インバウンド

ビジネスパーソンも知っておきたい おもてなしの心得 <前編:欠かせないマインド>

島崎秀定

高まるインバウンド需要に備えるには?人気通訳ガイドによる企業向けセミナーをレポート

アルク教育社※は2017年1月に、人気通訳ガイド、島崎秀定さんを講師に迎え、「『グローバルなおもてなし』に必須のマインド&スキルを新しい視点で探る」と題したセミナーを東京・市ヶ谷で開催しました。外国人旅行者が求めるものは何か、「おもてなし」にはどんなマインドやスキルが必要か、豊富な経験の中から具体例を交えて紹介。店頭での接客の他、海外拠点社員の接待、職場のグローバル化など、企業における異文化理解やコミュニケーションの必要性が高まる中、サービス業や製造業など、さまざまな業種からの参加者が熱心に耳を傾けました。
※アルク教育社は2017年2月にアルクと合併しました。

2回目、3回目の訪問が増え、行先や求める体験も多様化

島崎さんは、1993年に国家資格の「通訳案内士」を取得、09年に通訳ガイドとして独立した。今では年間200日以上、海外からの個人旅行者やツアー客などを案内している。日本を訪れる観光客が日々増えていることを肌で感じる毎日だ。講演はまず、こうした現状についての説明から始まった。

観光客の国籍として増加が目立つのは、中国。15年までは、パッケージツアーの団体客が多く、「爆買」が目立ってメディアにもよく取り上げられていた。しかし16年に入ってからは、日本訪問が2回目、3回目という個人旅行者が増えているという。

「どこの国からのお客さまにも共通するのですが、初めての訪問だと、東京、箱根、富士山、京都、大阪などの主要観光地を巡る『ゴールデンルート』が中心で、2回目以降の訪問だと、行き先や求める体験は多様化します。松本、飛騨高山、白川郷などを巡る『サムライルート』、茶道や華道、忍者体験や農業体験、アニメツアーなども人気です。先日ご案内した、ベトナム系オーストラリア人13人のご一家は、秋田県角館で雪景色を楽しみ、山形県の蔵王温泉からロープウェイで樹氷を見ながらマイナス16度を体験されました」。

島崎秀定

外国人から見た「日本像」を知り、その背景を考える

外国人とのコミュニケーションを良くするにはまず、「日本人が気付いていない、外国人から見た日本を知っておくと良い」と島崎さんは話す。日本(自分)を知ってもらうには、自分が今、相手にどう見られているか知る必要があるからだ。

例えば、外国人からよく言われる日本像としては、「ゴミが落ちてなくて、街がきれい」「落とし物が無事戻ってくるほど治安が良い」「電車が時間通りに来る」などプラスのものもあれば、「自分の意見を言わないし、わかっていないのにうなずく。何を考えているかわからない」「店に入っても話し掛けてくれず無視される」などもある。どちらも、日本人には盲点となっている「外国人から見た日本」だ。こうした日本の特徴を意識し、なぜそうなのかという理由も考えてみることを島崎さんは勧める。

また、「日本人は日本文化を卑下する傾向がありますが、外国人観光客は、日本文化を知りたがっています。相手の興味や行動に合わせるだけではなく、日本の文化や習慣を教えることも必要。例えば、神社の鳥居にはどんな意味があるのかなど、文化の背景についても併せて伝えられると、さらに理解が深まります」と話す。

「相手を知る」ことも、もちろん大切だ。一例として島崎さんは、満員電車を挙げた。「ご案内している途中、『こんなに混んでいる電車には乗れない。次を待とう』と、なかなか満員電車に乗れないお客さまがいました」。これは、文化によって、他人がそれ以上近づくと不安に感じる「パーソナルスペース」の範囲が違うことによる。「おそらくそのお客さまはパーソナルスペースが広く、知らない人と触れたくなかったのでしょう」と島崎さんは解説する。

この他にも、国や文化によって、自己主張のスタイルや時間に対する考え方なども違う。食習慣や宗教によって、食べられないものも異なる。ただ、これらの違い全てを、あらかじめ知っておくのは難しい。では、どうすればいいのか。

島崎さんは、重要なおもてなしのマインドとして、

  • 「失敗しないように。恥をかかないように」という自分中心の発想ではなく、「相手に喜んでもらおう」という相手中心の発想に変える。
  • 文化の違いを楽しむ。
  • 最初から完璧な対応をしようとせず、とにかく経験を重ねて、相手の反応を見ながら改善していく。

ということを挙げた。
*12月5日公開の後編では、さらに訪日外国人の満足度をあげるおもてなしの心得を「スキル」面から紹介します。


教えてくれた人

島崎秀定さん(通訳案内士)
経営コンサルティング会社、美術館、旅行会社などを経て1993年に通訳案内士の資格取得。年に200日以上、通訳ガイドとして活動している。著書に、『通訳ガイドというおしごと』(アルク)。


  • 取材・文:大井明子
  • 写真:編集部
  • 写真提供:島崎秀定

本記事は、『マガジンアルク』2017年3-4月号に掲載した記事「ビジネスパーソンも知っておきたい おもてなしの心得」を再構成したものです。

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