外国人客が喜ぶサービスの作り方――人気の体験型エンターテインメント・プロデューサーに聞く

FUERZA BRUTA WA!

南米アルゼンチン発、世界30カ国・地域で500万人以上を動員した360度体験型エンターテインメントショー「FUERZA BRUTA」(フエルサブルータ)。東京品川ステラボールで公演した作品は、日本をテーマにした意欲作。常識が覆される体験と幻想的な美しさがSNSでも話題を呼び、観客には訪日外国人も多数見られました。
この公演がなぜ外国人客に喜ばれるのか、彼らに向けたエンターテインメントに必要なものとは何か、「フエルサブルータ WA!!」エグゼクティブプロデューサーの新井勝久さんに伺いました。


フエルサブルータ WA!!」とは

アルゼンチン人演出家のディキ・ジェイムズ氏を日本に招聘(しょうへい)し、日本をテーマに企画制作したフエルサブルータ最新作。公演はオールスタンディングで、オーディションで選ばれた日本人パフォーマーたちが、天井から舞い降りたり、宙を駆け巡ったりと、驚きのパフォーマンスを繰り広げます。サムライ&ニンジャの超絶なワイヤアクション、まるで無重力状態の摩訶不思議な芸者パフォーマンス、観客の頭上に出現する巨大なプール……。2017年8月より参加者を驚かし続けたロングラン公演は、5月6日に千秋楽を迎えました。 http://fbw.jp/


新井勝久氏

新井勝久さん
トリックスターエンターテインメント株式会社 代表取締役社長
1989年広告会社へ入社、媒体・人事・営業を経験した後、ニューヨーク生まれの「ブルーマングループ」東京公演を実現。 ブルーマングループプロダクションとの交渉・招聘・運営責任者を担い、4年間のロングラン公演を成功。2010年MBOにより独立。ブルーマン公演終了後は社名をトリックスターエンターテインメントへ改称。


東京に日本の舞台芸術の集積地を作りたい

――日本をコンセプトとしたショーが誕生した理由を教えてください。

新井 この公演は、プロダクションのアミューズ40周年記念事業でもあるのですが、同社会長の大里洋吉さんが、ニューヨークで「フエルサブルータ」の前身となる「ビーシャ・ビーシャ」を見て、本人曰く「度肝を抜かれた」ことから始まっているんです。演出家がアルゼンチンのディキ・ジェイムズ氏であることを知ると、すぐに「僕と一緒にショーを作ってほしい」と手紙を書いた。10年ほど前のことです。大里さんは、日本各地にディキを連れ回し、日本の文化に触れてもらいました。

元々、大里さんは、日本の観光産業を考える上で、ニューヨークやパリのように、東京にも来日した外国人観光客がいつでも日本のエンターテインメントに触れられる舞台芸術の集積地があるべきだと感じていて、そのために、東京でしか見られないものを作りたいと考えていたんです。だから、海外で成功したフエルサブルータそのものを誘致するのではなく、日本文化を盛り込んだフエルサブルータである「フエルサブルータ WA!!」を新たに作ることにこだわりました。

正しく「和」を伝えては訪日外国人には受けない

――実際、このショーの観客には外国人観光客も多いとのことですが、日本人が伝える「和」ではなく、外国人が見た「WA」だからこそ、受け入れられるのでしょうか。

新井 2020年を前に、インバウンドが右肩上がりで伸びる中、多くの人が「外国人が喜ぶものを提供しよう」と考えていると思います。ですが、日本人の価値観で日本らしさを正しく演出しても受けないのです。「フエルサブルータ WA!!」の世界観は、アルゼンチン人であるディキの目からみた日本です。

私たちはJapan Unitedと呼んでいる演目があるのですが、侍と忍者と芸者が出てきて、未来の象徴として描かれる鳥居をくぐる。よくハリウッド映画の中で描かれる日本に違和感を覚えることがあると思いますが、それと同じで、「こんなの日本じゃないよね」と思う人のほうが多いかもしれません。でも、私たちはディキの視点をリスペクトして、彼と議論を重ねて作った。その点が画期的なのです。

――より多くの外国人観光客にエンターテインメントを体験してもらうためには、何が必要なのでしょうか。

新井 まだ絶対的に足りないものがあって、そもそも外国人が日本にエンターテインメントを期待していないのです。彼らに「日本に行って何をしたい?」という時に、すし、天ぷら、ラーメンのようにエンタメという選択肢もあってほしいのですが、そのためには、「いつ行ってもここではこれが見られる」という構造を作ること、つまりロングラン公演させることが重要になるのです。

ロングラン公演を実現するには、日本人にも観にきてもらう必要があります。この「フエルサブルータ」は聞き慣れない言葉であり、「それって、何?」にも一言では答えられない内容なわけです。「シルク・ドゥ・ソレイユ」が良い例ですが、ステージ・エンターテインメントがブランドとして認知されるためには、公演を積み上げていくしかありません。

新井勝久氏

――新井さんは過去に、せりふや言葉が一切登場しない、音楽とパフォーマンスを融合した「ブルーマングループ」の東京公演を実現し、4年間のロングランを成功させた経験をお持ちですね。

新井 はい。「ブルーマン」については、男性客をうまく引き込めたのが大きかったですね。宝塚や劇団四季など、日本のステージ・エンターテインメントは女性の市場なのです。日本にエンターテインメント・カルチャーを根付かせるためにも、男性に劇場に足を運んでもらうことは重要です。それから、ブルーマンショーは、言葉の壁をなくしたことも大きなポイントでした。

今回の「フエルサブルータ WA!!」でも、キャストは、何語でもない言葉を叫んでいます。これもディキの演出の一つで、バーバルを完全に排除してしまいました。このショーの場合は、「言葉が壁になる」というのも2パターンあって、一つは、「外国人が見る上で壁になる」ということなのですが、もう一つ、言葉が通じることでできる壁もあるのです。舞台と客席の境界がないこのショーでは、キャストがお客さまに切り込んでいくことになるわけですが、その時に、日本人キャストが日本人のお客さまに切り込んでいくのは大変なんです。言語でコミュニケーションが取れてしまうと、途端に恥ずかしくなってしまう。日本人が日本人の前で英語を話すのを嫌がるのと同じ構造ですね。


常識が覆えされる体験を通して
ノンバーバルの壁を越えてほしい

――ショーではお客さまがキャストと共に踊る場面もあります。毎回会場は大いに盛り上がるようですね。

新井 この作品では、お客さまがショーの演出の一部分なので、お客さまのノリがいいと、キャストのテンションも上がり、より一体感のある公演になります。

ただ、日本人のお客さまを盛り上げるためには、ある程度動きをコントロールする必要があるのです。「手を上げて」「左右に振って」「拳を突き上げて」というようなシンプルな動作の指示を入れることで、お客さまは抵抗なく踊ることができます。 外国人のお客さまの場合は、何の指示を入れなくても雑多な感じに、自由に踊ってくださって、ショーとしてはそれが理想なのですが、そこはやはり、慣れの問題でしょうね。

日本でも公演を続けていくことで、このノンバーバルの壁も乗り越えられるのではないかと思うのですが。

――日本が観光立国を目指す上でも、まずは多くの日本人の方に体感してもらいたいですね。

新井 そうですね。まずは舞台と客席の壁がないということを体感していただいて、観劇に対する固定概念、既成概念を崩してほしいですね。

例えば頭上に巨大なプールが現れ、女性キャストが水遊びする姿を下から見るという幻想的なシーンがありますが、下から見るという発想が素晴らしいわけで、そうした着眼点から学べること、刺激を受けることがたくさんあるはずです。

お子さんたちにもぜひ体感してほしいですね。「水にぬれる」とか「紙吹雪をまき散らす」とか、学校では基本的にダメだと言われていることが、ここでは体感ができる。そこからクリエイティビティが刺激されることもあると思うのですよ。多くの子どもたちに、そんな体験を積み重ねてもらい、大人にはその芽をつぶさずに育てていってほしいと願っています。


取材・文: 古賀亜未子(エスクリプト)
写真: トリックスターエンターテインメント、アルクplus 編集部

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