友達を案内する気持ちで、男子中高生が外国人観光客に鎌倉をガイド【活動実践記】

ESS(English Speaking Society)同好会の活動

ESS(English Speaking Society)同好会の活動の一環で、外国人観光客のための鎌倉案内を続けている鎌倉学園中学校・高等学校。生徒が“言葉のリアリティー”を感じ、英語を楽しんで使う活動がどのように発展してきたのか、顧問の飯塚直輝先生にご紹介いただきます。


第2回 “客とガイド”から“友達同士”へーー鎌倉案内のターニング・ポイント

前回ご紹介した「大仏コース」を設けたことにより、2015年春の時点で「鶴岡八幡宮コース」と「大仏コース」の二つのツアーが完成。これで、鎌倉を訪れた外国人観光客を満足させられるだろうと確信しました。

しかし、それから半年ほどが過ぎ、僕は鎌倉案内に対して言葉で表せない違和感を覚え始めたのです。「何だか不自然だな……」というぼんやりとした思いを持ちながらも、どこを改善したらいいか見当がつきませんでした。

「バングラ男子」との出会い

国際交流を考える上で、ムハマド・ユヌス氏が創設したグラミン銀行について、以前から興味がありました。この銀行の制度や経済支援によって救われたバングラデシュの女性を紹介する英語長文は数多く存在します。実際、僕は高校3年生の授業で『アクティブ・リーディング Super』(アルク)を扱い、グラミン銀行やユヌス氏の功績を紹介したこともありました。しかし、グラミン銀行が現地の女性をどのように支援し、彼女たちの生活にどのような変化をもたらしたのか、生徒にうまく伝えられず、非常に悔しい思いをしました。

そこで僕はバングラデシュへ行き、実際にグラミン銀行の社員に話を聞き、支援を受けている女性に会うことにしたのです。そして、この旅行での経験がきっかけとなり、鎌倉案内のターニングポイントが訪れることになります。

その初日、夕食までの時間があったので、首都ダッカの旧市街地であるオールドダッカを訪れてみることに。気温が35度を超える中、リキシャと呼ばれる三輪自転車タクシーに2時間乗り、やっと到着。しかし、どこへ行ったらいいかわからず、オールドダッカをさまよっていました。観光地を調べてくればよかったと後悔。言葉が通じず、その土地のことを知らず、スマホも通じない。不安で不安で仕方ありませんでした。

コーラでも飲んだら、もうホテルに帰ろうかと思っていると、二人の少年が僕に必死に話しかけてきました。何を言っているかはよくわからないけれど、必死に手招きをする少年たち。「付いてきてほしいの?」とジェスチャーを交えた日本語で尋ねると、笑顔でうなずきます。「変な店に連れていかれて、高い商品を買わされるかもしれない」という考えが頭をかすめましたが、ものは試し。「バングラ男子」について行くことに。

ゲームセンター

互いの言語がわからなくても、成り立った“会話”

まず彼らが連れて行ってくれたのは、ゲームセンターでした。ゲームセンターといっても、小さい部屋に2台の簡素なゲーム機があるだけ。それを楽しそうにプレイして、「どう? すごいでしょ?」という顔をする彼ら。「次はこっち」と(おそらく)言って、僕のほうを振り返りながら歩き始めます。

連れて行ってくれたのは、大きな広場でした。ここで彼らの仲間たちを紹介され、一緒にサッカーをすることに。言語が通じなくても一緒に泥だらけになりながら、彼らとの距離が縮まりました。

そして、また歩き始める「バングラ男子」たち。歩きながら彼らが現地の言葉を話し、僕は日本語で返す。僕が日本語で冗談を言っておどけてみせ、彼らがそれに爆笑する。気が付くと、そんな奇跡的な会話が成り立っていました。

最後に彼らが連れて行ってくれたのは寺院でした。「ここは夕日がきれいなんだ」と自慢げに言うので、楽しみにしていると、涙が出るほど美しい景色が目の前に! 最後には感謝の意味も込めてアイスクリームをごちそうし、お別れをしました。思い切って彼らに付いていったことで、その土地や人の素晴らしさを知ることができ、かけがえのない体験ができました。

バングラ男子

“客とガイド”から“友達同士”へ

「バングラ男子」たちが連れて行ってくれたのは、特に有名でもない、ありきたりの場所でした。しかし、そこは彼らにとって特別な場所。その場所を僕に紹介したい、共有したいという気持ちを強く持っていました。確かに自分の大好きな場所があれば、その場所に誰かを連れて行き、魅力を紹介したくなるかもしれません。自分が感じた楽しさやうれしさを誰かに共有したくなるのは自然なことなのです。

うれしそうに案内する「バングラ男子」たちを見て、僕が思い出したのは「鎌倉男子」たちでした。ただ、1点だけ彼らには異なることがありました。それは、「バングラ男子」たちは自由に目的地を決め、彼らのお気に入りの場所に連れて行ってくれましたが、「鎌倉男子」たちは、決められた場所を決められたようにしか案内していなかったのです。僕が感じていた違和感はまさにその点にありました。

そこで、バングラデシュから帰ってきて、すぐに生徒たちにこの話をすることに。「もっと鎌倉案内を柔軟に、自由に考えていいよ。ゲストの要望に自由に応えていいし、“客とガイド”の関係から“友達同士”の関係になれるようにしよう」と伝えると、生徒の顔がうれしさとやる気に満ちた表情に変わりました。

お好み焼き

“言葉のリアリティー”が宿るコミュニケーションを

ここから鎌倉案内は転機を迎えます。まず、駅で観光客と出会い、行きたい場所を聞いて、一緒に相談しながらコースを決めるようになりました。その中で鶴岡八幡宮や大仏に行くことがあれば、詳しい説明をすることができますし、自分たちが詳しく説明できないことがあれば、スマホで情報収集し、わかりやすい言葉に直し、英語で伝えます。

さらに、きれいな景色が見える場所やお薦めのレストランを各グループで調査した上で、ゲストに提案し、一緒に行くようにもなりました。友達に話すように“The view from here is very beautiful!”と言って、一緒に夕日を眺めたり、“Okonomiyaki looks like a pancake, but it’s not sweet. Do you want to try it?”と尋ね、ゲストと楽しそうにお好み焼きを食べたりする鎌倉男子の姿は、僕が出会ったあの日の「バングラ男子」と重なっていました。

そして、そのような案内を始めたことで、ゲストとSNSの連絡先を交換し、その後の交流を続ける生徒が増えてきました。こうした変化は、ゲストだけではなく、生徒にも案内の楽しさをより一層感じさせたようでした。

このように、生徒たちの“伝えたい思い”とゲストの“知りたい思い”が重なると、自然とコミュニケーションが生まれます。この思いを持って発せられた言葉には、“言葉のリアリティー”が宿るのです。「バングラ男子」たちに案内をされ、ゲストの立場になったからこそ理解できたこと、そして彼らの純粋な気持ちに心が動かされたことで、鎌倉案内がいい方向へ進化したのです。

さて、転機を迎えた鎌倉案内。この変化はすぐ形となり、大きな効果をもたらし始めました。どんな効果をもたらしたのかは、次回ご紹介します!

SNSの連絡先を交換
SNSの連絡先を交換

文: 飯塚直輝先生(鎌倉学園中学校・高等学校 教諭)
2010年より同校に勤務。2014年からESS同好会「鎌倉学園ESS」の顧問を務める。“言語を通じて、生徒の心を揺さぶり、人間的な成長を促す”をモットーに、授業のみならず学級運営や特別活動などにおいても、常に生徒の表情の変化が絶えない実践を目指し奮闘中。


本記事は、『英語の先生応援マガジン』2017年夏号に掲載した記事「鎌倉男子のアウトプット活動実践記」を再構成したものです。

“本気の英語の先生”をアルクが応援する、登録制(会員制)ウェブサイト「英語の先生応援サイト(LTAF:Learning Teachers’ and Advisors’ Forum)」もぜひご覧ください。

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