4技能英語資格試験のこれからを考える講演会、神戸学院大学にて開催

2020年度に始まる大学入試改革により、民間の4技能英語資格試験が入試に活用されることになりました。しかし、各大学がどのように試験を利用するかなど未確定な点がまだ多く、不安や懸念の声も聞かれます。
2018年6月9日に神戸学院大学が開催した公開講座「4技能英語資格試験はどうなる?」から、専門家が語った最新の大学などの動向と今後の展望についてレポートします。

国立大学協会発表のガイドラインが基本、しかし各大学の方針決定校はこれから

最初に、大阪大学の高等教育・入試研究開発センターの山下仁司教授が、国立大学における入試改革の現状と、今後の英語教育の課題についてお話されました。

「国立大学での英語資格試験の活用は、今年3月に国立大学協会(国大協)が発表したガイドラインが基本となります。東京大学でもガイドラインに沿って活用を検討すると発表されています。公立大学でも同様です。

ガイドラインでは、2023年度までは1次試験において大学入試センターの行う共通テストの英語と、民間の英語資格試験を併用することを決定しました。対象となるのは、センターが認定した全ての資格試験。活用方法については、①一定水準以上の資格試験の結果を出願資格とすること、②共通テストの英語試験の得点に民間試験の結果を踏まえて加点すること、またはこの2点を併用することが基本となります。

ただし、例えば広島大学は、資格試験で一定以上のスコアを取得した場合、共通テストの英語を満点とみなす、という方針を発表しました。このように、ガイドラインとは異なる利用法を選択する大学もあります。しかも、現段階で活用の方針を概ね決定したという大学は半数にも達していません。今後も各大学の発表を注視していく必要があります」。

新制度に対する複層的な課題

「新しい制度における不明点や懸念事項がいくつか残されています。受験者は高校3年生の4~12月の間に受けた2回までの資格試験の結果を利用できるとされていますが、複数の業者による試験に対し“1人につき2回までしか受験できない”ことを、どのように管理するかが発表されていません。

また、この成績請求制度はスケジュール上、一般試験にしか活用できません。国公立大学でも増加傾向にあるAO・推薦入試にはどう対応するのかが不明です。さらに、各種資格試験のスコアとCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)レベルの対照表は、あくまでも各試験実施団体がCEFRの基準と自試験の級やスコアを関連付けたものなので、それぞれの試験結果を同じレベルとみなせる保証がありません。この点は、今後本当に妥当なのかを検討していく必要があるでしょう」。
情報元: 文部科学省(各資格・検定試験とCEFRとの対照表)

「国大協のガイドラインでも、2024年度以降の資格試験の活用については実効性を検証しながら検討していく、としています。

一方、新たにスタートする共通テストの英語については、この2月に試行調査(プレテスト)が行われていますが、従来のセンター試験とは異なる方向性の問題が出題されています。大きなポイントは、文字による発音・アクセント・語句整序問題は出題されない可能性が高いこと。また、難易度は易しいけれど、さまざまな英文やグラフ、図などをたくさん読ませる、直読直解を前提とした問題であることです。リーディングでは指示文がすべて英語であることもこれを示しています。

まだ最終的な出題方針が決定されたわけではありませんが、文法や語彙を覚える、英文を和訳して理解するといった旧来の学習法では対応しきれない問題となる可能性が高いでしょう。また、リーディングとリスニングの配点比率を同じにすることも検討されています」。

これからの英語教育、そして教育目標

「新たな共通テストや英語資格試験に対応するために、今後の英語教育はどのように変わっていくべきなのでしょうか。

まず、精読・英文和訳を軸とした英語教育から脱却しなければならないと考えます。実は、TOEIC L&R テストの平均点では、リスニングよりもリーディングの方が低いのです。他の英語試験も同様ですが、TOEICのリーディングを和訳していては全問解くことは無理。直読直解で英語を理解する力を身に付けなくては、高得点は望めません。

日本語と英語の間で意味を変換して考えているのでは、速く読めないし、複雑な英語は聞いても理解できず、話しても書いても不自然な英語になります。読む速さでいうと、共通テストでも民間の資格試験でも、最低1分間に120語程度読む力が必要です。

さらに、文部科学省の調査によると、日本の高校3年生の英語能力は、約98パーセントがCEFRレベルでA2以下。特に、スピーキング、ライティングの発信技能が圧倒的に弱いという結果です。

精読・英文和訳を中心とした指導・学習から、英語で読み、聞き、書き、話す力をバランスよく練習するような学び方に変える必要があります。特に書き、話すためには、語彙表現や文法などを学んだ際に、それが無意識に口に出るまで繰り返し練習しなくてはなりません。

しかし、ほとんどの英語学習者は、学んだことを“ゆっくり考えたらできる”段階でストップしてしまっています。これを“考えなくても無意識にできる”段階にまでレベルアップするには、繰り返しの練習と実践が重要ですが、限られた学校の授業時間ではその時間を確保することは困難です。発信技能を高めるためには、復習を家庭学習に取り入れることが必要でしょう。eラーニングを利用するのも一つの方法です。家庭学習における予習と復習のバランスを見直す必要があります。

最後に、これまで私が英語能力テストと学習習慣調査を併せて行った数多くの研究でいうと、英語ができる人、学習効果が上がる人というのは、“自分で学び方を工夫し、自分の学習をコントロールできる人”です。最終的には、今の自分のレベルに合った学びが適切にできる学習者、すなわち“自己調整学習者(Autonomous Learner)”を育てることが、今後の教育の究極の目標になるでしょう」。

私立大学での4技能英語資格試験採用の現状

次に登場されたのは、神戸学院大学のグローバル・コミュニケーション学部長である東淳一教授です。私立大学における現状と今後の展望をお話いただきました。

「まず、4技能英語資格試験が現状でどのくらい大学入試に取り入れられているかというと、2017年度入試では、推薦・AO入試が41パーセント、一般入試が14パーセントの大学ですでに利用されています。そして、年々利用する大学が増えていく傾向にあります。

私学での利用方法は、①出願資格型、②得点換算型、③出願資格+得点換算型、④加点型の4パターンとなります。出願資格型の例を挙げると、TEAPを利用する上智大学や青山学院大学。青山学院大学の文学部英米文学科の場合、各技能65点以上の総合点280点以上が出願資格となります。どちらの大学も英語個別入試は課しません。一回だけの受験結果で出願資格を満たすことができない場合でも、TEAPを複数回受験し、各技能の最高点を組み合わせた総合点で出願資格を満たすことができます。

立命館大学・国際関係学部国際関係学科のIR方式(英語資格試験利用型)では、「出願資格+スコア」によって100~80点の得点加算があり、個別試験も行われます。また立命館大学のセンター試験方式入試では、一定のスコア以上を獲得していればセンター試験の英語の得点が満点に換算されます。

神戸学院大学では、公募制推薦入試に加点型を取り入れています。学部・学科によって加算点は異なり、スコアによって50~10点が加点されます。

英語資格試験利用入試方式の募集人数は、それほど多くないのが現状。しかし、志願者数は増加傾向にあり、中には1年前と比べて志願者数が倍増した大学もあります。これは、英語資格試験は受験者にとってメリットのある受験方式だからです。一発勝負の大学個別試験と異なり、時間的にも精神的にも余裕を持って試験を受けることができます。特に私学では、資格試験の受験期間が1~2年、もしくは受験時期を問わない場合もあるため、受験のチャンスが複数回あります。ただ、大学・学部・学科によって資格試験の利用の可否や利用方法はさまざまで、受験者が状況を把握しづらい状況にあるといえます」。

情報を集めて、状況を見極める

「こうした状況を踏まえ、中・高校生のうちから英語力の養成を図り、代表的な英語資格試験を受験しておくことが、今後の入試戦略の一つになります。目標とする大学・学部・学科の資格要件を満たし、換算のある場合はみなし満点を取れるところまで英語力を引き上げておくことが求められるでしょう。

難関大以外でも英語資格試験の導入をする大学が増える可能性があります。しかし一方で、みなし満点の天井効果により、英語力で他の受験生との差別化ができなくなる恐れもあります。英語以外の入試科目の成績が本当の勝負になってくるかもしれません。英語力の強化を図るとともに、情報を収集して状況を見極めることが大切になっていきそうです」。

3年間の高校生の英語スピーキング能力実態調査で見えてきたこと

最後に、語学教育関連の研究・調査に携わる立場から、アルク教育総合研究所の平野琢也所長が、主にスピーキング力の向上について話しました。

「株式会社アルクが開発した、TSSTという英語スピーキング能力測定試験があります。これは電話で受験するもので、所要時間は15分、1問あたりの回答時間45秒で10問に回答する形式です。質問に対し、準備なしにどのくらい話せるかを測定し、評価は9段階となっています。

このTSSTを使って約300人の高校生に調査協力してもらった結果、高校1年生は約70パーセントがレベル3でした。CEFRではA1に相当し、意味が通じなくなるような文法・語彙選択の誤りが多く見られるようなレベルです。一方、社会人、大学生ではレベル4が最多で約40パーセント。基礎的な単語や構文を使って簡単な文は話せるものの、言い直しや文法誤りが頻繁に起こるレベルです。

また、社会人も含めたTSST受験者全体を対象としてTSSTレベルとTOEIC L&R テストのスコアの関係を調べて分かったのは、スピーキングと、リスニング&リーディングのバランスが悪い人が多いということ。すなわち、ペーパーテストで高得点を獲得できても、スピーキング力は決して高いわけではない、ということです。

では、TSSTや、TOEFL iBT、TEAPなどのテストでは、スピーキング力をどのように評価しているのかを少し詳しく見てみると、それぞれのテストの評価基準の一部は異なるものの、大枠では大きな違いがないのが分かります。多くの受験生や英語教師が気にする語彙・文法の正確性は評価基準の一部でしかありません。メッセージがうまく伝わることや、自分の言葉で意見を言うことが重要視されています。

スピーキング力をどのように上げるかという課題については、3校約300人の高校生を3年間追跡調査した結果からご紹介したいと思います。この調査では、同じ高校生に3年間継続してTSSTを年1回受けてもらい、アンケートにも回答してもらいました。高校1年から3年までのレベル推移をみると、1つの高校が他の2校と比べてレベルアップした生徒の割合が高いという結果でした。レベル3の割合が減った分、レベル4が大幅に増加し、レベル5を獲得した生徒も増えています。

大幅にレベルアップした高校の授業内容に関しては、他の2校と比べて、発音練習、音読、ディスカッション、ライティング、単語・文法と、さまざまな種類の学習にまんべんなく取り組む生徒の割合が高いことが分かりました。自宅学習など授業以外でも同じ傾向が出ています。

その上で、学校の授業では“発信”のためのさまざまな活動を行い、自己学習では“基礎知識”の習得に意識的に長めの時間を割いていました。学校で発話練習やライティングなど発話能力に直結する学習を行い、自宅ではライティングや単語・文法の学習にしっかり取り組んでいたのです。

学校と自宅というそれぞれの環境に適した学習内容を選択し、互いが補い合う関係がうまくできていた結果が、スピーキング能力の向上につながっていったと言えると思います。

スピーキング力の向上について話をしてきましたが、今、入試改革で進められている4技能英語資格試験の導入は、学んだ英語を使うことを重視する改革だと言えると思います。学んだ英語を使って何をするのかを意識して、高校でも大学でも、指導の方法やゴールを見極める必要があるのではないでしょうか」。

本講演から、この先の英語入試が受験生に求める力の中で、今の生徒が苦手とするものは、発信力、特に「Speaking・やりとりすること」であることが分かります。今後、各大学は、その力について「どこまで入試段階で求めるのか(Admission Policy)」「卒業時にどのレベルに到達してほしいのか(Diploma Policy)」「そのためにどのようなカリキュラムを準備するのか(Curriculum Policy)」を検討した上で、4技能試験の活用方法を定めること、そして、高校生や高校教員、保護者などへ発信し、理解を得ることが重要であると感じました。

<登壇者プロフィール>
山下仁司 氏
大阪大学 高等教育・入試研究開発センター 教授

1983年、大阪大学卒業後、福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社。ニューライフゼミ英語編集長、国際教育事業部長、GTEC開発主査、ベネッセ教育総合研究所主席研究員などを経て2016年より現職。

東 淳一 氏
神戸学院大学 グローバル・コミュニケーション学部長 教授
兵庫県立長田高等学校他で教鞭を執った後、流通科学大学商学部、順天堂大学医学部を経てラーゲンフルト大学院博士課程にて情報科学を学ぶ。主な研究分野は、音声学、外国語教育、メディア・コミュニケーション学。

平野琢也
アルク教育総合研究所 所長
明治大学、西オーストラリア大学卒。株式会社アルクにて、月刊誌・書籍などの英語教材編集、TSST(Telephone Standard Speaking Test)などスピーキング能力テストの開発・運用、英語学習アドバイザー資格認定制度(ESAC)の立ち上げ・運用などに関わり、現在は、英語教育関連の調査・研究に携わる。


取材・文: 溝口 葉子
写真: アルクplus 編集部

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