中学英語の定着が、大学入試の結果を左右する!?――高校英語授業の目指すべき形

中学英語の定着

データが明かす高校英語授業の最優先課題(1)

大学入試における中学英語の「定着」の重要性に関する調査を、Sherpa*とアルク教育総合研究所(以下、アルク総研)が実施。高校英語の授業の課題があぶり出されました。Sherpaのリーダーである金谷憲先生と、アルク総研の平野琢也が、調査の背景を語ります。
* Sherpa(Senior High English Reform Project ALC)とは、金谷憲先生(東京学芸大学名誉教授)をリーダーに、高校の英語の授業の改善に貢献することを目的に活動するプロジェクト。


目次

  • データで証明された、高校段階での中学英語の未定着
  • 英語はスキル。練習なくして上達なし
  • 「習熟」を急がず、「習得」にとどまる勇気

金谷憲先生(東京学芸大学名誉教授)
「英語は積み重ねの教科」だと話す、金谷 憲先生

データで証明された、高校段階での中学英語の未定着

平野 調査のきっかけは、中学英語に関心があまり高くない先生が多いからでしたね。

金谷 そうですね。中学英語の定着を核にした授業を提案しても、なかなか理解していただけない先生もいらっしゃる。ならば、データで高校英語授業における中学英語の重要性を証明しようと考え、調査を行って2冊の書籍にまとめました。

中学英文法で大学英語入試は8割解ける!』(以下、『中学英文法で~』)は、中学で習う英文法は大学入試にどれくらい通用するのか、また、『高校生は中学英語を使いこなせるか?』(以下、『高校生は~』)は、高校生が中学で学ぶ英語をどの程度使えるのか、つまり定着しているのかを調査した結果を土台にしています。

平野 『中学英文法で~』の調査はアルク総研の、『高校生は~』の調査はSherpaのプロジェクトとして実施されました。

前者は現役の高校の英語の先生や、教員養成課程に在籍している大学生・大学院生に、過去3年分の大学の英語入試問題を解いてもらいました。また後者は、高1から高3まで延べ5,000名を超える生徒を対象に、中学の英語の教科書を素材に、速読、リスニング、ディクテーション、和文英訳、2種類のピクチャーディスクリプション(写真や絵に描かれた内容を説明する)のテストを受けてもらいました。

それらの結果を分析したのがこの2冊です。これらは従来になかった調査で、一定の評価を得たと自負しています。

金谷 『中学英文法で~』の調査では、全問題の79パーセントが高校レベルの文法知識を含まず、89パーセントが中学レベルの文法知識で解答可能であることが分かりましたね。『高校生は~』の結果も予想通り、高校生に中学英語が定着しているとはとても言えない状況でした。

平野 高校での指導効果を考えても、また大学入試に特化して考えても、中学英語の定着は極めて重要に思えます。しかし、高校の先生方はそこにはあまり手を付けようとはしないようです。

金谷 一般に、高校の先生は大学入試という高いゴールへ生徒を引き上げようとするあまり、生徒のところへ降りていくのではなく、「自分で何とかしてここまで来い」とする傾向が強いと思います。

英語はスキル。練習なくして上達なし

平野 そもそも、英語の文法や語彙を学ぶことと、英語を使いこなせることとは違うはずです。しかし、「学んだ(教えた)=使いこなせる」というフィクションの下に高校の授業が行われているようなところがあります。これはなぜでしょうか。

金谷 実は「英語を勉強しているのに身に付かない」という問題の記録は、明治時代からあります。その原因はたくさんありますが、ここでは二つ挙げましょう。一つは、英語に限らず、日本での教育課程が、供給者側の都合で編成されていることです。先生が一度教えたら、それは生徒の身に付いたものと見なされる。生徒への定着よりも、先生が教科書をスケジュール通りに終わらせるかどうかに価値があるんですね。

平野 もう一つの理由は?

金谷 英語はスキルだという認識に乏しい先生が多いことです。生徒が英語を使いこなせるようになるには、文法や語彙の知識を学ぶだけでは駄目で、繰り返し練習をしなくてはなりません。スポーツを考えてみてください。野球部の部員は、毎日、素振りなどのバッティング練習をするでしょう? バットの振り方を一度教わったら、以後、練習をしないままバッターボックスに立つ、などということはあり得ません。しかし、英語の授業には「素振り」がないことが多い。

スポーツなら当然のことが、英語では当たり前には行われていないのです。多くの先生は教室で一度教えたことは二度やらないし、繰り返し練習もしない。もし素振りなしでバッティングを身に付けた生徒がいたら、それは家で素振りをしたからですね。

平野 なるほど。英語に関心のある生徒が家で自主的に練習する場合ですね。

金谷 もちろん、スキルにも知識は必要で、知識かスキルかの二者択一ではありません。しかし知識中心で、定着のための繰り返しがないのが多くの高校英語授業の現状ですね。

平野琢也 アルク教育総合研究所
授業時間の制約が英語の定着を阻む一因だと考える、アルク総研の平野所長

「習熟」を急がず、「習得」にとどまる勇気

平野 授業時間が限られているという問題もありますね。

金谷 高校の先生方に同情せざるを得ないのは、時間内でカリキュラムを終らせるという絶対的な制約があること。繰り返す時間を確保するには、学ぶ内容を絞らなくてはなりません。教師としては勇気が要りますね。

平野 他の教科ではこうした話はあまり出てきません。

金谷 それは英語という教科の特性でしょうね。母語の場合、小学校入学の段階でほぼ習得は済み、後はそれを習熟させていく過程に入ります。しかし外国語の場合、高校でもまだ習得の段階です。にも関わらず、高校の先生の多くが基礎は習得できたものと見なして習熟を目指しているように見えます。このように「習得」と「習熟」が混同されていることも、英語が身に付かない大きな理由でしょう。

平野 金谷先生は英語を漆塗りに例え、「重ね塗り」が大切だとおっしゃっていますね。

金谷 英語は積み重ねの教科で、中学校で学んだことを基礎に高校の英語を学びます。理科や社会のように、以前学んだ分野と必ずしも関係なく新しい分野を学べるタイプの教科ではありません。だから、中学英語の定着が非常に重要なのです。先生方にはこれら二つの調査分析結果を参考に、まずは中学英語の定着を目指してほしいと願っています。

【お話を聞いた人】
金谷 憲 先生
東京学芸大学 名誉教授/Sherpa リーダー
東京大学大学院人文科学研究科修士課程、教育学研究科博士課程および米国スタンフォード大学博士課程(単位取得退学)を経て、東京学芸大学にて32年間教壇に立つ。現在、フリーの英語教育コンサルタントとして学校や自治体へのサポート活動を行う。

平野琢也
アルク教育総合研究所 所長
入社以来、教材編集や各種テストの開発・運用、英語学習アドバイザー資格認定制度の立ち上げ・運用などに関わり、2015年からはアルク教育総合研究所にて、英語教育関連の調査・研究に携わる。


取材・文: 織田孝一
写真: 市来朋久


中学英文法で大学英語入試は8割解ける!~高校英語授業の最優先課題~
アルク教育総合研究所 監修
金谷 憲 編著/片山七三雄、吉田翔真 著

試験問題に出る語彙は全て意味・用法が分かっていると仮定した場合、大学入試の「79%の問題が高校レベルの文法知識を含まない」「89%の問題が中学レベルの文法知識で解答可能」――多くの反響が寄せられた「アルク英語教育実態レポート Vol.2」の調査結果を、入試問題の豊富な実例とともに詳しく解説。

高校生は中学英語を使いこなせるか?~基礎定着調査で見えた高校生の英語力~
金谷 憲 編著/ 隅田朗彦、大田悦子、臼倉美里、鈴木祐一 著

高校生は中学で習った英語をどのくらい使いこなせるようになっているのか。その問いに答えるために、Sherpaのメンバーが、延べ5,000名を超える高校生を対象に「高校生の基礎力定着調査」を実施。その驚きの結果と詳細な分析を基に、高校英語授業のあるべき方向を提案する。


本記事は、『英語の先生応援マガジン』2017年夏号に掲載した記事「データが明かす高校英語授業の最優先課題」を再構成したものです。

“本気の英語の先生”をアルクが応援する、登録制(会員制)ウェブサイト「英語の先生応援サイト(LTAF:Learning Teachers’ and Advisors’ Forum)」もぜひご覧ください。


アルク総研について

アルク教育総合研究所は、長年、日本の語学学習者に適した教材や学習サポート、スピーキングテストなどを開発・提供している株式会社アルクが、2015年に語学教育の専門研究機関として設立したものです。

調査・研究の対象は以下のとおりです。

  1. 学習者個人・企業・教育機関の学習に対するニーズや学習実態に関する調査
  2. 教材・学習法の研究と開発
  3. その効果検証など

調査・研究の成果は、『アルク英語教育実態レポート』として以下のページに公表しています。

▼調査レポート
https://www.alc.co.jp/company/report/

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