ビジネスパーソンも知っておきたい、おもてなしの心得<後編: 欠かせないスキル>

おもてなしの心得

高まるインバウンド需要に備えるには?
人気通訳ガイドによる企業向けセミナーをレポート

アルク教育社※は2017年1月に、人気通訳ガイド、島崎秀定さんを講師に迎え、「『グローバルなおもてなし』に必須のマインド&スキルを新しい視点で探る」と題したセミナーを東京・市ヶ谷で開催しました。外国人旅行者が求めるものは何か、豊富な経験の中から具体例を交えて紹介。店頭での接客の他、海外拠点社員の接待、職場のグローバル化など、企業における異文化理解やコミュニケーションの必要性が高まる中、サービス業や製造業など、さまざまな業種からの参加者が熱心に耳を傾けました。おもてなしに欠かせない「マインド」についての前編に続き、今回は欠かすことのできない「スキル」をご紹介します。
※アルク教育社は2017年2月にアルクと合併しました。

常に確認し、より深く相手を理解する工夫を

おもてなしの「マインド」に加え、「スキル」が加わると、さらに訪日外国人の満足度を上げることができる。例えば、

  • 英語に自信がなくても恥ずかしがらず、積極的に会話に参加する。
  • 難しい単語や表現を使わず、わかりやすく丁寧に話す。

ことが大切だ。「日本は好きですか?」など、Yes / Noで答えられる質問ではなく、「日本の印象はいかがですか?」といった、会話が広がりやすい質問をしたり、「あなたが日本を気に入ってくれてうれしいです」など、相手の回答に対してコメントしたりすると、会話が続き盛り上がるという。

例えば、街路樹を指して「この木は何ですか?」と外国人から質問され、答えを知らない場合に、すぐに「わからない」と言うと、がっかりされてしまうそうだ。「相手は正確な答えを知りたいわけではなく、会話をしたい、コミュニケーションをしたいという思いで聞いていることも多いんです。だから私は、『多分、杉ではないでしょうか?』など、自分の推測や考えを話すこともあります」と島崎さんは言う。同様に、相手の言葉を文字通り受け止めるだけではなく「本当に求めていることは何だろう」と常に想像をめぐらし、真意を探る努力も大切。そのためには常に相手とコミュニケーションを取り、確認することがポイントだ。

また、ツアー中に「〇〇という店に行きたい」というリクエストを受け、時間がなくて行くのが難しい場合にも、島崎さんは、ただ「時間がないから無理です」と答えたりはしない。そこに行きたい理由を聞いて、できるだけ代替案を提示する。よく聞いてみると、必ずしもその店である必要はないことも多いからだ。「もし、その店を設計した建築家に興味があるのなら、同じ建築家による建物が近くにないか探します。そこで売っているものが買いたいからであれば、それが買える他の店を探します」。

島崎さんはこの他にも、コミュニケーションのコツをいくつか紹介した。まずは結論や目的を明確にした上で話すこと。「ツアーでは、最初に1日の予定を大まかに説明した上で、これからどこに行くかを伝えます。全体の流れがわかっていると安心だし、次を予期しながら行動できますから」。また、日本のマナーもしっかり教え、ルール違反には厳しく対応する。団体ツアーで、2度3度と遅刻する人には「今度遅刻したら置いていきます」と言うこともあるという。「簡単な日本語を教えることも、日本文化の理解につながります。『いただきます』『いらっしゃいませ』などは英語に該当する言葉がなく、日本の文化を伝えるいい例になります。お店に入る時には笑顔で『こんにちは』と言うと、店員側も緊張が和らいで笑顔で接してくれますからね」。また、相手に失礼な印象を与える表現にも注意しているという。

失礼な表現に注意しよう!

より良いコミュニケーションで「おもてなし」を

15年に日本を訪れた外国人観光客は約1970万人だったが、翌16年には2400万人を超えた。そして政府はこれを、東京オリンピック・パラリンピックが開催される20年までに4000万人に増やすことを目標にしている。島崎さんは、「全国どこのお店でも、外国人への接客が求められています。これからは、接客業以外でも外国人と接する場面がますます増えていくでしょう。ぜひ、より良いコミュニケーションを意識し、おもてなしを実践してほしいですね」と語った。

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島崎式「おもてなし」のポイント

島崎さんが体験した事例のご紹介~本当に求められる「おもてなし」とのギャップ~

本当に求められている「おもてなし」と日本人が考える「おもてなし」にはギャップがあります。例えば旅館の食事では、配膳をする仲居さんに「この魚は何ですか?」と聞いても、すぐに答えられないことがあります。「この魚は近海で獲とれたアジで、天然塩で味付けをしているんです」などの説明があれば喜ばれるのに、と残念です。

日本人の考えるおもてなしは、たくさんの品数の料理を準備し、目の前に並べること。相手が日本人なら、「こんなに準備してくれた」ということに、もてなしの心を感じるかもしれません。しかし、外国人は文化や食生活、関心も多様です。料理を通じたコミュニケーションがあれば、さらにこちらの気持ちが伝わるはずです。

また、宗教やアレルギーによって、食べられないものがある可能性があります。積極的に話し掛け、何が食べられないのか、何を求めているのか聞き出し、柔軟に対応することも必要です。日本人は、質問するのは失礼だと思ってしまうところがありますが、まったく逆です。コミュニケーションを取ることも含めて「おもてなし」なのです。

島崎秀定さん(通訳案内士)
経営コンサルティング会社、美術館、旅行会社などを経て1993年に通訳案内士の資格取得。年に200日以上、通訳ガイドとして活動している。著書に、『通訳ガイドというおしごと』(アルク)。


取材・文: 大井明子
写真: 編集部
写真提供: 島崎秀定

本記事は、『マガジンアルク』2017年3-4月号に掲載した記事「ビジネスパーソンも知っておきたい おもてなしの心得」を再構成したものです。

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