コミュニケーション

外国人に観光案内する男子中高生の挑戦【活動実践記・最終回】

鎌倉男子

ESS(English Speaking Society)同好会の活動の一環で、外国人観光客のための鎌倉案内を続けている鎌倉学園中学校・高等学校。スタート当初の転機を経て、外国人の観光客と“友達同士”のように接する喜びも感じられるようになりました。次に、新入部員にそれをどう継承していくか。顧問の飯塚直輝先生と「鎌倉男子」の新たな挑戦が始まります。


第3回 アウトプットに個性を宿す

前回は、僕のバングラデシュ旅行を通じて、鎌倉案内での外国人と生徒の関係が“ゲストとガイド”から“友達同士”へと変化したことを報告しました。この頃には、新入部員も入り、ESSの部員は30名を超えていました。しかし、「新・鎌倉男子」たちは先輩たちのように上手に案内することができません。

そこで、高校2年生が高校1年生を外国人役に見立て、鎌倉案内をしてみることに。先輩たちが流ちょうな英語で案内する姿を見て、後輩たちは驚き、自分たちもやってみたいという気持ちになっていきました。学校に戻り、先輩たちの作った原稿を自分で使える英語に書き換え、暗唱します。そして、先輩たちから案内のコツ、注意点を伝えられて、準備は完了です。

感心、気付き、そして落胆の初案内

後輩たちをどのようにグループに組み込むべきかは、難しい問題でした。高2と高1を混ぜたグループにするか、高1だけのグループにするか迷いましたが、思い返せば、高校2年生たちも自分たちで悩み、苦しみ、解決策を見つけてきたわけです。そこで期待を込めて、高1だけのグループを作ってみることに。そして、案内当日を迎えます。

鎌倉駅に立ってすぐ、先輩たちは笑顔で外国人に話し掛け、当然のように案内を始めていきます。後輩たちはそんな姿を見て「すごいな」と感心。いやいや、感心している場合じゃないだろうと、彼らを集合させます。「なんでツアーが決まらないと思う?」と尋ねると、理由がわからないようで首をかしげます。「じゃあ、先輩たちと君たちの話し掛け方はどう違う?」と尋ねると、「笑顔が少ない」とある生徒が言いました。確かに緊張で彼らの表情は硬直していました。

「他には?」と尋ねると、「先輩たちは最初からツアーを勧めずに、まず自己紹介をしていました」とある生徒が言い、周りの生徒も「そっか!」と気が付き始めます。「確かに君たちが海外を訪れて、初めて会った外国人に急にツアーを勧められたら驚くよね。だから最初は自分の紹介をして、“May I help you?”と言ってみたらどうかな。きっと相談を受けるだろうから、その流れで自分たちのツアーの紹介をしたら?」と言うと、生徒たちの目が輝き始めました。

そして、アドバイス後、すぐにタイ人のカップルを案内することに! さすが「鎌倉男子」たちです。ツアーが始まり、最初は一緒にコースを決めたり、自己紹介をしたりと、会話に花が咲きます。しかし、しばらくすると沈黙。気を遣い、ゲストの方が質問をしてくれます。しかし、それに答えると、また沈黙。僕は一緒にいてヒヤヒヤしましたが、本当に困っていたのは生徒たちです。「もうダメです」みたいな目で僕に訴えてきました。

緊張し、顔がこわばる「鎌倉男子」たち
緊張し、顔がこわばる「鎌倉男子」たち

君たちの強みって何?

再度集合をかけます。入部したばかりの生徒たちに、流ちょうな英語や歴史の説明を求めることは無理でした。そこで、こんな質問をしてみたのです。「君たちの強みって何だろう?」。すると、ある生徒が「俺、サッカーの話ならできるかも」とつぶやきます。原稿を覚えてきた生徒は、「僕は自分の原稿なら完璧に言えると思います」と言います。また別の生徒が「俺はタイについてスマホで調べてみます」と、それぞれが主体的になってきました。そして「俺は笑顔しかないっす!」と満面の笑みで言う生徒も。「じゃあ、それぞれの強みを生かして、ゲストを楽しませておいで!」と言うと、少し自信を持った表情に変わりました。

そこからはゲストを楽しませようと、「鎌倉男子」たちの工夫が始まりました。お勧めのおそば屋さんを知っている生徒が、“Are you hungry? I know a very delicious Soba restaurant.”と言い、一緒に昼食を食べることを決めたり、「鎌倉学園を見せたら俺らのことをもっと知ってもらえるかも」と、学校に連れていくことになったりと、紹介したい場所をうれしそうに紹介する「鎌倉男子」たちの目は輝いていました。もちろん、ゲストの二人はとても楽しそうで、素晴らしい一日となりました。

ありのままの生徒を好きになること

しばらくたって、学校に荷物が届きました。タイ人のゲストの方が、感謝の意を込めてギフトを送ってくれたのです。早速、みんなで封を開けることに。

そこには手紙と人数分のペンケースが入っていました。まず、ペンケースに感動し、「おー、すごいっ!」と叫びます。次に手紙を読んでみることに。手紙には、“Thank you for your kindness. This is the best memory of us in Japan.”と書かれていました。「鎌倉男子」たちのニヤニヤが止まりません。先輩たちのように上手に英語を話せない生徒たちでも、ゲストに満足してもらえるようなツアーを実施できたのです。

ギフトの中身が気になる「鎌倉男子」たち
ギフトの中身が気になる「鎌倉男子」たち

ここから、僕自身も活動の中で生徒の個性を生かせる場面はないかと考えるようになりました。例えば、チリからのゲストがCuecaという伝統舞踊を踊ってみせてくれたときに、お調子者の生徒に日本の踊りを紹介することを提案してみました。彼はなぜかどじょうすくいを踊ることを決め、海へ行き、砂浜に落ちていた木の枝を鼻に突っ込み、掛け声に合わせて踊りました。もちろん、ゲストは大爆笑でした。

どじょうすくいの動画はコチラ(Facebookに飛びます)↓
鎌倉学園 ESS Kamakura Gakuen ESS

また、忍者の説明をしたいという生徒は折り紙が得意だったので、彼に折り紙で手裏剣を作ってみることを提案しました。当日は手裏剣を使い、敵役の生徒を倒すデモンストレーションを行いながら、手裏剣の説明をしました。こちらもゲストは大爆笑。生徒の個性がアウトプットに宿ることで、鎌倉案内が生徒らしいものに変化していったのです。

手裏剣のデモンストレーションはコチラ(Facebookに飛びます)↓
鎌倉学園 ESS Kamakura Gakuen ESS

以前の僕は「英語の力」を基準にして生徒を見ることが多かったと思います。しかし、英語は言葉です。人が発する言葉には、その人の思いや個性が宿ります。生徒をよく観察し、個性を認めて好きになることで、生徒は自信を持ち、言葉のリアリティーが宿った「自分の言葉」を自発的に発するようになりました。僕たちの仕事の一つは、そのような生徒の可能性を引き出すことだと思えるようになったのです。

折り紙をプレゼント
折り紙をプレゼント

文:飯塚直輝先生(鎌倉学園中学校・高等学校 教諭)
2010年より同校に勤務。2014年からESS同好会「鎌倉学園ESS」の顧問を務める。“言語を通じて、生徒の心を揺さぶり、人間的な成長を促す”をモットーに、授業のみならず学級運営や特別活動などにおいても、常に生徒の表情の変化が絶えない実践を目指し奮闘中。


本記事は、『英語の先生応援マガジン』2017年秋号に掲載した記事「鎌倉男子のアウトプット活動実践記」を再構成したものです。

“本気の英語の先生”をアルクが応援する、登録制(会員制)ウェブサイト「英語の先生応援サイト(LTAF:Learning Teachers’ and Advisors’ Forum)」もぜひご覧ください。

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