ビジネスのグローバル化が進み、海外から得意先や海外オフィスの関係者が来日し、アテンドするケースも増えています。どんな点に心掛ければ、素晴らしい「日本」を思い出深く演出できるでしょう。政府高官や多国籍企業のCEOなど、数知れぬVIP級ゲストの日本滞在をサポートしてきた通訳案内士のランデル洋子さんに聞きました。
目次
- まず準備! 情報を細かく集める
- お出迎え後の移動時に旅程全体のイメージをつかもう
- お食事は、ちょっとした隠れ家的なお店も選択肢に
- お酌はハラスメントにつながる!?
こんにちは。通訳案内士のランデル洋子です。私はこれまで、海外からたくさんのお客さまをお迎えしてきました。心地よさ、不快さは、人によるもので、こうすれば大丈夫というマニュアルはありません。でも「こう動けばトラブルが起こりにくい」「こう選択すれば喜んでもらえる」という考え方なら、お伝えすることができます。
まず準備! 情報を細かく集める
「○○人だから」「ご年配だから」とこちらの先入観でスケジュールを決めるのは禁物。来日前に、好きな食べ物、行きたい場所などを、ご本人や調整役の方に確認しましょう。情報に基づいて行程表を用意し、きちんと準備をすれば「すれ違い」や「誤解」のリスクは減っていくでしょう。
お出迎え後の移動時に旅程全体のイメージをつかもう
出張に慣れた方でも海外では不安があるもの。空港などで出迎える際は、到着ゲートで笑顔でお迎えしましょう。
空港からホテルや会社への移動時間は大切にしたいもの。行程表に沿って予定を確認します。その際、相手の方がどう感じているかを察知するのが大事。「明日の夜はこちらのレストラン」と言っても、気が進まないような雰囲気を感じた時には、予定変更も考えます。行程表に縛られず、常に代案を用意しておくのが、喜んでいただくコツです。
お食事は、ちょっとした隠れ家的なお店も選択肢に
高額な懐石料理などが必ずしも喜ばれるわけではありません。先方が食べられるものがなかったり、「肉はないの?」と言われたりすることもあります。「日本食は好きですか?」と確認し、メニューも事前に調べておきたいものですよね。
また、初日は豪華なディナーでも2~3日目には変化を付けて隠れ家的なお店にご案内するのもいいかもしれません。こぢんまりしていても特徴のある店、きめ細かい心配りをしてくれる店などです。先日、西麻布にある焼き鳥屋さんに行ったのですが、カウンター席は4席しかなく、でも、そこがご主人の芸術的な包丁さばきや串さばきを見られる特等席なんです。感動が全然違う。そんな演出ができれば相手の方の日本の印象もがらりと変わるでしょう。
庶民的な居酒屋や屋台などには、外国人だけで行くにはハードルが高いので、ご案内して喜ばれることがよくあります。でも、ネットで調べていきなり案内するのは危険。ランチなどでもいいので下見をしておきたいものです。
お酌はハラスメントにつながる!?
私は一度、ノルウェーからのお客さまに手をはたかれたことがあります。ビジネスミーティング後に入った居酒屋で、私が普通にビールを注ごうとしたら“Don’t degrade yourself.”( 自分をおとしめないでくれ)と言われたんです。
一部の国の人々にとって、お酌の風習は不思議なようで、特に男性上司が女性に「お酌して」と要求するのは、ハラスメントとすら見なされます。こんな時には、日本の習慣なのだと説明するのもいいと思います。「お近づきになったら、同じ瓶からお酒を飲みます。それが親しさの印なんです。だからお注ぎさせてください」といった具合に。
ちなみに外国人にはとてもお酒の強い方が多く、それに付き合っていると、お金はかかりますし、大変な失敗につながることもあるので飲み過ぎにはご注意くださいね。
――大切なお客さまの機嫌が日に日に悪くなってしまって……。後編では、接遇の場面で注意したいことや、喜ばれる観光のヒントなどを紹介します。
ランデル洋子さん
NPO法人 通訳ガイド&コミュニケーション・スキル研究会 理事長。通訳ガイド養成の第一人者。外国企業の日本代表業務の経験もあり、多くの企業や自治体で異文化間コミュニケーション、国際接遇マナー、プレゼンなどに関する研修や講演を行う。著書に『外国からの客を迎える英会話――できるビジネスパーソンはここが違う!』(三修社)他。
取材・文: 吉橋 卓
イラスト: つぼいひろき
本記事は、『マガジンアルク』2015年7-8月号に掲載した記事を再構成したものです。