社員の英語力を伸ばすために――スティーブ・ソレイシィ先生が教える、企業がするべき4つのこと

社員の英語力強化に力を入れる企業が多い中、思うように成果が上がらない……と悩む人事担当者も多いのではないでしょうか。社員の英語力を伸ばすために企業がすべきことは何か、多くの企業で英語研修に携わるスティーブ・ソレイシィ先生に伺いました。


TOEICスコアは高得点……なのに「話せない」社員たち

――これまで、さまざまな企業で英語研修をされていますが、現状において一般的な企業の英語研修はどのような状況ですか?

ソレイシィ 現在のような企業の英語教育モデルは、2000年以降にできあがったようですね。多くの場合、内容は主に二本立てとなっていて、ざっくりいうと、英語講座のカタログを社員に配布し、会社の費用で自学を促すことと、社員のTOEICスコアを管理することです。人事部の使命の一つは、新入社員を含めた全社員が1点でも高くスコアを伸ばすことです。

――それで、社員の英語力は上がっていますか?

ソレイシィ 読む力と聞く力は伸びていますが、それでもまだ、発信型の力は相変わらず弱いようです。悪く言うと、受験勉強の延長線上にあるように思います。「なんとなく意味はわかるけれど、使いこなせない」「会話力には自信がない」という社員が多数派ではないでしょうか。

――社員の英語力を上げるには、どのような方法が有効でしょうか。

ソレイシィ 私自身は、日本の皆さんに英語の運用能力を付けてほしいので、面接型のトレーニングやスピーキング試験を導入したいと思っています。ただ、人事部の希望は既存のTOEIC中心の英語教育モデルをベースに、「社員の学習意欲を高めること」というものが多く、ギャップがありますね。

日本では、英語が話せなくてもいい企業に就職し、安定した収入が得られます。新入社員も、「どうしても英語を話せるようにならなくては」という切迫感を持ちません。さらに、入社試験や社員の評価基準をTOEICスコアに置いている限り、大半の人はテスト対策に力を入れます。これでは、英会話学習に対する長期的なモチベーションは維持しにくいでしょう。

一方で、企業や社員の間では最近、二つの傾向が見られます。一つは、多くの人事部が「他社は英語のできる社員が多いけれど、うちの会社はできていない」と考えていることです。自社だけが取り残されているように感じるのでしょう。ただ、英語ができるように見える大手IT企業でも、社員のTOEICの平均スコアが400点台であったり、海外支店の会議には通訳者を使っていたりするのが実状ですから、安心してください(笑)。

そしてもう一つは、「自分は英語ができないけれど、若手はできている」と考える40代以上の社員が増えていることです。自分以外は英語ができるとコンプレックスを感じる人が多いようですが、ふたを開けてみると、若手社員のTOEICスコアは上がっていたとしても、特にビジネスの場では、英語の運用力は実はそれほど高くないことが多いです。

――TOEICのスコアが高くても、英語にコンプレックスを持つ社員はいるようですね。

ソレイシィ はい。TOEICは、効率よく点数を測るペーパーテストとしては優秀ですが、英語の苦手意識を抱かせてしまうという副作用もあります。スコアが高くても英語を「話せない」ことや、ペーパーテストにつきものの引っかけ問題に惑わされて誤答してしまうことで、自信をなくしてしまう人が多いのです。

最近の良いトレンドは、英文メールのやりとりが、以前より頻繁に行われるようになったことです。でも、英語の電話や海外出張、外国人スタッフやクライアントの突然の訪問を嫌がる人は、今でもとても多いですね。

――ごく一部の「英語ができる社員」に業務が集中してしまいそうです。

ソレイシィ 例えば、海外のクライアントと商談をした翌日、部長あてに英文メールが届くとします。シンプルな文面でお礼の返信をすればいいだけですが、英語アレルギーの部長は、部下に返事を書くよう指示しがちです。このとき、部下は「Thank you.と書くだけでいいのに……。そんなふうに思考停止するのは、おかしいよ」と不満を持ってしまいます。

このように、多くの企業では、「英語ができる社員」と「できない社員」の派閥が生まれてしまっています。前者がマイノリティーで、後者がマジョリティー。英語ができない社員が、できる社員に対して「英語はできるけど日本語はダメじゃないか」とか、「英語ができても仕事ができなかったら意味がないよ」などと批判的な目を向けるケースも見られます。

では、英語ができる社員がイキイキと活躍しているかというと、必ずしもそうとは言えません。英語ができない社員のところに英語関連の案件が来ると、先ほどの例のように全てを丸投げされたり、グローバルな事業に他の人を巻き込みづらかったりするようです。できる人にしてみれば、「会社がグローバル化を目指すなら、みんなでやるべきことなのに」といった具合にストレスをためてしまうのです。

スティーブ・ソレイシィ先生

英語力ではなく、国際コミュニケーション力を強化する

――英語の運用力、派閥の問題が見えてきました。社員の英語力を強化するには、どうすればいいでしょうか。

ソレイシィ 成功している企業は「社員の英語力強化」ではなく、「組織における国際コミュニケーション力強化」をうたっています。それも、一部の「できる社員」だけでなく、社員全員が英語でコミュニケーションをとり、英語で業務を行えるようにすることを目標としています。

「個人の英語力強化」ではなく、「組織的な国際コミュニケーション力強化」という方針にシフトしましょう。まずは、組織レベルで制度を変えていくことが大切です。私が企業にお勧めしている方法は、以下の4つです。

1. 社員にスピーキングテストを受けさせる
英語の運用力は、ペーパーテストでは測れませんが、スピーキングテストなら可能です。最近は、TSST(※電話で行うアルクの英語スピーキングテスト)をはじめ、さまざまなスピーキングテストが提供されています。スピーキングテストを定期的に受けることで、企業も社員も、現在の英語力や、学習した効果を実感できます。さらに、スピーキングテストの場合は、テスト対策の勉強も無駄にはなりません。会議や打ち合わせにも応用可能な、ビジネスシーンに直結する英語力が身に付くからです。

2. 社員が英語を話しやすい環境を作る
多くの日本企業は、社員の机をくっつけて「島」にしたレイアウトを採用しています。これだと、英語で電話がかかってきたときに、自分の話す英語を同僚に聞かれて恥ずかしい思いをする社員がほとんどです。その結果、英語で電話を受けたくないという気持ちがどんどん膨らんでいってしまいます。

「日本人は間違いを恐れて英語を話せない」とよく言われますが、日本人が常に恐れているのは、英語の間違いを「他の日本人に」聞かれることです(笑)。こうした状況を作らないためには、いつでも一人で使えるスペースを設けて、そこで電話やビデオ会議をできるようにすることです。

海外とのやりとりが頻繁にある企業では、「島」のレイアウトをやめて個々のデスクを離したり、固定電話でなく携帯電話で通話できるようにしたりといった工夫をするとよいでしょう。オフィスの隅まで行けば、同僚に聞かれることなく、堂々と英語を話せるようになるはずです。

3. 「英語ポリシー」を作る
社員の英語を使うプレッシャーをなくす取り組みに成功したのが、楽天です。彼らは、明瞭でシンプル、誰にとってもわかりやすい英語を使う「プレイン・イングリッシュ(Plain English)」を採用しています。アメリカではプレイン・イングリッシュの必要性がよく知られていて、多くの企業で、株主への報告書にはプレイン・イングリッシュを採用しています。

平易でわかりやすい英語を使う「英語ポリシー」を、役員レベルで定めることが大切です。また、僕が思うに、ポール・ニューマンのような英語でもなく、イギリスのメイ首相のような英語でもなく、「教養のある、プロフェッショナルな日本人の英語」とはどのようなものか。これについて考えたことのある日本企業は、ほとんどないのではないでしょうか。

4.「国際コミュニケーションポリシー」を作る
例えば、アメリカの人たちと定期的に会議をするのであれば、共通のガイドラインを定めておくのがいいでしょう。アメリカ人同士の会議では、通常、テンポよく次々と発言がなされ、話している人をさえぎって他の人が話し始めることもあります。では、はたして日本人もそのスタイルに合わせなければいけないのでしょうか。

一方がもう一方に合わせるだけでは、負担に感じることもあると思います。互いに良好な関係を築くために、アメリカ側に「人の話は最後まで聞きましょう」「順番に発言しましょう」という具合でリクエストをします。もちろん、アメリカ側にリクエストがあれば、それを日本側に伝えます。双方にとってやりとりしやすいガイドラインを、あらかじめ決めておくのです。

――多くの人事担当者が意識していなかった問題点も、多々あるのですね。

ソレイシィ 人事部だけで企業のグローバル化を図れるのは至難の業。役員レベルが動かない限り、何も始まらないでしょう。私は、企業にはCEOやCFOのように、Chief International Communications Officer(CICO=国際コミュニケーション責任者)という役職も必要だと考えています。私自身、企業研修だけでなく、国際コミュニケーション力強化のためのコンサルティングまでさせていただくこともあります。

目的の技能に合わせた学習を。
発信型は専用の教材、受信型は海外ドラマがお勧め

――社員に対しては、英語を身に付けるためにどのような方法を勧めるとよいでしょうか。

ソレイシィ まず、スピーキングテストやライティングテストを受けてください。すると、自分にとって必要な練習と教材がはっきりしてくるはずです。

宣伝になってしまいますが、僕はスピーキング力育成のための教材を作っていますので、よかったら『英会話なるほどフレーズ100』や『英会話ペラペラビジネス100』、「英会話1000本ノック」シリーズといったテキストを見てください。また、僕が講師を務めるNHKラジオの「英会話タイムトライアル」では、広く使える表現を厳選して、発話の瞬発力を鍛えます。番組では、制限時間内に発話するトレーニングもできますので、ぜひ試していただきたいです。
ソレイシィ先生書籍

Skypeなどを使ったオンライン英会話もお勧めです。レッスンの場は、講師と教材を学ぶのではなく、自分の英語が相手に通じるかどうかを確認する機会にしてください。

リスニング、リーディングの「受信型」については、社員全員が一列に座り、同じ教材に取り組む学習スタイルは、古いし効果も薄いです。最も効果的なのは、自分が心の底から楽しいと思える素材を見つけて、量をこなすことです。ビジネスの場で通用するリスニング力を身に付けるには、ひと月に最低でも15~20時間程度の視聴が必要です。毎月、これを続けてください。

最近は、さまざまな動画配信サービスがあります。いろいろな番組を見比べてみて、「続きが気になって仕方がない」「イッキ見したいほど面白い」とウズウズするようなドラマを、各自で見つけましょう。特に海外ドラマは、映画よりせりふのシーンが多いですし、ビジネスや日常で使える会話がたくさん出てくる作品もたくさんあります。シリーズを通じて同じ登場人物が出てくる点もなじみやすく、お勧めです。

――最後に、企業の人事担当者に向けてメッセージをお願いします。

ソレイシィ 穴埋めテストで、「正しい英単語」を探して当てはめる行為を、私は「英語パズル」と呼んでいます。日本はそろそろ、英語パズルを基準にすることから卒業して、真の英語コミュニケーション力を身に付ける仕組みにシフトするべきです。

そもそも、なぜ、日本企業に英語が必要なのでしょうか。「海外と取引できるようになる」ということもありますし、今の時代、「海外の人材を自由に受け入れられるようになる」ことのメリットも大きいと思います。いずれにしても世界の人たちと一緒に仕事をすれば、日本企業は今よりももっとパワフルになる。それだけは、間違いありません。

この記事を読まれている皆さんは、社員の英語力を本気で伸ばしたいと思っていることでしょう。それなのに、今の企業の英語教育モデルは、その変化が起こりにくい仕組みになっています。皆さんの世代で、変化を起こりやすい仕組みにして、英語コンプレックスを持つ世代を最後にしましょう。

そのためには、これまでにご紹介した、国際コミュニケーション力を高めるための4つの方法を、役員レベルで始め、真剣に行ってください。英語を使える国に仲間入りするための変革を、企業中心に行っていくのです。これが社会全体に伝わり、先輩から後輩、親から子へと英語コンプレックスが伝わってしまうことを食い止められます。Let’s change Japan now!

スティーブ・ソレイシィ先生
教えてくれた人:スティーブ・ソレイシィ先生

アメリカ、フロリダ州出身。アメリカン大学国際政治学部卒業。1990年にAET(英語指導助手)として初来日。1995年に文部省(当時)の国費留学生として再来日。1999~2003年、NHK教育テレビ「はじめよう英会話」講師。2012年よりビジネス・ブレークスルー大学経営学部教授。同年スタートしたNHKラジオ「英会話タイムトライアル」で今年度も講師を務める他、英会話コーチとして、英語教材の企画・開発、執筆、企業研修など幅広い分野で活動している。
主な著書に『英会話なるほどフレーズ100』『英会話ペラペラビジネス100』(アルク)、『英会話1000本ノック』(コスモピア)などがある。最新刊は、『鈴木亮平の中学英語で世界一周! feat.スティーブ・ソレイシィ』(マガジンハウス、共著)。DVD教材に『ENGLISH SPEAKING INNOVATION 今日から英語が出来る6つのなるほどステップ』(アルク)他。
http://stevesoresi.jp/

構成: いしもとあやこ
写真: アルクplus 編集部

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