インバウンドを支える医療通訳:外国人患者の受け入れ態勢

医療通訳とは

日本を訪れる外国人の数が増えるにつれ、医療機関を訪れる人の数も増加しています。待ったなしの状態である外国人患者の受け入れについて、現場の状況や課題を英語医療通訳者の育成に携わる医師、押味貴之さんが紹介します。


脆弱な外国人患者の受け入れ態勢

2017年に日本を訪れた外国人の数が2,800万人を超え、東京や京都といった従来の観光名所だけでなく、全国各地を訪れる外国人観光客の数も増えている。2020年には4,000万人にまで増えることが期待されるこの外国人観光客であるが、そのセーフティネットは脆弱(ぜいじゃく)だ。

2017年に厚生労働省が実施した調査では、98パーセントの自治体で外国人患者を受け入れる設備が整っておらず、99パーセントの自治体で外国人患者を受け入れるのに必要な人材が足りていないことが判明した。つまり地方のインバウンドは「観光には来てもらいたいのですが、病気になっても十分な対応はできません」という状況なのだ。

動き出した医療通訳認証制度

外国人患者の受け入れにはさまざまな点での整備が必要だが、その中でも特に重要なのが医療通訳の充実だ。質の高い医療通訳を普及させるために、これまでもいろいろな取り組みが行われてきたが、厚生労働科学研究費補助金を用いて2016年度には「医療通訳の認証のあり方に関する研究」が行われ、そして2017年度からは「医療通訳認証の実用化に関する研究」が始まった。この医療通訳認証の目的は、外国人患者と医療者が十分な意思疎通ができるようにするために、質の高い医療通訳者を養成し、病院や診療所がそういった医療通訳者を確保できるようにすることだ。

これまで各地域や団体で独自に行われてきた医療通訳者の養成に関して、ようやく全国統一の基準を作る動きが始まったのだ。しかし、全国各地に質の高い医療通訳者を養成して医療機関が実際に利用できるように整備するには、さまざまな障壁が存在する。実際この研究に先駆けて2014年に厚生労働省が旗振り役となって「医療通訳育成カリキュラム基準」も制定されたが、通訳者がこの基準を満たすトレーニングを受講するだけの時間や費用を捻出することは容易ではない。

もちろん、この認証制度が一人でも多くの質の高い医療通訳者の養成につながり、全国各地の医療機関でその制度で認証された医療通訳者が活用されるのが理想ではあるが、増加の一方をたどる外国人患者への対応には時間的余裕がないのが現状だ。

外国人医療を支える鍵は「適材適所」

ここで重要なのが「適材適所」に人材や資源を配置するという発想だ。外国人観光客が医療機関を受診する際のサポートは、必ずしも「専門的な知識とスキルを持つ医療通訳者」が必要なものとは限らない。

多言語の問診票や同意書は厚生労働省が作成してインターネット上に公開したものを使えばよいし、受診や支払いの方法に関する説明も病院ごとで大きく変わらないため、既に存在する多言語のものを活用すればよい。

最近では、電話医療通訳のサービスも含んだICTデバイスが開発されていて、専門のタブレット一つでこれら全てのサポートが得られるものもある。つまり、各地域にそれぞれ「専門的な知識とスキルを持つ医療通訳者」を配置しなければならないというわけではないのだ。むしろそれぞれの地域において重要なのは、患者に寄り添うことができる「地域に詳しい外国人患者サポーター」なのかもしれない。そしてその際に核になるのは、各地域の国際交流協会であろう。

いずれにしても、2020年の東京五輪まであとわずか。これをきっかけに、これまでなかなか進展しなかった外国人患者の受け入れ態勢が改善されるのを期待している。


文:押味貴之(英語医療通訳者・医師)
イラスト:つぼいひろき

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