インバウンド

宿場町の人情が今に生きている、品川区の訪日外国人対応

品川区の訪日外国人対応

訪日外国人の受け入れ対策や、地域活性化の取り組みについて、東京23区の担当者にお聞きする「東京23区インバウンド事例紹介」。今回は、東海道の宿場町として栄え、にぎわいのある商店街が数多く残っている品川区にフォーカスし、品川区 地域振興部 国際担当の方々にお話を伺いました。


――始めに、観光地としての品川区の特色を教えていただけますか?

品川区:品川区は、羽田空港(大田区)と品川駅(港区)の間に位置する東京の玄関口です。副都心として成長するJR大崎駅周辺、洗練されたウォーターフロント天王洲など、都会的な魅力や利便性と、釣り船が浮かぶ品川浦が代表するような、ノスタルジックな魅力が同居するのが品川区です。

区内には、武蔵小山商店街、戸越銀座商店街など、活気のある商店街がいくつもあり、かつて東海道最初の宿場「品川宿」があった辺りでは、毎年9月最後の週末に「しながわ宿場まつり」が開催されます。おいらん道中、江戸風俗行列、食の祭典に人力車と、外国からのお客さまにも、楽しんでいただいています。

――その品川区のインバウンド施策には、どのようなものがありますか?

品川区:2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、ホッケーとビーチバレーボールが品川区で開催されます。五輪を前にWi-Fiスポットの整備などが進んでおり、インバウンドを受け入れる環境づくりをしています。また、機運の醸成を目的とした国際交流や異文化理解のプログラムも、いろいろと展開しています。小中学生を対象とした宿泊英語・異文化体験「イングリッシュキャンプ」ですとか、子どもたちが食を通じて世界に触れる「グローバル給食」(区内大使館協賛)、「外国人おもてなし語学ボランティア講座」(都の共催事業)などですね。「英語少し通じます商店街」プロジェクトも、こうした活動のひとつです。

――「英語少し通じます商店街」プロジェクトとは、どんな活動でしょう?

品川区:商店街用に特化した、「出張型英会話講座」です。申し込みがあった店舗を英会話講師が訪れ、お客さん役となって、10分から15分程度、会話練習を行ないます。「英語を話せます」と胸を張るほどではなくても、ほんの少し英語の接客に慣れておけば、外国人のお客さんが来店しても、あまり焦らずにすむでしょう。その“少し”の英語に「おもてなし」の気持ちを込め、外国人観光客を歓迎する雰囲気を、地域全体でつくることを目指しています。プロジェクトは2014年4月にスタートし、これまでに12商店街、53店舗が参加しました。

洋品店での英会話レッスンの様子洋品店での英会話レッスンの様子

――具体的には、どのような流れで実施するのですか?

品川区:参加店舗を募り、応募があった店舗には、私たちがヒアリングを行いながら日程を調整します。そのうえで、基本のやりとりに加えて各店舗の要望を反映させた、オーダーメイドの“台本”を作ってお渡ししています。レッスン当日はこの“台本”を元に、お客さん役の講師を相手に、英語の接客を体験してもらいます。

――15分程度の会話練習のために、個別の台本まで作っているとは驚きですね。

お茶屋さんでの英会話レッスンのひとコマお茶屋さんでの英会話レッスンのひとコマ

品川区:商店街には、お茶屋さんやのり屋さんなど、日本ならではの商品を扱うお店が数多くあって、自分の店の商品を英語でどう説明すればいいか、皆さん知りたいのです。「味付けのりって、英語でどう言うの?」「パリッとした食感を、英語で伝えたい」といった要望が、たくさん出てきます。和菓子店など食品を販売しているお店では、「賞味期限や消費期限をどう説明すればいい?」という相談も多いですね。お土産として国に持って帰るつもりで買う人もいますので、お店としてはただ商品を売ればいいというのではなく、安全においしく食べてもらうための情報まで、きちんと伝えたいのです。

私たちとしても、たった15分という限られた機会だからこそ、自分のお店ですぐに使える専門用語を覚え、自信を持って役立てていただきたい。そんな思いで、それぞれのお店のニーズをヒアリングし、そのお店でこそ役立つオリジナルの“台本“を作っているのです。

――この活動について、ほかにも工夫はありますか?

品川区:「英語を話さなくては!」と思った途端、カチカチに緊張してしまう方が少なくないので、当日は必ず日本人講師が同行し、ネイティブ講師との間をつないで、いつでも助け舟が出せるようにしています。“台本”にないことも、もちろんその場で質問できますよ。

――参加者の反応はいかがですか?

品川区:「緊張して疲れたけれど楽しかった!」「品川区も国際化の時代。今回の経験を生かして、もっと英語を勉強したい」などの反響が寄せられています。その中に、「英語がうまく話せなくても、一生懸命に接客をすれば、外国人のお客さんにも伝わる。それが『もてなし』なのだと思った」というご意見があり、私たちもたいへんうれしく思いました。

――海外からの観光客をもてなそうとする、商店街の皆さんの気持ちが温かいですね。

品川区:品川に活気ある商店街がいくつもあるのは、商店街自体の結束がしっかりしていることに加えて、住民の皆さんがそれを望んでいるからでしょう。東京のような大都会では、昼と夜で人が入れ替わり、住んでいる人同士の関係も希薄であることが、珍しくありません。そういう都会にありながら、宿場町から発展した品川には、昔からのコミュニティーのつながりや人情が、今なお残っています。だからこそ、後からコミュニティーに入ってくる人や、旅人に対して、積極的に面倒を見ようとする土地柄なのかもしれません。その象徴が商店街ではないかなと思います。

――その土地柄は、外国から来た人たちに限らずですが、観光客にとっては大きな魅力ですね。

宿場まつりに訪れる外国人が増えている宿場まつりに訪れる外国人が増えている

品川区:そうですね。八百屋さんの隣に洋品店、その隣には喫茶店に雑貨屋さん、魚屋さんもあれば花屋さんもあるというのが、昔ながらの商店街です。いろんな種類の小さなお店が軒を連ねて立ち並ぶ風景は、住んでいる人には当たり前でも、外から訪れる人、とりわけ外国から来る人の目には、とても不思議で、新鮮で、面白く映るようです。お店の人とのやりとりや、総菜屋さんで買ったものを食べながらお店を見て歩くこと自体、楽しくウキウキする経験なのでしょう。そういう意味で、商店街というのは非常に魅力的な、インバウンド・コンテンツだと思います。

モノ消費からコト消費へと、時代は変わりつつあると言われます。品川区には「買う」というかたちの“モノ”は、特別多くはないかもしれません。しかし秋の宿場まつりをはじめ、触れ合いの“場”や、楽しんでもらえる“コト”はたくさんあります。海外からのお客さんにも、ぜひそれを体験してもらいたいですね。


  • 取材・文:田中 洋子
  • 写真提供:品川区
  • 写真(1枚目):アルクplus編集部

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