中学英語定着のためにできること

中学英語の定着

データが明かす高校英語授業の最優先課題(4)

大学入試における中学英語の「定着」の重要性に関する調査を、Sherpa*とアルク教育総合研究所(以下、アルク総研)が実施。高校英語の授業の課題があぶり出されました。
最終回は、中学英語と高校英語のギャップを埋めるためにできることを、Sherpaメンバーの大田悦子先生と、アルク総研の木下あおいが考えます。

* Sherpa(Senior High English Reform Project ALC)とは、金谷憲先生(東京学芸大学名誉教授)をリーダーに、高校の英語の授業の改善に貢献することを目的に活動するプロジェクト。


目次

  • 中3と高1の間に横たわるギャップ
  • まずは教科書の見直しから
  • 幅広く波及する「繰り返し」学習の成果

中3と高1の間に横たわるギャップ

総研 これまでの対談で、中学英語の定着が高校での英語学習にとって極めて重要であること、それにもかかわらず中学英語が定着していないことが分かりました。定着の手段を具体的に講じている高校もまだ少ないですね。

大田 その通りです。定着が欠かせない理由の一つは、中学3年生と高校1年生が学ぶ英語に非常に大きなギャップがあることです。金谷憲先生の例えに倣えば、「中学3年生の時にはトレッキングだったものが、高校1年生ではロック・クライミングになってしまう」のです。レベルがいきなり上がるのです。

総研 高校の先生方はそのことに気付いているのですか。

大田 先生方が考えているより、現実のギャップははるかに大きいですね。それが端的に表れているのが教科書で、中学の教科書と高校1年生用の平均的な教科書を比べてみると、難易度にものすごく大きな差があります。

総研 それで高校で英語嫌いになってしまうのですね。

大田悦子先生「中学英語と高校英語のギャップをどう埋めるかが課題」だと話す大田先生

まずは教科書の見直しから

総研 どうすればこの状況を改善できるのでしょうか。

大田 中高間で教科書の難易度ギャップが大きいのですから、まずは教科書を見直すことが考えられますね。

総研 生徒の実力よりも高いレベルの教科書を選ぶ高校は少なくないですよね。

大田 高校と中学の教科書を併せて使う方法もあります。復習用に中学の教科書を併用するとか、高校の教科書から中学での既習部分を抽出した別テキストを作成するなど、方法はいくつか考えられます。中学向けの教材やテキストから必要な部分だけ利用してもよいのです。

総研 しかし、「コミュニケーション英語基礎」(以下、「コミュ英基礎」)はそもそも、中学英語と高校英語の接続を意識して設けられたはずですよね。

大田 それでも難し過ぎるという高校はたくさんあるんです。そこで、ある商業高校では、先生方が「コミュ英基礎」の本文をさらに簡単にしたEasy Versionと呼ぶ英文を用意しました。音読やペアワークにはこの英文を使い、1回だけ、通常の教科書に戻っておおまかに読解します。この方法で、生徒の表情がどんどん良くなったのです。

総研 それはなぜでしょうか。

大田 成功体験が生まれるからだと思います。中学英語から高校英語へのブリッジ期間を長くする高校もあります。ある高校では7月末頃まで行うようにしました。

総研 なるほど。他にも、金谷先生の指導を受けて2016年から埼玉県立熊谷女子高等学校が始めた「コア・ラーニング」もありますね。

大田 高校1年生を対象に、1回50分、年間15回の指導をしています。メインは、①Strip Story、または②Loudspeakerのどちらか。①はグループで話し合いながらバラバラの英文を元の文章に再構成する活動、②は、ヘッドフォンを付けた1人の生徒がシャドーイングをする英語を他の生徒が書き取り、元の文章を再構成します。

①では、各自が担当(暗記)する英文が書かれた短冊(strip)は活動の序盤で回収されてしまうので、その先は全て口頭での伝達です。5人のグループなら、自分の分も含めて全員分、計5つの英文を記憶するため、何度も確認する作業が必要です。②では、一度のシャドーイングでは全ての英文を書き取れないので、何人かでシャドーイングを交替しなければなりません。書き取ったことを途中で確認し合うdiscussion timeを挟みながら、全て書き取れるまで繰り返すという流れです。

総研 繰り返し学習で定着を促すわけですね。

大田 どちらの活動も、元の文章を完全に再現するまで繰り返し行い、ターゲットの文に複数回触れさせるという仕掛けです。また、この時間の帯活動用に、音声を活用しながら中学英語を定着させる『1日5分! 英文法リアクション・トレーニング』(アルク)を取り入れています。高校の英語と並行して中学英語の定着を図るなら、こういった復習プログラムが不可欠だと思います。

アルク総研アルク総研の木下研究員

幅広く波及する「繰り返し」学習の成果

総研 繰り返し学習をするためには、範囲を限定せざるを得ませんが、そこはどうお考えですか。

大田 教える項目を取捨選択するという発想は大切だと思います。目前に控える大学入試改革を考えても、知識を網羅的に注入する意味はより一層薄れていきます。コア部分を繰り返し学習して身に付いた力は、より広い範囲に波及します。私はこれまでSherpaの活動を通じて、訳読をしない授業モデル「縮約版を利用した二度読み」を提案してきました*。当初、その波及効果は仮説的なものでしたが、現在は、これまで述べてきた実践例によって波及効果が証明されつつあります。ただし、効果的な繰り返し学習を実現するには、先生が指導方法のレパートリーを数多く身に付け、実践できる必要があります。

総研 アルク主催のセミナーにもぜひ足を運んで、そのヒントを見つけていただければうれしいですね。

*『高校英語授業を変える!』(金谷 憲 編著/高山芳樹、臼倉美里、大田悦子 著/アルク)参照

【お話を聞いた人】
大田悦子先生
東洋大学 准教授、Sherpaメンバー
琉球大学法文学部文学科卒。沖縄県および宮崎県公立高校教諭を経て、2004年東京学芸大学大学院修士課程入学。2010年同大学院博士課程修了。2011年度より現職。専門は英語教育学。

木下あおい
アルク教育総合研究所 研究員


取材・文: 織田孝一
写真: 市来朋久


中学英文法で大学英語入試は8割解ける!~高校英語授業の最優先課題~
アルク教育総合研究所 監修
金谷 憲 編著/片山七三雄、吉田翔真 著

試験問題に出る語彙は全て意味・用法が分かっていると仮定した場合、大学入試の「79%の問題が高校レベルの文法知識を含まない」「89%の問題が中学レベルの文法知識で解答可能」――多くの反響が寄せられた「アルク英語教育実態レポート Vol.2」の調査結果を、入試問題の豊富な実例とともに詳しく解説。

高校生は中学英語を使いこなせるか?~基礎定着調査で見えた高校生の英語力~
金谷 憲 編著/ 隅田朗彦、大田悦子、臼倉美里、鈴木祐一 著

高校生は中学で習った英語をどのくらい使いこなせるようになっているのか。その問いに答えるために、Sherpaのメンバーが、延べ5,000名を超える高校生を対象に「高校生の基礎力定着調査」を実施。その驚きの結果と詳細な分析を基に、高校英語授業のあるべき方向を提案する。


本記事は、『英語の先生応援マガジン』2018年春号に掲載した記事「データが明かす高校英語授業の最優先課題」を再構成したものです。

“本気の英語の先生”をアルクが応援する、登録制(会員制)ウェブサイト「英語の先生応援サイト(LTAF:Learning Teachers’ and Advisors’ Forum)」もぜひご覧ください。


アルク総研について

アルク教育総合研究所は、長年、日本の語学学習者に適した教材や学習サポート、スピーキングテストなどを開発・提供している株式会社アルクが、2015年に語学教育の専門研究機関として設立したものです。
調査・研究の対象は以下のとおりです。

  1. 学習者個人・企業・教育機関の学習に対するニーズや学習実態に関する調査
  2. 教材・学習法の研究と開発
  3. その効果検証など

調査・研究の成果は、『アルク英語教育実態レポート』として以下のページに公表しています。
▼調査レポート
https://www.alc.co.jp/company/report/

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