英語で対応できる乗務員の養成プロジェクトを立ち上げた、帝都自動車交通の取り組み

山本晃生さん

続々と開催される大型国際イベントに備え、英語で対応できる人材を増やしたいと考える帝都自動車交通株式会社の取り組みを、総務人事部の山本晃生さんにお聞きしました。

帝都自動車交通株式会社
東京23区、武蔵野市、三鷹市を営業エリアとする、京成電鉄グループ最大のタクシー・ハイヤー会社。1938年創立。タクシー部門におよそ1000名、ハイヤー部門におよそ600名の乗務員を擁する。外国人旅行客の足として活躍するタクシー部門に加え、東京五輪・パラリンピックなどの大型イベントや国際ビジネスニーズの拡大をにらみ、ハイヤー部門でもインバウンド対応に乗り出した。
http://www.teito-mot.com/


ハイヤー乗務員の英語学習プログラムを始動

――タクシー・ハイヤーを利用する外国人のお客さまは、どのくらいいますか?

山本 タクシーは一度の勤務で、およそ30組のお客さまをお乗せしますが、外国人はこのうち3~4組。今や東京のタクシーは、10組に1組のお客さまが外国の方です。大半は日本語を使わない方なので、タクシーの乗務員には多少なりとも英語力が必要です。

ハイヤーのお客さまは、当社と契約を結んでいる企業のエグゼクティブの方が中心ですから、いきなり外国人のお客さまをお乗せすることは、基本的にありません。たまたま外国人役員の送迎を担当することになっても、皆さん日本で仕事をしているので、ある程度は日本語を解されます。そうでない場合も、日本人の部下や秘書を同伴されるのが一般的ですから、乗務員が英語を話す場面はそう多くないのです。

――インバウンドを視野に入れた研修は、どのように実施していますか?

山本 タクシー部門に関しては、今年4月にインバウンド対策室を立ち上げて、週1度、各営業所に英会話講師を派遣するなど、乗務員の英語力強化に取り組んでいます。実際に外国の方をお乗せする機会が多いため、タクシー乗務員の英語学習に対するモチベーションは高く、英語力も伸びてきています。

ハイヤーについては、この5月に開設したオリンピック・パラリンピック推進室を中心に対応しています。2019年に大阪で開催が予定されているG20サミット、ラグビーワールドカップなど、大型の国際イベントでは多数のVIPや関係者が来日します。通訳なしでハイヤーを利用する方も増えると予想されますから、英語で対応できるドライバーの存在は、今後は必須です。

そこで今年、ハイヤー部門に特化した英語学習プロジェクトをスタートさせました。英語対応が可能なハイヤー乗務員は、これまで5パーセント程度でしたが、新たに1年間で10パーセントの英語ができる乗務員を養成できればと考えています。

帝都自動車交通ハイヤー乗車時、お客さまが頭をぶつけないように手を添える

待機時間も活用して、スマホと専用アプリで手軽に学ぶ

――ハイヤー乗務員向けの英語学習プロジェクトとは、どのようなものですか?

山本 ハイヤー業務は待機時間が長いのです。その待機時間を利用して、自分のペースで進められる学習方法が、ハイヤー乗務員には合っていると思い、アルクさんからのご提案で、スマートフォンを使ったプログラムを導入することにしました。

スマートフォンに入れる学習アプリケーションは、接客英語と観光関連が中心で、いずれも業務に役立つ表現を文例として学びます。初心者向けのレベル1と、多少英語に慣れた人向けのレベル2に対応しており、それぞれリスニングモードとトレーニングモードを使って、ステップバイステップで練習していく形です。Skypeの英会話レッスンを併用することで、バイリンガル講師との生きた会話練習もできるようにしました。

――具体的にはどんな内容ですか?

山本 当社専用に開発されたコンテンツです。事前にアルクさんからハイヤー乗務員にヒアリングをしてもらい、「業務中、こういう場面でこう言いたい」と思っていることを、洗い出してもらいました。

例えば空港の到着ロビーや、駅構内でお客さまをピックアップしたとき、「では駐車場から車を取って参りますので、こちらで少々お待ちください」を、英語でどう言えばいいかといったことですね。VIPに対して“Please wait.”では不愛想ではないか、もっと気の利いた表現はないかと、乗務員は考えているのです。

「こういう時には、英語でどう言うのか」「お客さまに対して失礼にならない言い方を知りたい」など、数々の率直な声が集まり、そこから実用性の高い文例がたくさん作られました。これを基に、耳で聞き、発話をして練習していきます。

――プログラムには、ハイヤー部門の全乗務員が参加するのですか?

山本 初年度は600人中の1割、60人の参加を募ります。プログラム期間は1クールが3カ月。各回の募集を挟んで年間3クールを実施し、1クールにつき20名ずつ参加していきます。現在第1クールを終え、第2クールがスタートしたところです。

アプリ学習専用アプリで、業務に使えるフレーズを学ぶ

――プログラムを終了した乗務員の皆さんは、どのような感想をお持ちでしょうか。

山本 第1クールの参加者20人中、レベル1を100パーセント終了した人は16人、レベル2まで100パーセント終了した人は10人でした。参加者の85パーセントは、プログラムに参加したことで、英語を話すことへの抵抗感が薄れ、実際に英語力が付いたと自覚しているようです。

始めは、”Hello.”や”Good morning.”程度のあいさつをすることが精一杯だったけれども、今度機会があったら、外国からのお客さまに英語でこうお声掛けをしてみようと、前向きに考える人も出てきました。プログラムがモチベーションアップにつながっているのは、喜ばしい変化です。

他にも、「アプリで練習した通りに話したら通じた」「自信を持って口にできる英語のフレーズがたくさん身に付いた」といった声を聞くことができました。またSkypeの英会話レッスンについては、「発音の確認ができて良かった」「アプリで覚えたフレーズの、応用の仕方を練習できた」と好評でした。

帝都自動車交通は、今年創業80周年を迎える

――斉藤乗務員はプログラムに参加してみて、いかがでしたか?

斉藤 時間のやりくりが結構大変でしたが、気分転換のつもりで取り組みました。スマートフォンで例文の英語を聞き、それからシャドーイング。覚えるというより、口慣らしですね。Skypeでの英会話レッスンも、講師が日本語を話せる方なので緊張せずに済みました。

具体的にどう力が付いたかは、自分ではあまり分かりません。でも、「shallはこういう使い方ができるのか」「theはこういう場合にも使うのか」など、文法的なことが整理できた点が私としては勉強になりました。プログラム終了後は、以前買った「おもてなし英語」のシリーズ本を、たまに見直したりしています。

日本を訪れる外国人のお客さまは、着実に増えていますから、私たちの仕事でも、英語はこれから必要になってくるでしょう。英語もスポーツと同じで、毎日少しずつ練習を続けることが大事だと思います。

――本プログラムに関する課題や、今後の抱負をお聞かせください。

山本 課題は学習時間です。企業の繁忙期にはハイヤーも忙しくなります。担当するお客さまが急に変わると、新たに覚えることが多数あり忙殺されます。乗務員は安全第一ですから、休憩時間をしっかり取ってもらうことを前提に、プログラムも十分消化できる方法を考えていく必要がありそうです。

抱負としては、会社が外国人のお客さまの仕事を受けたとき、「私が行きましょう」と胸をたたいてくれる乗務員を増やしたいですね。訪日外国人が増加の一途をたどる中、英語ができるハイヤー乗務員の存在は、お客さまからの会社に対する信頼にも直結すると思っています。

山本晃生さん
帝都自動車交通株式会社 総務人事部次長・総務人事課長
山本晃生さん

平成元年入社。現在は人事部で、採用から研修まで一貫して同社の人づくりに携わる。人材育成は重要な経営方針と位置付け、タクシー部門、ハイヤー部門ともに、プロフェッショナリズムと、おもてなしの精神、そして基本的な英語力を兼ね備えた、観光立国に相応しい乗務員の育成を推進している。プライベートでは育ち盛りの男子3人の良きパパ。

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取材・文: 田中洋子
写真: 横関一浩

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