24時間にぎわう新宿の、観光施策と安全対策

24時間にぎわう新宿の、観光施策と安全対策

訪日外国人の受け入れ対策や、地域活性化の取り組みについて、東京23区の担当者にお聞きする「東京23区インバウンド事例紹介」。今回は、昼夜を問わず、来街者でにぎわう街、新宿区にフォーカスしました。日本屈指のナイトタイムエコノミースポット(※1)も抱える街で、外国人観光客が安心・安全に観光を楽しめるよう、舞台裏ではどのような取り組みがなされているのか、新宿区 文化観光担当と危機管理担当の方々にお話を伺いました。

※1「居酒屋やナイトクラブなど、一般的に夜遊びをイメージするものだけでなく、夜間医療や24時間体制で私たちの生活を支えるインフラなど、日没から翌朝までに行われる経済活動の総称」(木曽崇氏)<「ナイトタイムエコノミーって何だろう?」東洋経済オンライン>


――観光スポットとしての新宿区の特徴を教えてください。

新宿区:新宿の魅力は、「多様性」です。日本有数のショッピング街や繁華街、オフィス街のある新宿駅周辺のイメージが強いかもしれませんが、江戸の風情薫る粋な街、神楽坂、史跡や老舗などが多く残る四谷、国際色豊かな高田馬場・大久保、多くの画家・文人が足跡を残した染色の街、落合など、多彩な表情を持つエリアです。

歓楽街の傍らに林立する高層ビルのオフィス街
歓楽街の傍らに林立する高層ビルのオフィス街

――2017年の調査(※2)では、東京都を訪れた外国人観光客から「一番満足した場所」や「訪問した場所」といった項目でNo.1の評価を得ていますね。すでに集客は十分にできている街といえそうですが、現在インバウンド対応で課題となっていることはありますか。また、具体的にどのような取り組みを行っていますか。

新宿区:確かに、同調査では対象となった「新宿・大久保」エリアが高い評価をいただいていますが、新宿には魅力あふれる観光スポットがたくさんあるので、他エリアへの回遊を促していくことが課題と言えます。そこで、「Shinjuku Free Wi-Fi」の整備や観光案内標識の設置・更新、新宿観光案内所の運営など、外国人観光客に区内を広く回遊していただくための取り組みを行っています。

※2 平成28年度国別外国人旅行者行動特性調査(東京都実施)

――おすすめ観光スポットを教えていただけますか。

新宿区:新宿区は多くの文学者が足跡を残した街で、昨年9月には新宿ゆかりの国民的文豪・夏目漱石を記念した「漱石山房記念館」が早稲田エリアにオープンしました。近隣には名誉区民の草間彌生さんの美術館もあります。また、落合エリアは、京都、金沢と並ぶ日本三大染色産地。染色体験のできる工房もあり、毎年2月には「染の小道」という街全体が染物でいっぱいになるイベントも開催されます。

夜も楽しめるスポット、新宿ゴールデン街思い出横丁荒木町などでは、雰囲気のある飲食店が軒を連ねます。また、歌舞伎町、新宿三丁目などにはライブハウスが多く集まっています。

外国人観光客でにぎわう西口ガード沿いの長飲み屋街、思い出横丁
外国人観光客でにぎわう西口ガード沿いの長飲み屋街、思い出横丁

――不夜城のように煌々と輝く新宿は、「迷宮」と例えられるほど、妖しげな魅力も持ち合わせている街ですね。そのような環境で、外国人観光客の安全を守るという点では、どのような取り組みをしていますか。

新宿区:外国人観光客に限らず、全ての来街者に安全にリラックスして時間を過ごしてもらうために重要なのは「街の安全安心」です。外国人観光客の方の安全対策も、2020年のオリンピック・パラリンピックに向けたリスク管理も、新宿区や地元の商店街の人々が長い時間を費やしてきた街の安全安心への取り組みと一体の話といえるでしょう。

街の安全安心への取り組みで、私たちが特に力を入れてきたのは飲食店などの客引きの問題です。客引きは、繁華街で来街者に声を掛け、店に誘導します。もともとは風俗店が客を捕まえる目的でしていた行為ですが、近年は、居酒屋やカラオケ店でも行うようになりました。客引きを雇っている店の中には、客引きの人件費を料金に上乗せしているところもあります。いわゆる「ぼったくり」の店に連れて行かれて、信じられないような料金を吹っかけられることもあります。

客引き行為を防ぐために、ずいぶん前から地元の商店街の方々などがパトロールをしていましたが、この行為に対する規則や罰則がなかったこともあり、威力はいまひとつでした。そこで、2013年9月に「新宿区公共の場所における客引き行為等の防止に関する条例」を施行しました。さらに2016年6月には条例を強化し、客引きが声を掛けるだけでも5万円の罰金が科されることになりました。2017年には、ある店に入ろうとした人に「満席だ」とうそを言い、他の店に連れ込んだとして、客引きをしていた男が偽計業務妨害容疑で逮捕されています。パトロールについては、現在は、街の人だけでなく、新宿区から委託した警備会社も行っています。

街のにぎわい・楽しさと猥雑(わいざつ)性を両立し、秩序を保った日本一の繁華街を目指す歌舞伎町
街のにぎわい・楽しさと猥雑(わいざつ)性を両立し、秩序を保った日本一の繁華街を目指す歌舞伎町

――民間のパトロールに始まり、条例ができ、罰則ができ、専門家を要請し……街の安全安心に向けた長い努力と対策の積み重ねがあったのですね。一方で、観光地で自分の身の安全を守るためには、観光客自身の注意を促すことも重要ではないかと思いますが。

新宿区:その通りですね。新宿区は、来街者の注意喚起の目的で、歌舞伎町エリアで地元の商店街が流す客引き行為に関する啓蒙(けいもう)アナウンスもバックアップしてきました。ただ、単にアナウンスするだけでは効果が上がりにくいという教訓があり、最近では有名タレントにアナウンスをお願いするなどの工夫を凝らしています。現在は、吉本興業のお笑いタレントさんに声の出演をお願いし、毅然(きぜん)としたメッセージをテンポよくアピールしています。2020年に向けて、英語や中国語のアナウンスも充実させていきたいです。

その他にも、「客引きしない宣言」ステッカーがあります。これは、飲食店などの店舗から、客引き行為をしない旨の表明・確約書の提出があり、客引きしない店として認定した場合に区が交付するステッカーです。このステッカーは、店舗に掲示したり、グルメサイトなどに写真を掲載したりして使うことができます。現在は、日本語のみですが、今後は外国語表記の作成も課題になるでしょう。安全なお店の目印になればと思います。もし客引きに遭ってしまった時は、外国人の方も日本人の方も「Yes」も「No」も言わずに、ただ通り過すぎるのがいいです。客引きとやりとりをする必要はありません。

客引き行為をしない店の目印となるステッカー
客引き行為をしない店の目印となるステッカー

――最後に、一連の取り組みの成果を教えてください。

新宿区:パトロールをしている方々から、客引きの数が減ったという声を聞きます。区内の刑法犯罪も減少傾向にあります。外国人観光客は増加していますが、その方々の犯罪被害が多くなったという話は聞きません。


  • 執筆・取材:吉橋 卓
  • 写真(1・3枚目):photoAC
  • 写真(2・4枚目):アルクplus編集部

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