中学英語「定着」の現状――英語の定着は、時間のかかるプロセス

中学英語の定着

[英語学習ホントのところ 第5回]データが明かす高校英語授業の最優先課題(3)

高校英語の授業において、中学英語の「定着」がいかに重要なのか。Sherpa*とアルク教育総合研究所(以下、アルク総研)の調査・分析の過程で見えてきた、高校英語の授業の課題について、Sherpaメンバーの鈴木祐一先生と、アルク総研の平野琢也が語ります。

* Sherpa(Senior High English Reform Project ALC)とは、金谷憲先生(東京学芸大学名誉教授)をリーダーに、高校の英語の授業の改善に貢献することを目的に活動するプロジェクト。


目次

  • なかなか理解されない中学英語「定着」の重要性
  • 繰り返しの練習で身に付ける、高校での英語学習を支える基礎
  • 基礎定着を促す高校での取り組み事例

なかなか理解されない中学英語「定着」の重要性

平野 今回の調査結果から、全国のほとんどの高校生に、中学で学んだ英語が定着していないことが明らかになりました。これは進学校も例外ではありません。高校で学ぶ英語、さらに将来学ぶ英語は、中学で学んだ英語が核になることを考えると、かなり深刻な問題に思えます。

鈴木 そうですね。しかも「定着が少し足りていない」といった生易しいレベルではないんです。結果を知って数多くの先生がショックを受けるくらい、高校生に中学英語は定着していません。先生方が最も驚いたテスト結果の例として、ディクテーションが挙げられます。

平野 どのようなテストでしたか?

鈴木 音声英文は単文・複文合わせて18文を用意しました。それぞれ英語の音声を2回聞かせ、音声が終わってから書き取らせます。音声の終了後にポーズが4秒あり、次に「ポッ、ポッ、ポッ、ポーン」という信号音が入るので、それから書き出す形式です。

平野 その結果は?

鈴木 ディクテーション・テストを受けた高校生352名中、ほぼ正しく英文を書くことができたのはわずか2名。ほぼゼロと言っていいですね。ディクテーションが特例ではなくて、リーディング、リスニング、ライティング、速読、全てにおいて、中学英語はほとんど定着していない状況でした。今回の調査対象は、高校1年生が約6割、高2と高3が約2割ずつの割合です。

平野 調査の時期が3学期だから、中学を卒業してから1年以上たっているにも関わらず、中学英語を使いこなせていないということですね。

鈴木 そうです。その結果に驚く先生は多い。ただ、中学英語がいかに定着しているかという「定着度」に対する認識に、大きなズレがあることが多いのではないかと思います。

鈴木祐一 先生
「中学英語の定着を目指した実践を試みる高校が増えている」と話す鈴木祐一先生

平野 定着に対する認識のズレとはどういうことでしょうか?

鈴木 Sherpaの考えている中学英語の「定着」とは、中学英語を「自由自在に使いこなせる状態」を指しています。今回の調査で用いたようなテストをすれば、それがはっきり分かります。例えば、ディクテーションは単なる“聞き取り”だと思われるかもしれませんが、今回の調査のディクテーション・テストではポーズとして信号音が入るので、音声を知覚し、文の意味を処理した上で自分の知っている語彙や文法知識を総動員しながら、英文を再生する力が求められます。つまり、中学英語を知っているだけでなく、使いこなせるレベルにまで定着しているかどうかを調べる上で、とても有効なテストです。簡単そうに見えて、実は意外と難しいテストだと思います。

平野 こうしたテストに対する先生の理解を深めることも大切ですね。

繰り返しの練習で身に付ける
高校での英語学習を支える基礎

鈴木 「中学英語の定着のために繰り返し練習をする」というと、そんな易しいことに時間を割かなくてもいいのでは、と誤解される先生もいるようです。

平野 実際はかなり難易度の高いことなんですよね。

鈴木 その通りです。中学英語ですから、単語や文法はシンプルです。その組み合わせも特別に複雑ではありません。しかし、そうした英語を素早く読んで理解したり、聞いて即時的に理解したりすることはかなり大変だと思います。また、簡単な文章でも、正しい語順でスラスラと書き続けることは容易ではありません。こうした能力を身に付けることを「定着」というのです。

平野 そして、それを可能にするのが繰り返し学習だと。

鈴木 はい。それも同じことを繰り返すのでなく、トレーニングの負荷を変えながら、いろいろな方法で繰り返し練習をデザインすることが効果的です。例えば、ディクテーションの時に、ポーズの長さや音の種類を変えてみるだけでも、練習が変化します。また、提示する文の長さを徐々に長くすることで、負荷を上げながら練習させることができます。繰り返し練習の目的の一つとして、高校以降の英語力に必要な基礎力を付けることがあります。野球でもサッカーでもうまくなろうとすれば、さまざまな筋トレや瞬発力を鍛えるための訓練が欠かせないのと同じです。

平野琢也 アルク教育総合研究所
中学英語は進学校でさえ定着していない状態が調査で判明したという、
アルク総研の平野所長

基礎定着を促す高校での取り組み事例

平野 中学英語の定着は中学校に任せるべきだ、という意見もあるのでは?

鈴木 理想ではありますが、現実には不可能だと思います。前回の対談で臼倉先生も指摘されていたように、英文法の主要部分のほとんどが中学で教えられ、3年生の後半で重要項目が出てくることもあります。しかも、新学習指導要領では中学校で導入する文法項目をさらに増やそうという動きもあるくらいです。従って中学校だけで中学英語を定着させることは、かなり難しいと思います。言語習得、つまり「英語の定着」は時間のかかるプロセスです。定着を実現するためには、しっかりと繰り返し英語に触れさせ、練習する機会を設ける必要があります。

平野 高校でもやるしかないですね。

鈴木 そうです。実行して、効果があることを示す例も出てきました。今回の調査には、偏差値の上・中・下、全ての高校が含まれます。偏差値の高い高校ほど好成績でしたが、中位校の中にも、速読、リスニングで上位校と拮抗する高校がありました。そこで指導されている先生に伺ってみたところ、その学校は高校1年から速読指導を継続的に取り入れていたそうです。

また、今回の調査対象とは別ですが、テストで予想以上に好成績を上げた高校がありました。ここでも先生にお話を伺ったら、毎回授業で、教科書から抜き出した文章を題材に、ディクテーションをさせていたとのこと。このように高校の教材をそのまま使いながら、中学英語の定着を図ろうとする地道な試みは重要だと思います。また、こうした事例が広く知られるようになれば、中学英語を定着させるための取り組みが増えてくるのではないかと期待しています。

【お話を聞いた人】

鈴木祐一 先生
神奈川大学 准教授/Sherpa メンバー
東京学芸大学教育学部日本語教育専攻卒。同大学院教育学研究科英語教育学専攻修了(教育学・修士)。メリーランド大学大学院第二言語習得研究科修了。専門は第二言語習得研究と英語教育学。

平野琢也
アルク教育総合研究所 所長
入社以来、教材編集や各種テストの開発・運用、英語学習アドバイザー資格認定制度の立ち上げ・運用などに関わり、2015年からはアルク教育総合研究所にて、英語教育関連の調査・研究に携わる。


取材・文:織田孝一
写真:市来朋久


中学英文法で大学英語入試は8割解ける!~高校英語授業の最優先課題~
アルク教育総合研究所 監修
金谷 憲 編著/片山七三雄、吉田翔真 著

試験問題に出る語彙は全て意味・用法が分かっていると仮定した場合、大学入試の「79%の問題が高校レベルの文法知識を含まない」「89%の問題が中学レベルの文法知識で解答可能」――多くの反響が寄せられた「アルク英語教育実態レポート Vol.2」の調査結果を、入試問題の豊富な実例とともに詳しく解説。

高校生は中学英語を使いこなせるか?~基礎定着調査で見えた高校生の英語力~
金谷 憲 編著/ 隅田朗彦、大田悦子、臼倉美里、鈴木祐一 著

高校生は中学で習った英語をどのくらい使いこなせるようになっているのか。その問いに答えるために、Sherpaのメンバーが、延べ5,000名を超える高校生を対象に「高校生の基礎力定着調査」を実施。その驚きの結果と詳細な分析を基に、高校英語授業のあるべき方向を提案する。


本記事は、『英語の先生応援マガジン』2017年夏号に掲載した記事「データが明かす高校英語授業の最優先課題」を再構成したものです。

“本気の英語の先生”をアルクが応援する、登録制(会員制)ウェブサイト「英語の先生応援サイト(LTAF:Learning Teachers’ and Advisors’ Forum)」もぜひご覧ください。


アルク総研について

アルク教育総合研究所は、長年、日本の語学学習者に適した教材や学習サポート、スピーキングテストなどを開発・提供している株式会社アルクが、2015年に語学教育の専門研究機関として設立したものです。
調査・研究の対象は以下のとおりです。

  1. 学習者個人・企業・教育機関の学習に対するニーズや学習実態に関する調査
  2. 教材・学習法の研究と開発
  3. その効果検証など

調査・研究の成果は、『アルク英語教育実態レポート』として以下のページに公表しています。
▼調査レポート
https://www.alc.co.jp/company/report/

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