文化の違いを越えてグローバルビジネスを成功させるには?<前編>

エリン・メイヤーさん

異文化理解を助ける「カルチャーマップ」開発者に聞く

ビジネスのグローバル化が加速するにつれて、異文化理解の必要性も高まっています。ビジネスコミュニケーションにおける文化の違いを可視化した「カルチャーマップ」を開発したエリン・メイヤーさんに、他の国々との比較からあぶり出される日本文化の特徴やカルチャーマップの活かし方についてお聞きしました。前編・後編の2回に分けてお伝えします。

コミュニケーションにおける文化の違いを可視化

「チームの意思疎通がうまくいかない」「上司に仕事を評価してもらえない」「交渉が決裂してしまった」……。国籍混合のチーム運営、外国人の上司からの評価、海外の取引先との交渉などで起きたこうした問題は、異文化理解力が足りなかったからかもしれない。

フランスとシンガポールに拠点を置く国際的ビジネススクールINSEAD(インシアード)客員教授のエリン・メイヤーさんは、ビジネスコミュニケーションに、文化の違いがどう影響するかを分析して可視化した「カルチャーマップ」を開発した。

「『カルチャーマップ』は、世界中のエグゼクティブへの18万件以上のインタビューを基にまとめた『文化の見取り図』とも言えるもの。コミュニケーションの取り方、決断の仕方、リーダーシップのスタイルなど8つの指標に沿って、日本を含む55カ国をマッピングしています。自分の国や仕事相手の国がどこに位置するかを見ることで、多文化な職場でのトラブルを避け、効果的に目的を達成するための戦略を立てることができます」と説明する。

カルチャーマップ
出典:『異文化理解力』をもとに作成

極端=“強い”
カルチャーマップを持つ日本

カルチャーマップを見ると、8つの指標のほぼ全てで、日本は端のほうに分布している。

「日本のポジションは非常に面白いですね。日本は、最もハイコンテクスト(※)なコミュニケーションを好み、決断については最も合意志向。否定的なフィードバックは最も遠回しに行い、リーダーシップは非常に階層主義的。タイの次に対立を回避する傾向も強い。これほど極端なのは、オランダくらいです」。オランダは、日本とは“決断”“スケジューリング”以外の指標について、逆のベクトルで極端な傾向を示す。

「オランダは、極端なカルチャーマップを持っていても国際的なビジネスで成功を収められるという良い例。日本にとっても心強いのでは」とメイヤーさんは笑う。しかし極端、すなわち”強い”カルチャーマップを持っていることは、日本企業がグローバル化する上で大きなチャレンジになる。行動習慣を変えるのは大変なことだからだ。一方、メリットもあるとメイヤーさんは言う。

「ビジネスをする相手がインドだろうがアメリカだろうが中国だろうが、みんな日本よりはコミュニケーションが直接的で、意思決定はトップダウン。相手によって方向を変える必要がないのは、シンプルです。逆に中間に位置する国のほうが複雑。相手の国が自分よりも右に位置するか左に位置するかによって、自分の行動パターンを変えなくてはならないからです」。

イメージとのギャップが日米のトラブルの原因に

カルチャーマップは、自国の位置を確認し、自分の文化の特徴を理解するためだけのものではない。一緒に仕事をする相手が、どんなビジネス文化を持ち、自分とどのように異なるスタイルを持つかを予測することで、自分の力を効果的に発揮したり、トラブルを回避したりする手助けとするためにもある。

具体的な例を見ていこう。メイヤーさんによると、8つの指標の中で、最も問題になりやすいのは、「他の国の人が抱くイメージとは、実際には異なるポジションにある指標」だという。例えば、日本人とアメリカ人の間でよく問題になるのが、明快でストレートな表現が好まれるか、遠回しな表現が好まれるかを表す“コミュニケーション”の指標だ。

「日本人の表現は非常に遠回しで、物事をはっきり言わず、相手にもニュアンスの違いを読み取るよう期待する文化」ということはよく知られている。一方のアメリカ人は、「明快でストレートな表現を好む」というのが一般的な見方だ。このためアメリカの会社で働く日本人は、アメリカ人の部下に対し、否定的なフィードバックについてもストレートに表現すべきだと誤解してしまうことがあるという。

「しかし“評価”の指標を見ると、アメリカ人は否定的なフィードバックを遠回しに伝える文化です。このため、日本人上司からストレートな否定的フィードバックを受けたアメリカ人は、気分を害してしまうことがある」そうだ。意思決定のスタイルを表す”決断”の指標も、日本人とアメリカ人の間でよく問題になる。

「リーダーシップのスタイルを表す“リード”の指標では、日本は階層主義的で、アメリカは平等主義的とされています。しかし“決断”の指標では、アメリカは、日本人の持つイメージに反してトップダウン。このため、アメリカで働く日本人の口からはよく『アメリカは平等主義的だと思っていたけれど、意思決定ではトップダウンで驚いた』という声が上がります」。

一方の日本の“リード”と“決断”は「非常に面白い組み合わせ」だとメイヤーさんは言う。階層主義的でありながら合意志向。これは他の国では見られない組み合わせだそう。

「日本では、全員が意思決定に関わるので、非常に時間がかかりますが、いったん決まると覆らない。一方、アメリカや、ブラジルやロシア、インド、中国などの新興国は、トップダウンなので意思決定が速い。しかし、この決定はフレキシブルで、状況次第で変わります」。

※コンテクスト(文脈・背景)への依存度が高いコミュニケーションスタイル。対義語は「ローコンテクスト」。

後編では、カルチャーマップの上手な活かし方についてお話しいただきます。

教えてくれた人

エリン・メイヤー/INSEAD(インシアード)客員教授
1971年アメリカ、ミネソタ州生まれ。国際的ビジネススクール、INSEAD客員教授。異文化間交渉、多文化リーダーシップについて教鞭をとり、グローバル・バーチャル・チームのマネジメントや、エグゼクティブ向け異文化マネジメントなどのプログラムディレクターを務める。著書『異文化理解力』(原題The Culture Map)で世界的に注目され、影響力のある経営思想家50人を選ぶ「Thinkers50」では2015年に「次世代の最も有望な経営思想家」に選出された。

異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養


  • 取材・文:大井明子
  • 写真:編集部

本記事は、『マガジンアルク』2017年5-6月号に掲載した記事「文化の違いを超えてグローバルビジネスを成功させるには?」を再構成したものです。

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