すしを通して、日本の魅力を伝えたい<第1回> ―― 多様な文化に触れてきたすし職人が、外国人に伝えたいこと 

手塚良則氏

東京・大森海岸に100年以上続く老舗のすし店「松乃鮨」。その4代目となる手塚良則さんは、4年間の海外勤務の経験を生かして、すしの魅力を海外の人に伝えることを積極的に行っています。2回に渡ってお届けする本インタビュー、第1回は、外国人をすし店に連れて行ったときに喜ばれるすしの話について伺いました。

手塚良則さん
松乃鮨」の4代目。東京都ふぐ調理師免許、日本ソムリエ協会・ソムリエ資格取得。慶應義塾大学商学部卒業。在学中にアメリカ・スタンフォード大学に留学。卒業後、旅行会社に入社し、スキーガイドとして海外に4年間駐在。帰国後、松乃鮨で本格的にすし職人としての修行に入る傍ら、すし文化の海外への発信にも力を入れる。
2015年ミラノ国際博覧会「ジャパンデー」での和食エキシビションや、2016年トリノでの食の祭典「テッラ・マードレ・サローネ・デル・グスト」で握りずしを披露。国内外のイベントやパーティーなどでの出張握り、すし文化や日本の食文化を紹介する大学や企業の研修講師としても活動。訪日外国人向けには、築地市場での仕入れとすしを握る体験講座を毎月行っている。

老舗すし店の4代目、海外で知見を広める

――大学卒業後、海外で4年間、スキーガイドとして働いたのですね。

手塚 小学生の頃から将来はすし職人になると心に決めていて、高校生で包丁を握っていましたが、3代目である父は一度他の会社で働くべきだという考えでした。商社や銀行、メーカーへの就職を想定していたようですが、僕は世界中を見て回りたかった。将来、日本人だけでなく世界中の人におすしを握りたかったので、海外のことやホスピタリティ文化も知りたかったんです。

大学時代に力を入れていたスキーの技術を生かせる旅行会社に入社し、世界各国のスキー場に日本人旅行者を案内する仕事を担当しました。主にスイス、イタリア、カナダ、ニュージーランドを拠点に、毎週のようにスキー場を案内しました。ミラノでお客さまをお迎えしてスイスのスキー場で滑り、ジュネーブで見送った後、翌週はフランスで別のお客さまをお迎えするという感じでしたね。

シーズンオフには、豪華客船のワールドクルーズやヨーロッパのワイナリーツアーのガイドもしました。休日はバックパックで貧乏旅行もしました。豪華客船でガイドをした翌週に、インドネシアの屋台で一皿10円のご飯を食べるなど、さまざまな体験をしましたね。

海外では「100年続くすし屋のせがれ」というプロフィールは、非常にインパクトがあることも知りました(笑)。イタリアのおすし屋さんに「本場のすしの握り方を教えて」と頼まれたこともあります。今も、海外で知り合ったおすし屋さんたちとの交流が続いているんですよ。

海外の友人相手に始めたツアーが評判に

――帰国後、松乃鮨ですしを握る傍ら、外国人向けの築地市場ツアーや体験握りも行っていますね。

手塚 松乃鮨で修行を再開すると、海外の友人たちが店を訪ねてくるようになりました。自分ですしを握って、友人に喜んでもらえるのはすごくうれしい。さらに築地ですしのネタになる魚を見せたり、すしについて教えたりしたらもっと喜んでもらえるだろうと考え、友人相手にツアーを始めました。築地で生きた魚を見せ、店でその魚をさばいて食べてもらう。試しに一貫、自分で握ってもらうこともしたところ、みんなものすごく喜びましたね。

それが評判になり、友人の紹介で、どんどん人がやってきて大変なことになってきたので、有料の体験講座として、現在、月4、5回のペースで開催しています。参加者は今のところ欧米からの旅行者が多く、最近はスペイン系のお客さまも増えています。

手塚良則氏

外国人が喜ぶ、すしの話

――外国の方にすしを説明する時は、どんなことを教えるといいでしょう。

手塚 おすしを食べ慣れていない人なら、「お箸でなくて手でつかんで食べてもいい」とか「しょうゆはご飯でなく、魚の側にちょっとだけつければいい」といった基本的なことを教えるだけでも喜ばれます。

また、握りずしは200年くらい歴史があり、もともと西のすし文化が江戸に移ってきたことだとか、当時の江戸ではファストフードとして食べられていたといった話も面白がってくれるかもしれません。

うちではワサビの説明もよくします。ワサビの上のほうをすりおろすと、鮮やかなグリーンで味はマイルドだけど、下のほうは白っぽくて、辛めの味がすると説明して、それぞれ味見をしていただくのですが、とても好評をいただいています。

wasabi

――ネタを説明することはありますか?

手塚 例えば、シマアジはamberjackという魚の仲間だと説明します。ただ、英語名だけ教えても、結局よく分かってもらえなくて(笑)。そこで、外国人のお客さまが想像しやすいものに例えることが多いです。コハダだったら、kind of small sardineと言って、昔は冷蔵庫がなかったから、塩で締めてマリネして、ネタをキープした、といったような感じで話します。

世界各国で大きく違う「すし」の認識

――海外の友人をすし店に連れていくときのアドバイスはありますか?

手塚 まず、相手のイメージしている「すし」がどういうものかを知ることが大切です。

すしは確かに世界各地で食べられていますが、その認識は人によって、国によって大きく異なるということを4年間、海外で生活して実感しました。マンゴーを握る国もありますし、ブラジルではイチゴを巻くこともあります。アボカドを巻くカリフォルニアロールは、アメリカの代表的なすしですね。

生魚を食べるのに適しているのは、水がきれいなところ、いわゆる先進国です。そのためか、アフリカや南米の国々では、生魚を食べることに抵抗がある人も多いようです。アラブでも、生魚が食べられるのは富裕層の方たちだけです。すしが大好きと言ってもベジタリアンの方もいらっしゃるので、相手のすしのイメージはどういうものなのか、まず確認する必要があります。

その上で、日本のすしがどういうものか説明して、「生のお魚のすしを食べてみる?」と聞いてみるといいのではないでしょうか。

――外国人客が好むネタはどんなものでしょう。

手塚 日本のすしをよく食べていらっしゃる方の場合は、やはりトロやサーモンが人気ですね。

出身国によっても結構好みに違いがあるのですが、幅広く好まれているのがカツオのたたき。ネギとショウガやミョウガで和えます。薬味の味がして、ニンニクじょうゆで食べるというスタイルですね。銀ダラの西京焼きも人気が高くて、あのほのかに甘いみそ味が好評です。

いずれにせよ、生魚を食べるのは、多くの外国人にとってはやはり冒険なんですね。ですから「苦手な味だったら残してもいいよ」という逃げ道を最初に提示するといいと思います。

松乃鮨にいらっしゃるお客さまには、「うちはすごくトラディショナルなおすしを作る」「クオリティーの高いネタを出す」ことを伝えた後に、僕たちは文化が違うので、口に合わなければ残していい、全部食べる必要はないよと言います。

外国の方も「残しては悪い」と気を使って、頑張って食べようとするんです。こちらはおもてなしの気持ちでいろいろ食べていただこうと思いますが、相手にとってそれがハッピーかどうかは分かりません。「残してもオッケーだよ」という逃げ道を作っておくといいと思います。

松乃鮨

手塚さんがすしの魅力を伝える動画(英語字幕付き)
The Essence of the SUSHI.

すしを通して、日本の魅力を伝えたい<第2回> ――海外からのお客さまに喜んでいただけるコミュニケーションを目指して


取材・文:原 智子
写真:横関一浩

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