日本の地方は宝の山: 通訳の現場に見る、インバウンドの今

インバウンド

毎年記録を更新し続ける、訪日観光客の数。人気観光地だけでなく、魅力を秘めた地方も外国人旅行者に知ってもらい、活性化させたいと願う通訳ガイド・松本美江さんが、最近注目の温泉地を紹介します。


有名観光地の危機

訪日観光客数は右肩上がりで驚異的な伸びを続けています。通訳ガイドにとって、これはとてもうれしいことなのですが、心配なこともあります。それは有名観光地があまりににぎわい過ぎて、本来の魅力を失いそうになっていることです。

特にここ数年の京都の春と秋の著名な観光地の混雑状態は、かなり危機的なところまで来ているようです。静けさが魅力の嵯峨野の竹林や、朱色の千本鳥居で有名な伏見稲荷大社などは、インスタ映えするという口コミが世界中に広がり、渋谷のスクランブル交差点並みの混雑が続いています。「魅力があるから人が来る、人が来すぎると魅力がなくなるという」悪循環に陥ってしまっているようです。

知られていない「何処か」を

私たち通訳ガイドの新たなミッションは、お客さまの要望をくみ取って、魅力はあるがまださほど知られていない「何処か」を開拓していくことになります。旅行会社も同じように感じているようで、最近では東京~箱根~京都のいわゆるゴールデンルートに加えて、これまではあまり外国人が訪れていなかった場所をツアーに組み込むようになりました。

ガイドもひかれるその場所は?

その中でも最近私が特に魅力を感じている場所が、石川県の山中温泉です。金沢から車で約1時間、決して交通の便がいいとは言えませんから、これまでは金沢までは行っても山中温泉まで行くことはとてもまれでした。

確かに近くに川が流れていて、自然が残っているという魅力はありましたが、温泉体験だけならもっと都心に近い便利な温泉地でもよかったのではということになります。それが今では、山中温泉に2泊3泊するお客さまも増えてきているのです。

何泊でもしたくなる温泉地の秘密

その新しい魅力を作り出したのは、山中温泉のある老舗旅館が中心になって伝統工芸のアーティストを紹介することを始めたことなのです。お客さまは、一泊目はゆったり温泉につかりおいしいものいただく、そして翌日からは、その旅館のスタッフが地元の山中塗の木地師(きじし)さん、塗師屋(ぬしや)さん、ろくろ体験もさせてくれる陶芸家のところなどに連れて行ってくれます。

地元の伝統工芸家だけでなく、最近では若手のアーティストの移住もサポートしているとのことで、すでに30人近くが移住したそうです。先日、アメリカ人ご一家をツアーでお連れした際は、古民家を改装したアトリエを訪ねました。和紙を作っている若い女性アーティストに、ご一家はとても感銘を受け、たくさんの作品をご購入されていました。このご一家の現代アーティストでもあるお嬢さんは、このアトリエに魅了され、真剣に将来山中に移住したいとおっしゃっていました。私自身も、山中温泉に行くツアーと聞くと、休みを取ろうと思っていた時期でもお引き受けしてしまうほどです。

宝の山を探そう

日本には、まだまだ魅力が十分周囲に伝えられていない地域がたくさんあります。歴史的建造物がなくても、その地域に根差した伝統工芸や、食材などを魅力的に紹介する方法さえ見つければ、今後どれだけ訪日客が増えても日本の至る所が新しい魅力的な観光地になれる可能性が広がっていくことでしょう。私たち通訳ガイドも、そのような地域発見のお役に立てたらと願っています。


文: 松本美江(全国通訳案内士)
イラスト: つぼいひろき

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