文化の違いを越えてグローバルビジネスを成功させるには?<後編>

異文化理解を助ける「カルチャーマップ」開発者に聞く

ビジネスコミュニケーションにおける文化の違いを可視化した「カルチャーマップ」を開発したエリン・メイヤーさん。他の国々との比較からあぶり出される日本文化の特徴などについてお話しいただいた前編に続き、後編ではカルチャーマップの上手な活かし方についてお話しいただきます。

日本のような国こそ、カルチャーマップが必要

カルチャーマップは、使い方を誤ると、個人の違いを無視し、ステレオタイプを助長することになりかねない。メイヤーさんは、「カルチャーマップは、異なる文化を持つ人を型にはめるためのものではない」という。

「相手に対して、『あなたは日本人だから、こういう行動をしがちなのだ』といった決め付けた言い方をするのではなく、『日本人は、言葉の行間を読むといいますが、本当ですか? いつもそうですか?』など、質問をすべき。一緒にマップを見ながらディスカッションし、さまざまな行動の背景にあるのが、文化によるものなのか、組織の違いによるものなのか、個人によるものなのかを認識してほしい」と話す。

特に日本のような文化には、カルチャーマップのようなツールが有効だ。「日本は他の国に比べると、比較的均一的な社会。しかも、”強い”カルチャーマップを持っていてユニークなので、他の国の人からは理解が難しくミステリアスにも見えます」。このため、日本人が外国人と仕事をする場合、文化の違いは特に大きなチャレンジになる。これまでにグローバル化で苦労してきた日本企業は、ここ1、2年でようやく、異文化理解に目を向け始めているとメイヤーさんは言う。

「今後もっと関心が高まるでしょう。日本企業がグローバル化で成功するには、こうした異文化の理解は必須。グローバルビジネスを円滑に進めるために、上手にカルチャーマップを活用してほしい」と語る。

多様性がある組織は強い

苦労をしてでも、異文化理解力を強化し、文化的な多様性を促進することは、企業にとって大きなプラスになるとメイヤーさんは説く。一例として、ある実験結果(※)を紹介した。

「アメリカ人と日本人に、魚が泳ぐ水槽の様子を描いたアニメーションを見せたところ、アメリカ人は手前にある大きな魚について述べた人が多かった。一方日本人は、背景にある海藻や小さなカエル、前景の大きな魚など、それぞれの関係性に言及する人が多かったのです」。

これをビジネスの場面に当てはめてみよう。確かに同じチームに、前景を見るタイプの人と、背景や関係性を見るタイプの人が混在すると、合意に至るまでに時間がかかるし、摩擦が起きやすくなる可能性がある。しかし、「うまくマネジメントすれば、潜在的なリスクを見つけたり、革新的なソリューションを発見する上で、多様性は大きな力になる。森を見る人と木を見る人、両方いるほうが強いチームになるのです」。

※ リチャード・ニスベット氏と増田貴彦氏による実験。『木を見る西洋人 森を見る東洋人』(リチャード・ニスベット著、ダイヤモンド社、2004年)

テクノロジーの進化が、コミュニケーションを変えた

多くの多国籍企業はすでにこれまで、異文化理解が足りなかったことで発生する莫大なコストを支払ってきた。外国企業や、社内の外国人社員、外国の取引先と信頼関係が築けなかったために仕事がうまくいかず、機会を損失してしまったケースもあっただろう。しかもその多くは、文化の違いに起因していたと、認識すらされていない。

「ここ5年ほどで、多くの多国籍企業が、そうしたコストに気付き、異文化理解に目を向け始めています。海外の駐在員だけではなく、海外の人とコミュニケーションをとる人なら誰もがカルチャーマップを学ぶことで、文化の違いにより生まれる小さな擦れ違いに対し、適切に準備し、効果的に仕事を進めることができるはずです」とメイヤーさん。

カルチャーマップが今必要とされる理由は他にもある。”グローバル化”は、もう何十年も言われ続けているが、昨今の”グローバル化”は、テクノロジーの進歩と相まって、ビジネスコミュニケーションを大きく変えているからだ。

「15年前なら、グローバル化の影響を受けるのは、海外の駐在員か、出張で世界中を飛び回る人だけでした。しかし今では、誰もが自国にいながらにしてEメールやSkypeなどを使い、世界中の人と仕事をするので、異文化の壁にぶつかりやすい。コミュニケーションの方法が多様化し、しかも頻度が上がっているので、異文化理解の必要性が年々高まり、高度になっています。異文化理解のスキルは、20世紀には一部の人が持っていればよかったかもしれませんが、21世紀のビジネスパーソンには必須のものになっているのです」。

エリン・メイヤーさん

教えてくれた人

エリン・メイヤー/INSEAD(インシアード)客員教授
1971年アメリカ、ミネソタ州生まれ。国際的ビジネススクール、INSEAD客員教授。異文化間交渉、多文化リーダーシップについて教鞭をとり、グローバル・バーチャル・チームのマネジメントや、エグゼクティブ向け異文化マネジメントなどのプログラムディレクターを務める。著書『異文化理解力』(原題The Culture Map)で世界的に注目され、影響力のある経営思想家50人を選ぶ「Thinkers50」では2015年に「次世代の最も有望な経営思想家」に選出された。

異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養


  • 取材・文:大井明子
  • 写真:編集部

本記事は、『マガジンアルク』2017年5-6月号に掲載した記事「文化の違いを超えてグローバルビジネスを成功させるには?」を再構成したものです。

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