接遇英語のプロが教える、「おもてなし英語」研修で大切なこと

中野美夏子先生

訪日外国人と仕事で接する機会を持つ方が増える中、英語でおもてなしの心を伝える「おもてなし英語」「接遇英語」への関心が高まっています。相手に意図が伝わるために必要なことや、成果が出る研修について、書籍『接遇英語のプロが教える「出だし」だけ+ジェスチャーから始めるおもてなし英語』の著者であり、接遇英語講師の中野美夏子先生に伺いました。

中野美夏子さん
株式会社First Star代表取締役。接遇英語講師。
国際基督教大学(ICU)でコミュニケーション学を専攻。日本航空株式会社入社。主に国際線に6年間乗務。その後、英語・接遇マナー企業研修講師。またNHKインターナショナルを通じてVIPなど、来費アテンド通訳やIMF/世界銀行総会、G7伊勢志摩サミットなど、国際イベントで国際放送センターのコーディネーター業務に従事。
近年は「おもてなし英語」など接遇マナーと英語を組み合わせた研修、セミナーを多く担当。またJETROが事務局を担う「新輸出大国コンソーシアム」事業における「外国人顧客のエキスパート」として全国各地でワークショップを行う。英語教授法Graduate Certificate/TOEIC980点/英検1級/J-SHINE小学校英語指導者資格/ESAC英語学習アドバイザープロフェッショナルレベル。海外渡航歴は5大陸44カ国。一男一女の母。

出だしのフレーズとジェスチャーでもお客さまに丁寧な対応ができる

――これまでどのような企業で接遇英語の研修をされてきましたか。

中野 お店でいえば高級ブランドからお土産屋さん、宿泊施設では高級ホテルや温泉旅館、ビジネスホテルなどです。そのほか観光案内所や交通施設など幅広いですね。

受講生の多くは、これまで業務で英語を必要とされてこなかった英語力初級の方たち。現場では身振り手振りを交えて、なんとか海外からのお客さまとコミュニケーションをしている方も多いです。

――接遇の現場で必要とされる英語コミュニケーション力は、どのようなものでしょうか。

中野 コミュニケーションは言葉だけではなく、表情や口調、ジェスチャーなど、さまざまな要素を使って行うもの。ですから英語のセンテンスを完璧に言わなくても、言いたいことは伝えられる。そのことを接遇に関わる方に知っていただきたいですね。

研修ではテキストを使って英語表現を学んでいきますが、研修が進むにつれ、「こんな長い英文を覚えて使うのは無理」と挫折しそうになる受講生も出てきます。

そこで「この単語をしっかり言えば通じますよ」とか「このフレーズとジェスチャーを組み合わせれば通じますよ」といったフォローをしてきました。特に出だしのフレーズにジェスチャーや、商品をはじめとする多様なツールを加えればさまざまなことが表現できます。

例えばお客さまに順番に並んでいただくようにお願いしたいときは、“Could you line up here?”と言いますが、とっさにこの英語が思い浮かばなかったら“Could you … ?”と言って、列を示すようなジェスチャーをすれば、「一列に並んでいただけますか?」と丁寧に言っているようにお客さまには聞こえます。

中野美夏子先生

――そのノウハウをまとめたのが書籍『接遇英語のプロが教える「出だし」だけ+ジェスチャーから始めるおもてなし英語』ですね。

中野 はい。本書では接遇や接客の場面でよく使われる英語の出だし10フレーズを紹介しています。

お客さまに何か行動をお願いする際は”Could you …?“(~していただけますか?)、商品など何かをお勧めする時には”Would you like …?”(~はいかがでしょうか?)、善意で何かして差し上げようかという時は”May I …?”(~してさしあげましょうか?) などです。

こうしたフレーズに言いたいこと、追加情報を加えていくことで、それぞれの状況に対応した表現が言えるようになります。最初は出だしのフレーズにジェスチャーを加えて表現し、次第に自分が言いたいことを追加していきながらセンテンスを長くしていけばいいのです。

出だしのフレーズは基本的な表現ですが、どれも接客の場面に適した丁寧な表現です。接客のプロの方たちは日本人のお客さまに対するのと同じように、外国のお客さまにも丁寧に接したいので、「これなら言えそうです!」と英語へのモチベーションが上がる方が多いですね。

少ない研修時間でも、驚くべき上達を見せる接遇のプロたち

――接遇の現場で必要とされる表現には、どのようなものがありますか?

中野 研修では「英語でどんなことを言いたいですか」と必ずお聞きしていますが、リアルな現場の状況が伝わってくる表現が挙がってきます。

「小銭、お選びしましょうか」の言い方を知りたいという販売員の方がいました。どういう状況で使いたいのかをお聞きしたら、支払い時にお客さまが日本の小銭の種類に慣れなくてお財布の中を探っていらっしゃるのを見て、必要な小銭を探してあげたいと。よくお客さまの様子を見ているんだと驚き、優しい気遣いに感動しました。

この方には”May I (choose the coins) for you?”という表現を紹介しました。あるいは“May I”で小銭を選ぶしぐさをして”for you?”とお聞きするのでもいいでしょう。

宴会施設のドア係の方が英語で言ってみたかったのは、「傘をお持ちになりましたか?」。雨が止んでお天気になった時に、いつも入り口近くにある傘立てを指さしてさりげなく「傘をお持ちになりましたか?」とお声かけをしているのを、外国のお客さまにも英語でお伝えしたいとのこと。

この場合は“Have you (brought an umbrella)?”と言って傘立てを示しても通じます。

――研修の効果はいかがですか?

中野 私が担当している接遇研修の中には、1カ月に1回、3時間程度のレッスンが半年間ほど続くものがあります。通常のビジネス英語の研修が最低週1回、90分~2時間なのに比べると、研修時間も頻度も少ないのですが、それにもかかわらず1カ月後にお会いすると、とても上達されている方が多いです。接遇英語のコツをつかむと、ご自身で学んでいく方が目立ちます。

接遇に携わる方は、現場に日々外国のお客さまが訪れ、英語を使う環境にあるからでしょうか。最初はジェスチャーを使っていた方が、英語だけで言いたいことを表現できるようになっていたり、「この場合は何と言うんだろう」と自分で調べて工夫するなど、驚くほど表現の幅を広げている方もいます。接客業の方は、本来コミュケーションがお好きなので、上達が早いのかもしません。

接遇英語と普通の英語は違う。英語力のあるスタッフへの研修も重要

――接遇英語の研修で他に必要と感じることはありますか?

中野 帰国子女や留学経験者、そしてTOEICのスコアが700以上あるなど、一定以上の英語力を持つ方にも研修の必要性を感じます。

英語力のある方たちへの研修は、必要ないと考える担当者もいらっしゃいますが、普通の英語と接遇英語は別のものです。

日本語でも、新入社員が接客の仕事に就く前には、言葉遣いの研修を行います。「~でございます」「かしこまりました」といった、友達や家族にはなかなか使わない言葉遣いは、練習しないと使いこなせるようにはなりません。私も航空会社でキャビンアテンダントの仕事を始めた当初には「学生言葉が抜けないわね」と何回も注意されました。

同じように英語のできる方の場合も、接遇にふさわしい英語にブラッシュアップする必要があります。ただ、英語力のある方たちの研修は3、4時間程度でも十分です。彼らがきちんとした接客英語を身に付ければ、現場で英語リーダーとしても力を発揮し、現場スタッフの英語指導もできるようになります。

――接遇英語は英語力だけの問題ではないのですね。

中野 いままでおもてなし英語は、おもてなし+英語の二本柱で考えられてきました。でもよく考えてみると、おもてなしの中に英語は含まれるもの。おもてなしのツールの一つなんです。

研修を通して、私は日本の接客に携わる方たちのレベルの高さを知りました。一歩先のお客さまのニーズをキャッチする能力が、世界的に見ても高いと思います。その素晴らしい日本の接客をもっと海外の方に体験していただきたい。そのために英語の面からサポートしたいですね。


取材・文:原 智子
写真:アルクplus編集部

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