意見に対して、「どういう考えがあってもいいよ」と認めることは必須でしょう。

――授業を進める上で特に意識することがあれば、お聞かせください。

吉田 あまり難しく考えずに、最初は簡単なことから始めればいいと思います。中学校の英語教師になった教え子は、授業で「クラスの仲間を一人挙げて、何か一言いいと思うところを言ってごらん」と生徒に提案したそうです。日本語では尻込みしがちな活動も、英語でなら“He is smart.”とか“She is good at sports.”といった発言がどんどん飛び出したと話してくれました。

われわれにとって日本語は、自分のアイデンティティーの一つ。だから単なる言葉ではなくて、自分の全てがそこにくっついてしまって、扱いづらいところがあるんですね。でも英語だと単なる言葉になる。自由になるというか、言葉というコミュニケーションの単純な手段として扱えるから、逆にすごく素直に言えることがあるわけです。もちろん英語力が足りなくて、思いをうまく表現できない場合もあるけれど、面白いことにある程度スキルが高くなっても同じような現象はあるんです。

外国語というのは、そういう意味でいうと、客観的に自分を表現する際に母語よりも楽に使える可能性があると言えます。「Noといえない日本人」という言葉があるけれど、英語だったら“No.”と言えるかもしれない。そういった言葉との関係を理解すると、もっと英語との関わりが楽しく、楽になるような気がしますね。

今年の本選は例年通り、11月に東京・四谷の上智大学キャンパスで行われます。一般公開しているので、興味がある方にはぜひ見ていただきたいですね。高校生たちの生き生きとしたスピーチに、きっと良い刺激を受けていただけると思います。

吉田研作先生
上智大学特別招聘教授、言語教育研究センター長。専門は応用言語学。文部科学省中央教育審議会外国語専門部会委員。J-SHINE会長。「起きてから寝るまで」シリーズや『小学校英語指導プラン完全ガイド』(ともにアルク)などの監修を務めるほか、著書多数。

吉田先生


取材・文: 榎本 幸子
写真: 横関 一浩

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