地域活性化のプロ 山崎亮さんに聞く コミュニティづくりの秘訣

山崎亮氏

コミュニティデザイナーの山崎亮さん。北海道沼田町で町の人たちが地域医療を学ぶ「これから塾」を開いたり、島根県海士町に全国から中学生が“留学”するプロジェクトをサポートしたりと、福祉や観光、アート、教育など幅広い分野のプロジェクトを手掛け、その手法は大きな注目を集めています。コミュニティデザイナーの仕事とはどのようなものなのでしょうか。プロジェクトの立ち上がりや、その広がりについて語っていただきました。

モノを作らないデザイナー

――コミュニティデザイナーの仕事について教えてください。また、山崎さんはどのようなきっかけで、この世界に入られたのですか?

山崎 コミュニティデザイナーというのは、地域の課題を解決するための住民活動に「伴走」をする仕事だと思っています。話を聞いて一方的に問題解決の方法を提示するのではなく、主役である住民の、まちづくりのプロセスを支援するのです。

僕はもともと、建築や公園などの設計をやっていました。世界の主要国と比べて、日本は人口1人当たりの公園面積が少ないというので、一生懸命、公園を作っていたんです。しかしある時、日本はこれから急速に人口が減少すると知り、だったらむやみに公園を増やす必要はないだろうと思いました。2020年くらいからは世帯数も減り始めますから、住宅だってそんなにたくさん、作らなくてよくなるかもしれません。

では建築を勉強してきた人間は、これから何をやればいいのだろう? 考えている間にも、人と人とのつながりを原動力に、阪神淡路大震災で被災した町が復興していく様子を目の当たりにするなど、いくつかの経験が重なり、モノを作らないデザイナー、コミュニティデザイナーを志向するようになったのだと思います。

一人の医師の気付きから始まった「Co-Minkan」プロジェクト

――実際のプロジェクトは、どのように作り上げていくのですか?

山崎 つい最近、あるコミュニティ・プロジェクトが、横浜で立ち上がりました。発端は、一人の若いお医者さんです。彼は、通院してくる患者さんのなかに、貧困、DV、児童虐待、ネグレクト、障がい、心の問題など、さまざまな悩みを抱えた人が、たくさんいることに気付き、それで、町の人々がざっくばらんに悩みや問題を話し合える場をつくりたいと、考えるようになったのです。

こうして始まったのが、「Co-Minkan」というプロジェクトです。みんなで公民館のような“場”をつくり、みんなで集まり話をしようという意味を込め、「Co-Minkan」と名付けました。

もともと公民館というのは、住民が集まって町の問題を話し合い、地域を住みやすくするための活動をする拠点でした。それが今では、囲碁教室に詩吟教室と、まるでカルチャーセンターのようです。そうではなく、本来のまちづくりの拠点としての機能を、もう一度、公民館に取り戻したいと思ったのです。

――町の公民館を活用して、「Co-Minkan」の活動を?

山崎 いえ、カルチャーセンター化した既存の公民館は、すぐには変えられません。それで、稼働式の「Co-Minkan」を考えたのです。大きなキャリーカートに、パソコン、スピーカー、小さなプロジェクター、模造紙や付箋やマジックペンといった‘公民館グッズ’を詰め込んで、それをパカッと開ければ行く先々が公民館になります。

最近、地元のカフェのオーナーが、第1号の「Co-Minkan」をスタートさせました。週4日、地元の人々が集まって、お茶を飲みながらおしゃべりをしています。近隣や沿線にさまざまな地域の活動が生まれはじめています。

この「Co-Minkan」なる活動を、あっちでもこっちでも楽しそうにやる人が増えてくると、いつか本物の公民館から、「うちでも誰かCo-Minkanをやってくれませんか?」と、引き合いがくるのではないかと期待しています(笑)。そうなったら町の公民館は少しだけ、地域のなかで本来の役割を取り戻すことになるのかもしれませんね。

「Co-Minkan」の説明を聞き、笑顔を見せるご近所さん「Co-Minkan」の説明を聞き、笑顔を見せるご近所さん

「学び」が人を変えていく

――住民主導の町おこしでは、実効性のある方法がなかなか見つからない、継続が難しいといった声も聞きます。

山崎 地域の人が集まって話し合えば、それだけでうまくいくわけではないのです。皆さん、町の住人ではあっても、町づくりの専門家ではありませんからね。いろいろ意見を出し合っても、たいていは「思いつき」のレベルですから、良いアイディアは出てきません。だから活動に参加する人たちは、ものすごく学ばなければならないのです。

山崎亮

――活動にあたって必要な「学び」とは、たとえばどんなことですか?

山崎 北海道の沼田町のプロジェクトがよい例です。石狩平野の北に位置する人口3,000人強のこの町も、ご多分に漏れず人口減少や高齢化の問題を抱えていましたが、喫緊の課題は医療・福祉の分野でした。

しかし住民を集めてワークショップを開き、「これからは地域包括ケアの時代です」などと言っても、ほとんどの人はピンときません。当たり前ですが、意見を聞いてもおざなりの答えしか返ってきません。良いアウトプットを得るためには、まず必要な知識をインプットして、考える下地を作ってもらう必要があるわけです。そこで沼田町では、「これから塾」と名付けた住民参加の勉強会を、4回にわたって行なうことにしました。

――学ぶことで参加者の姿勢や反応は変わりましたか?

山崎 ええ、「これから塾」では、毎回、専門家を講師に招いて話を聞くのですが、ある日、イギリスの事例が紹介されました。イギリスでは、各地域で担当医が決まっています。患者に出す薬の予算も、医師ごとに割り当てが決まっていて、高齢者が多い地域では、医師が使える薬代は、他の地域より多く認められているのです。

ところが、お医者さんたちは安直に薬に頼ることはしません。代わりにこんなアドバイスをします。

「あなたの場合、まず週に3回、あそこのコーラスグループに参加してみてください。それで様子を見ましょう」
「だいぶ調子が良くなりましたね。では次は少し頑張って、ジョギングに挑戦してみましょう」

薬代を節約すると、ささやかなボーナスがもらえるという話もありますが、とにかくイギリスの医師たちは、不必要な投薬の代わりに、地域の住民グループやNPOがやっている活動を健康づくりに役立てるよう指導し、成果を上げているというのです。

この話を聞いて、沼田町の人たちから出てくる意見は、大きく変わりました。「老後に薬漬けになるのが心配だったけれど、この仕組みはいいね」「応用できれば、沼田町の医療費も減らせるかもしれない」「たしかうちの地区に、街歩きのグループがあったはず」。

問題を自分たちに引き付けて考え、僕たちが知らない地域の情報も、続々と飛び出してくるようになったのです。こうなるとがぜん面白い。誰かに指示されるまでもなく、みんなが嬉々として動き始めるのです。

共通体験を重ねることが互いの理解を促進する

――お話をうかがっていると、自分が住む町をもっと住みよくしようと奮闘する皆さんの、熱気や充実感が伝わってくるようです。

山崎 たしかにワークショップを続けていると、「自分の人生が、こんなに変わるとは思わなかった」という声をよく聞きます。「気がついたら友達が増えていた」とか、「知らなかった世界の人たちと、こうして仲良く一緒に活動するなんてねえ」という人もいます。地域を良くしたいと思って活動していくうちに、一人ひとりの人生まで変わっていくのですね。この仕事をしていると、そういう場面によく出合います。

――それだけいろんな成果や、手応えを感じるから、活動自体も続くのですね。

山崎 活動初期のメンバーが、次々と自分たちで新しい活動に取り組み始めることは、珍しくありません。島根県の隠岐諸島にある海士町(あまちょう)では、地元で栄養士として働く若い女性が、地元の若者が気軽に集まれる場所をつくりたいと、廃園になった保育園でネイルサロンを始めました。ネイルサロンといっても、みんながいろんなことを話し、また聞いてもらえる、お洒落な空間をつくりたかったのだそうです。

その同じ女性が今度は記念写真の撮影を始めたと、先週聞いたところです。依頼してくるのは、家族や友達、カップルなど。彼女はメイクからネイル、服のスタイリングまで、全部相談にのってあげて、海辺など島内のいろんな場所で写真を撮るそうです。写真を撮るという行為を通じて、人のつながりをつくっていきたいと話してくれました。

海士町での活動は2007年に始まりましたから、その後10年経って、まだ新しいことが続いているわけです。そういう人が、海士町には何人かいます。

海士町で記念写真づくり
海士町で記念写真づくり

廃保育園の庭で記念撮影
廃保育園の庭で記念撮影

――近年、生活者としての外国人も町には増えています。言葉が通じない人や、文化背景の違う人と共生するためには、どんな工夫が必要でしょうか。

山崎 言葉が通じない人との関係構築は、共通体験を持つことから始めるのもいいと思います。広い意味でのコミュニケーションは、言語だけではありません。一緒にスポーツをするとか、各国の料理を作って食べるとか、言葉がわからなくても楽しめる活動を続けていくと、やがて住民同士としての信頼関係ができてきます。同じ体験をすることで、片言の日本語でも、つたない英語でも、通じ合えることもたくさん見つかるはずです。

島根県の海士町の場合、外国人ではありませんが、Iターンで外から入ってきた人たちと、もともとの住民との関係が、始めはしっくりいきませんでした。でもワークショップで一緒に活動するうちに、「Iターンの連中は、ずっと地元に住んでいる自分たちより、島の未来を真剣に考えてくれている」と理解が進み、連帯感が育っていきました。地域の外国人との付き合い方も、これと同じことだろうと思います。

スタッフは全員、個人事業主。現代版ギルドという働き方

――少し話は逸れますが、山崎さん率いるstudio-Lは、個人事業主の集団として高い成果を上げ、新しい働き方としても注目されています。これはギルドを意識したシステムなのですか。

山崎 ヨーロッパのギルドというのは、個人事業主としての職人たちの集団でした。個人事業主同志でありながら、先輩の職人は若い職人に惜しみなく仕事を教える。若い職人も、技術を高めなければ仕事が回ってこないので懸命に腕を磨く。その結果、誰が作っても質の高い製品が手に入ると、ギルド全体のブランド力や信用が高まっていったのです。

studio-Lは、そういうギルドの精神みたいなものを、フリーランスの人間を通して現代に再現できないかという、社会実験でもありました。現在25名のメンバーがいますが、給料をもらって働く「社員」は一人もいません。僕たちと一緒にやることが決まった時点で、個人事業主の開業届を税務署に出して、studio-Lという屋号で登録してもらっています。そして競い合ったり、力を合わせたり、学び合ったりしながら仕事をしています。

いろんな専門性を持つメンバーが集まることで、建築、医療、福祉、教育と、守備範囲が広がるのは確かですね。仕事の依頼も、地方自治体、商業施設、住宅開発、生活協同組合に寺院と、ずいぶん多岐にわたるようになりました。

その一方、個人事業主の集合体は、一つ間違うとバラバラに霧散してしまうおそれもありますから、ギルド的な仕組みには、ある程度の求心力も必要だと思っています。

生まれてきた命を、 笑顔が見守り育てる社会

――最後に、山崎さんが考える「理想のコミュニティ」の姿を教えください。

山崎 生まれてきた赤ちゃんが、入れ代わり立ち代わり自分をのぞき込む、たくさんの笑顔に出会える社会は、すごく幸せだと思います。

「我々のコミュニティへ、ようこそ!」、「みんなが全力できみを守るからね」。そんな暗黙のメッセージをたたえた笑顔が、たくさん身の回りにある。そういうなかで育った子どもたちは、漠然とした自信や幸せ感を力に、いろんなことにチャレンジし、だめならまた元の場所に戻ってやり直すことができるでしょう。

そしていつか大人になれば、自分もまた、新しく生まれてくる赤ちゃんを、笑顔でのぞき込む一人になる。コミュニティとは、本来、そういう機能を持つものなのかもしれません。

山崎亮

山崎亮(やまざきりょう)
studio-L代表。東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)。慶応義塾大学特別招聘教授。 1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。 著書に『ふるさとを元気にする仕事』(ちくまプリマー新書)、『コミュニティデザインの源流』(太田出版)、『縮充する日本』(PHP新書)、『地域ごはん日記』(パイインターナショナル)などがある。


取材・文: 田中洋子
写真: 横関一浩
写真提供: studio-L

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