社員の英語力、視野を広げた三井不動産のグローバル研修

三井不動産

海外事業の展開に力を入れるため、わずか8年で英語が必要な業務に対応できる社員を倍増させた三井不動産は、どんな研修や取り組みをしたのでしょう。成功の秘策を人事部の吉村悠さんにお聞きしました。

三井不動産株式会社
1941年設立。オフィスビル、商業施設、ホテル・リゾート、不動産ソリューションサービス、ロジスティクス事業など、幅広い事業を展開する。超高層ビル、高層住宅、アメリカ型ショッピングセンター、アウトレットモール他、日本初となるプロジェクトを多数実現。地域の再開発や町づくりも推進する。近年、海外事業にも力を入れ、さらなる発展を目指す。
http://www.mitsuifudosan.co.jp/


成長戦略としての海外事業展開を機に、思い切ったグローバル研修を導入

――グローバル化を意識した人材育成には、いつ頃から取り組んでいるのですか?

吉村 不動産業界は事業の性質上、ドメスティックなイメージの強い業界です。ほんの十年くらい前まで、「不動産業界なら英語力は求められないだろう」と、入社してくる人も少なからずいました。つまり英語アレルギーの社員も結構いて、会社がTOEIC受験などを奨励しても、「英語? 何のために?」という雰囲気だったのです。

しかし2010年ごろから、状況は一変しました。会社は成長戦略として海外事業の拡大を打ち出し、グローバル展開に資する人材の養成が、急務となったのです。経営陣は思い切った意思決定を行ない、社を挙げたグローバル研修に取り組み始めて今に至っています。

――「ドメスティックな不動産業界」の海外事業とは、どのようなものなのですか?

吉村 当社の場合、アメリカ、イギリス、シンガポール、中国、タイ、台湾など、世界12カ所にネットワークがあり、オフィスビル、住宅、商業施設、ホテル、地域の再開発や町づくりと、さまざまなプロジェクトに携わっています。投資はもちろん、当社が持つさまざまなアセットを利用し、意思決定からディテールまで深く関わり、デベロッパーなどの現地パートナー企業と協力して、案件を動かしていくのです。たとえばロンドンのBBCテレビジョンセンター再開発計画では、オフィス棟のリーシング*や住宅分譲も、当社が中心に行なっています。
*賃貸の不動産物件に対してテナント付けを行うこと。

ホワイトシティプレイス三井不動産グループが、英国公共放送局であるBBCより取得したホワイトシティプレイス。
新築ビルの建築、既存ビルの改修などを行った

若手を中心に中堅も幹部も。世代ごとの海外グローバル研修

――実際にはどのような形で、グローバル研修を行なっていますか?

吉村 アルクさんにもご協力いただいて、2011年に「若手グローバル研修」を始めました。入社3年目の社員を4~8週間、海外の語学学校に派遣して、ホームステイもします。漫然とTOEICなどの英語研修だけをやっても、会社のドメスティックな風土は変わらないことはわかっていたので、思い切って若手社員に海外経験をさせようというわけです。以来、入社3年目の社員は基本的に全員、参加が必須となっています。

2014年からは、「中堅グローバル研修」もスタートしました。こちらは例年、10名から15名程度の中堅社員が対象です。この世代は仕事の責任も大きく、研修に割ける時間も限られますので、短期間で集中的に学んでもらう配慮が必要です。去年は、フィリピンやシンガポールなどの語学学校に2~4週間ほど派遣し、マンツーマンの語学研修を実施しました。

また、役職者が対象の「海外マネジメント研修」では、ハーバードなどのビジネススクールで、2~3週間の短期コースに参加します。

――研修の成果をどう評価されますか?

吉村 成果は研修開始の当初からはっきり出ています。短期間でも海外に行くことで、まず英語に対するアレルギーがなくなります。学習を続けるモチベーションも高まります。でもそれだけではなく、英語が身近になったと同時に、視野も広がったと、多くの社員が異口同音に言うのです。これが一番重要な成果かもしれません。

TOEIC730点以上の社員が倍増
段階的で丁寧なプログラム構成が成功の秘策

――研修をきっかけに、英語力も順調に伸びているようですね。

吉村 当社では、これまでの経験や、TOEICの点数などを元に、海外業務を遂行できる社員の人数を把握しています。2010年時点ではTOEIC730点以上の社員は、全社員のわずか20パーセント程度でした。

若手グローバル研修のスタートから8年がたった今、社員のおよそ半数近くが、TOEIC730点以上となり、すぐに海外業務を遂行できる社員の人数は8年前の3倍になりました。もともと「英語なんて」という風土だったのに、今や英語ができない人がむしろマイノリティーなのですから、本当にすごい変わりようだと思います。

コレド室町「残しながら、蘇らせながら、創っていく」をコンセプトに、官・民・地元とが一体となり、地域の活性化と新しい魅力を創り出す「日本橋再生計画」を進めています(吉村さん)

――振り返ってみて、貴社の研修成功の秘策は何だと思われますか?

吉村 ひとつは初年度から一気に、若手20人ほどを海外に出したことです。社員同士のつながりが密な会社なので、海外研修で自信を付けて、あるいは普段の業務では得られないような経験をして帰ってきた仲間の話を聞いた社員は、「自分も英語をやらなければ」と思うのでしょう。また、若手が英語に取り組んでいる姿を見て、上司の方々も大いに刺激を受けているようです。英語に対して前向きな空気が、社員の間に急速に広がっていきました。

もうひとつは、渡航前から帰国後まで、一歩ずつ段階を踏んで意識を高め、実力を付けていけるよう、プログラムが構成されている点です。若手グローバル研修を例にとると、渡航前にアルクさんから講師を招き、日本と外国のコミュニケーションの違いや、グローバル人材とは何かといったテーマで講習をしてもらいます。この段階ですでにモチベーションは上がり、目的意識や心構えもしっかりできて、渡航することになるわけです。

海外に出てからは、英語のレッスンに加え、現地ならではのテーマを自由に考えて、自分なりに調べてもらいます。帰国後、ネイティブ講師によるプレゼン技術の研修を受けた後、同僚や上司の前で20分程度のプレゼンテーションを英語で行います。

ちなみに中堅グローバル研修では、業務関連のテーマについて、英語でディスカッションをしますが、これも非常に充実しています。研修の前後にTOEICを受験しますので、英語力の伸びもはっきり確認できます。

――貴社にとっての「グローバル人材」とは、どんな人ですか?

吉村 もちろん語学力は大事な要素です。国内でも、オフィスビルや商業施設のテナント、ホテル事業における宿泊客といった、海外のお客さまはますます増えていますし、部署によっては、海外のオペレーターとのやりとりもあります。日常的に英語が飛び交う職場というわけではありませんが、今後の海外事業展開を考えれば、優秀で英語も堪能な人材は、まだ十分とはいえないと思います。

英語以外では、新しいことに挑戦する姿勢、現地のスタッフを束ねるリーダーシップ、パートナー企業との関わりの中で必要な幅広い教養などを、総合的に身に付けていることも、グローバル人材の要件でしょう。海外で仕事をする場合、現地スタッフやパートナー企業が持ち込む案件について、意思決定機関である日本のヘッドクオーターと調整するのは、日本人駐在員の役割です。その意味で、現地の人たちからすると、日本本社に対して存在感や発言力を持つ駐在員が、関係者間の意思の疎通と業務を円滑に進める上で、より望ましいということになります。

グローバル研修を通じて実績は上がってきていますが、社員それぞれの研鑽を会社としても引き続きしっかりバックアップし、確実に海外業務が遂行できる人材の増強を目指していきたいと考えています。

三井不動産
三井不動産 人事部 人材開発グループ 主事
吉村 悠さん

2010年入社。大学では土木関係を学んだ。入社後は、住宅開発用地の取得の仕事を経て、人事部人材開発グループへ異動。採用担当を経験したのち現在は新人研修から役員研修まで、年間約80種類もの研修について企画運営を行なっている。不動産の仕事は、憩う時間、楽しい時間、思い出に残る時間を作る仕事。そういう場や空間を、世の中に提供していくことに、魅力と意義を感じている。

◆こちらでも記事をご覧いただけます>> 世界の市場に乗り出す、日本屈指の不動産会社
若手の海外語学研修をきっかけに、会社のドメスティックな風土が変化


取材・文: 田中洋子
写真: 横関一浩
写真提供(2、3枚目): 三井不動産

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