SNSの「つながる」力をリアルに体現。ソーシャルアパートメントという新しい暮らし方

山崎剛さん

SNSが多くの人にとって欠かせないツールとなった今、そこから生まれる交流やつながりを「住宅」というリアルな場で体現しているサービスがあります。その名も「ソーシャルアパートメント」。従来型の賃貸住宅ではなく、シェアハウスともちょっと違う、この新たな居住形態とは、いったいどんなものなのでしょうか。グローバルエージェンツの代表取締役社長、山崎剛さんに伺いました。

※「ソーシャルアパートメント」って?
従来型の居室に、入居者やその友人が自由に利用できるラウンジなどの共用部がついた賃貸物件。グローバルエージェンツが運営し、現在、都内近郊を中心に36棟、約2,000戸が稼働している。プライベート空間としての居室は確保しつつ、入居者同士の交流も自然と生まれるという新しい居住形態が、ミレニアル世代*を中心に人気を博している。

*ミレニアル世代……主に1980年代から2000年代初頭に生まれた人を指す。幼少期からインターネットやデジタル機器に触れ、新しい価値観を持つ世代とされる。


人と人とをつなげる仕組みを「住宅」に採り入れたかった

――山崎さんがソーシャルアパートメントの着想を得て、起業されたのが2005年のことでしたね。事業を始められた経緯を教えてください。

山崎 19歳の時、大学の単位の関係で半年間の空き時間ができたので、「どうせだったら面白いことをしよう」とロンドンに留学しました。ロンドンの住宅街には古い家々が建ち並んでいて、若者はそうした家の一室を間借りして暮らすのが一般的です。僕もそんなふうにして暮らしていました。僕にとっては初めての一人暮らしであり、初めてのシェアハウス体験でもありました。同じ家にイギリス人の若者が一人住んでいて、仲良くしてもらったことをよく覚えています。2002年に帰国した後も、どうせなら楽しく住みたいという気持ちが強くて、シェアハウスや外国人ハウス、寮などさまざまな形態の物件に住みました。

2004年になると、GREEやmixiといった日本のSNSが始まりました。使ってみると、これがすごく面白い。それまでは、交流会であいさつした人ともそれきりになってしまったり、名刺交換をしても「誰だっけ?」と忘れてしまったりしていましたが、SNSによって関係を継続しやすくなりました。しかも、相手の趣味や出身校が見えたり、自分の友人知人が意外なところでつながっていたりという発見もあって、交流がどんどん広がっていく感じがしました。

そこで考えたのが、SNSのように人と人とをつなげる仕組みを、リアルな場で実現できないかということです。当時、僕はデベロッパー(開発業者)でインターンをしていて、不動産の知識を身に付けていました。さまざまな場所で暮らした経験も相まって、住宅の「共用部」がリアルなSNSとして機能するのではないかと考え、ソーシャルアパートメント事業を立ち上げました。

――近年はシェアハウスに住む人も増えた印象ですが、ソーシャルアパートメントがシェアハウスと異なる点は何でしょうか。

山崎 シェアハウスの根源的なテーマは「シェア、共有」。誰かと共有することによって、より経済合理的に住んでいこうという考え方です。一方、ソーシャルアパートメントは最初にシェアありきというよりも、「SNSの持つ力をリアルな場で体現したい」というのがコンセプト。人と人とが交流できる場所が欲しい、そのために共用ラウンジを作る、という順番です。両者には似ている点もありますが、発想の起点が違うということですね。

ソーシャルアパートメント居心地の良さに重点を置くラウンジルーム

外国人居住者との交流をきっかけに留学した人も

――ソーシャルアパートメントには、外国人の居住者もいると聞きました。国籍や言葉が違っても、ラウンジなどで顔を合わせるうちに、自然と仲良くなれそうですね。

山崎 ええ。「外国人と交流したい」「留学する前の肩慣らしをしたい」といった理由で、外国人居住者の多い物件を希望される日本人の方もいらっしゃいますよ。

僕自身、自社物件に5年ほど住んでいたことがあり、そのときに印象深い出来事がありました。その物件には外国人の住人がいたのですが、ある日本人男性は英語がまったくできず、特に学ぶつもりもないようで、最初は交流しようとすらしなかったんです。それが、ラウンジで過ごすうちに英語であいさつするようになり、親しくなった。やがて、一緒にジョギングする仲にまで発展して、半年後にはなんと海外留学をすることになったんです。英語力が上がったからというよりも、興味の対象ががらっと変わったんだと思います。

ソーシャルアパートメントに住んでいなければ、きっと英語に興味を持つことも、留学することもなかったでしょう。そうした変化のきっかけになれたことは、すごくうれしかったですね。

ソーシャルアパートメントビリヤード台や卓球台、シアタールームなどを設置する物件も

――ほかにも、ゲスト交流型ホテルや住宅併設型カフェなど、「交流」をテーマにさまざまな事業を展開していらっしゃいますね。

山崎 じつは、業態が異なっても、提供している価値は本質的に同じだと考えています。違うのは、その価値を届ける相手の属性や規模、期間、体験の深度。現在、ソーシャルアパートメントの部屋数は約2,000戸です。皆さんだいたい2年ほど住まれるので、体験の深度はものすごく深いです。人生が変わった、新しいビジネスにつながった、入居者同士で結婚したというような話も聞きます。ただ、体験してもらえる方の数としては、年間2,000人ほどにしかならないわけです。

ホテル事業は、ソーシャルアパートメントでできる体験を、より多くの方に広げたいと考えた中で生まれたものです。1人あたり平均2~3泊すると考えて、100室あれば、たった1カ月で2,000人に体験してもらえる。1年間で2万4,000人にもなります。体験の深度は浅くなりますが、そのぶん、多くの人に届けられるのです。カフェやコワーキングスペース(共用オフィス)も同様で、滞在期間はより短くなりますが、体験してもらえる人数はずっと多くなります。

GRAPHY lounge hotelホテルのラウンジでは、旅行者同士で交流を楽しむ姿が見られる

ミレニアル世代のキーワードは「合理性・自由・多様性」

――どの事業も、主にミレニアル世代をターゲットにされています。ミレニアル世代の特徴とは何でしょうか。また、なぜ彼らをターゲットにしているのでしょうか。

山崎 ミレニアル世代は、その上の世代よりも「合理性」や「自由」を重視する傾向があります。よく「ミレニアル世代はシェアする世代」と耳にするのですが、これは必ずしも正しくありません。彼らはシェアにこだわっているわけではなく、合理的であろうとしているだけなんです。シェアのほうが合理的ならシェアするし、所有するほうが合理的なら所有する。ソーシャルアパートメントにも、「それぞれの居室はプライベート空間として占有する。その上でラウンジをシェアすれば、より豊かな日常を送れるよね」という合理的な判断が反映されています。

また、SNSを中心に、「多様性」に対する許容がすごく進んでいる世代でもあります。だから、ソーシャルアパートメントのように、今までまったく知らなかった人たちと交流できるという居住形態にも、抵抗なくなじめるのではないかと思います。

僕自身、1982年生まれのミレニアル世代。一方、不動産業界で意思決定にあたる方々は、その多くが50~60代です。彼らが作るものと、僕たちの世代が住みたいと思うものとの間には、大きなギャップがあると感じます。どんなビジネスにおいても、商品やサービスを作る上でペルソナを想像するのは難しいことで、自分たちが住みたい、使いたいと思うものを作るほうが圧倒的に有利です。そういう意味で、ミレニアル世代をターゲットとすることは、われわれにとっても合理的な判断といえます。

ソーシャルアパートメントという住まい方が
当たり前の「文化」になってほしい

――今後の展望を教えてください。

山崎 当社の大きなミッションとして、「誰もが自己実現に向かって邁進(まいしん)していける社会を作る」というものがあります。人は、自分の目指すものに向かって頑張っているときが一番充実している。そういう社会こそが、豊かな社会であると考えています。

自己実現って、まずは目指すものを見つけるところから始まると思いますが、見つけたら見つけたで、今度はいろいろな人脈や情報や機会が必要になります。コミュニケーションは、やはりすごく大事な要素なんです。そうした自己実現のために大切なコミュニケーションの場を、当社のサービスを通じて提供していきたいと思っています。

グローバルエージェンツは、自らを「文化創造企業」と銘打っています。「文化」の定義はいろいろありますが、ここでは行動様態や生活様式といった意味です。ソーシャルアパートメントのような住まい方が、短期的なトレンドではなく、社会における一つの文化として当たり前になる。そうした状態にまで持っていくことが目標です。

山崎剛さん山崎 剛さん
グローバルエージェンツ 代表取締役社長

2005年5月、東京工業大学在学中にグローバルエージェンツを設立。大学卒業までに1物件をオープン、他2件のプロジェクトを手掛ける。2006年4月、ゴールドマン・サックス証券に新卒入社。国内の不動産投資に携わり、オフィス・商業施設・ホテル・ゴルフ場・不動産関連会社などの投資案件を担当。2008年より同社シンガポール支社にてアジアでの不動産投資に従事。2009年1月、同社を退職。同年2月、グローバルエージェンツ代表取締役に再就任。
http://www.global-agents.co.jp/


取材・文:いしもとあやこ
写真提供:グローバルエージェンツ
写真(人物):アルクplus 編集部

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