産学官で取り組む、北区のインバウンド対応とは

北区 コミュニケーションボードを作成

赤羽をはじめとする、活気に満ちた飲食店街や大規模な商業施設を抱える東京都北区。今回の「東京23区のインバウンド事例」は、外国人観光客と店員の意思疎通を支援する「コミュニケーションボード」を、東洋大学と連携して作成した北区の地域振興部産業振興課にお話を聞きました。


――埼玉県にも隣接する北区は、文字通り、「東京の北の玄関口」ですね。

北区 はい。区内には、JR山手線、京浜東北線、埼京線、東京メトロ南北線、都電荒川線と、数多くの交通機関が乗り入れています。池袋、新宿、渋谷、六本木、上野、東京、銀座など、都内のどこへ出るにも便利な立地で、成田空港へのアクセスもスムーズです。また、赤羽駅は外国人観光客の間で話題となっている、さいたま市の大宮盆栽村や、小江戸の風情が残る川越などの埼玉観光へのゲートウェイでもあります。

――その北区の観光自慢といえば何でしょう?

北区 何といっても桜でしょう。毎年春には、区内屈指の桜の名所、飛鳥山公園で「北区さくらSA*KASO祭り」が開催され、区外からたくさんの人が集まります。区のコミュニケーションマークも桜ですし、外国人旅行者向けの北区観光ガイドマップも、満開の桜が表紙を飾っています。桜の時季と前後して、浮間ヶ原桜草圃場(ほじょう)では、ピンクや白の桜草5万株が満開を迎え、新荒川大橋緑地では、6万4千株もの芝桜が鮮やかに土手を彩ります。北区の春はとても美しいですよ。

区内には飛鳥山公園、荒川赤羽桜堤緑地をはじめ、多くの桜の名所がある

――他に北区ならではの、観光面での強みはありますか?

北区 戦前から工場の街として発達した赤羽には、夜勤明けの労働者のために、早朝から営業している飲み屋さんがたくさんありました。その名残で、今でも朝からお酒が飲める店が多いと、外国人向けの情報誌などで紹介され、外国人観光客が増えています。こうしたディープな北区の魅力も、今まで以上にPRしていきたいです。

また、区内には神社仏閣が多く、年間を通して祭礼や行事が行われています。そのなかで、外国人観光客にも有名なのが「王子 狐の行列 (フォックス・パレード)」。昔、関東各地からキツネたちが集まって、稲荷神社に初詣に出かけたという伝説に由来した行事です。大みそかの夜、王子駅周辺の商店街には、キツネのお面を被った人、キツネの化粧を施した人が溢れ、元旦の零時を合図に、装束稲荷神社から王子稲荷神社まで行進します。和服で行列に参加する外国人も多く、私たちが思う以上に、このユニークなイベントを楽しんでいただいているようです。

人々がキツネのいでたちで行進する王子 狐の行列

――外国人観光客向けの情報発信はどのようにしていますか?

北区 昨年度末に、北区の観光情報を紹介するホームページ「歩きたくなるまち 東京都北区」のリニューアルを行い、スマートフォンにも対応しました。現在は、日本語表記のみですが、本年度は、多言語版も新たに作成する予定で、年度末までに英語版ページの公開を目指しています。

紙媒体としては、英・中・韓国語それぞれの観光ガイドブックがあります。こちらは区内の日本語学校、インターナショナルスクール東京国際フランス学園の協力を得て制作したもので、それぞれの学校の生徒へのアンケート調査をもとに、外国人目線で上位にエントリーした観光資源を中心に紹介しています。

――北区のインバウンド施策としては、「コミュニケーションボード」が注目され、メディアで報道されていますね。

北区 はい。コミュニケーションボードは、共通の言語がなくても、北区の商店街のありのままの良さを生かしたおもてなしはできるという考えのもとに開発したツールです。英語、韓国語、中国語、フランス語の4カ国語に対応しており、お客さん用とお店用、それぞれのボードに書かれた言葉を指さしてコミュニケーションできるようになっています。たとえば飲食店なら、お店のスタッフが「順番にお席にご案内します」と告げたり、お客さんが「おすすめは何ですか?」と聞いたりできるという具合です。

上段:中国語・韓国語、下段:英語・フランス語、いずれも左が店舗用、右がお客さま用

始めは東京オリンピック・パラリンピックに向けた「外国人ウェルカム商店街事業」の一環として、外国語講座をやってはどうかという案も出ましたが、商店街の皆さんは忙しく、現実的ではないことから、お客さんとお店の方との会話をサポートする、コミュニケーションボードを作成することになりました。平成28年度に飲食店版を作り、29年度末には小売店版を作りました。今年は第3弾として、サービス業版を制作する予定です。

――制作に際して、東洋大学の協力も得たそうですね。

北区 東洋大学国際観光学部の先生、ならびに留学生に協力をいただきました。どんな会話を掲載するかについて、留学生に意見を出してもらいました。韓国語の表現は、短期間でどんどん変わっていくそうで、「間違いではないけれど、今はこんな表現はしませんよ」といった指摘もあり、大変に参考になりました。

――コミュニケーションボードについて、商店街の皆さんの反応は?

北区 ある飲食店の方から言われて、なるほどと思ったのは、コミュニケーションボードが‘お守り’になっていることです。外国人のお客さんが来ても、「これさえあれば、どうにかなる」という気持ちになるのだそうです。お店の方の安心感につながっているようで、よかったと思いました。外国人のお客さんがよく来るお店の中には、頻繁に聞かれる質問を元に、独自にコミュニケーションボードを作るところも出てきています。

――これからはどのような取り組みを予定していますか?

北区  昨年度、区内3カ所にWi-Fiの高機能アクセスポイントを開設しましたが、今後もそうした整備を進めていきます。

また、英語教育に関しては、区内小中学校への外国語指導助手(ALT)の配置、区立中学校に通う3年生を対象にした英検の検定料の全額補助(年1回)などを行っています。引き続き、区民の英語力やコミュニケーション力の向上に努めていきたいと思います。

有名な観光資源はなくても、人々の日常生活が身近に感じられる街であることが、北区の大きな魅力です。最近、そこに注目した外国人観光客が、区内のゲストハウスを利用しているそうです。住民との温かな交流を通じて、「暮らすような感覚」で滞在を楽しんでもらえるよう、インバウンド施策を考えていきたいと思っています。


取材・文:田中洋子
写真提供:北区(2~3枚目)、photoAC(1枚目)
写真:アルクplus 編集部

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