[英語学習ホントのところ]仕事で使える英語力って?

アルク教育総合研究所 平野琢也所長

アルク教育総合研究所 平野琢也所長

英語で仕事をするとなると、やっぱり、ネイティブ並みじゃなきゃいけないのでしょうか?
アルク教育総合研究所(アルク総研)の平野琢也所長に聞きました。

目次

  • 幅広い業界・職種の仕事の現場で英語が使われている
  • ネイティブ並みの英語力は不要。業務を遂行できるコミュニケーション力を
  • シンプルな構文で、ゆっくり、はっきりと話す
  • 言いたいことを表現する英語の回路を作ろう
  • 企業における人材育成に必要な視点

幅広い業界・職種の仕事の現場で英語が使われている

――仕事で英語を使っている人には、どんな業種や職種の方が多いのでしょうか。

平野 アルク総研では2015年に「日本人の仕事現場における英語使用実態調査」というインターネット調査を行いました。「過去1年間で仕事で英語を使う経験をした方」という条件で回答してくださった方は825名。業種は製造業が42%と最も多く、続いてサービス、IT、教育関係、それから商社、卸業、金融、建設と多様な業界に渡っています。職種で一番多かったのが技術職20%、次が企画営業・マーケティングで16.9%、そして総務人事、研究職が続きました。

業務で英語を使う必要があるのは、もはや一部の特殊な人だけではなく、幅広い業種と職種に広がっているということです。

どのような場面で英語を使っているかというと、圧倒的に多いのは電子メールと電話でのやりとりですね。さらに会議で発言する、交渉するといった業務が続きます。

回答者の英語力ですが、TOEICのスコアで最も多かったのは600~725点の210名(25.48%)。一方、465点以下が122名(14.77%)、860点以上が124名(14.99%)。幅広いレベルの方々から回答を得ています。

「仕事で英語を使う」というと海外留学経験があって、英語力の高い人たちと思われがちですがそういうわけではない。業務を遂行していくのに必要なので、さまざまなレベルの方が英語を使っているというのが現状なのです。

ネイティブ並みの英語力は不要。業務を遂行できるコミュニケーション力を

――英語でコミュニケーションする相手はどういう人たちなのでしょうか。

平野 海外のグループ企業や取引先の担当者などですが、重要なポイントは英語のノンネイティブスピーカーが多いということです。「仕事の英語実態調査」では、仕事相手はネイティブとノンネイティブの割合に大きな差はありませんでした。日本人が英語で仕事をする7~8割はノンネイティブだという調査もあります。

お互いに相手の母語がわからない仕事の場では、英語でコミュニケーションするケースが多いと考えられます。つまり仕事で求められる英語とは、ノンネイティブ同士がコミュニケーションできる英語で、重要なのは業務が滞りなく進むことです。仕事の現場では、シンプルでわかりやすい英語で表現することが求められるわけです。

数年前にジュネーブのホテルに宿泊したことがあるのですが、そこのレセプショニストの男性は6カ国語で対応できるということでした。母語はドイツ語でそのほか、英語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語、ロシア語ができると言っていました。こう聞くと全部母語並みに話せるように日本人なら思ってしまいますが、そうではない。母語以外は「レセプショニストとして仕事をやっていく」上で支障がないというレベルです。それで「6カ国語対応」とバーンと打ち出してくる。

日本人が英語で仕事をする時も同じです。自分の業務を大きな支障なく進めていければ「英語で仕事ができます」と言っていい。そういうマインドが大切だなと思いました。

シンプルな構文で、ゆっくり、はっきりと話す

――具体的にはどんな英語力を目指すべきでしょうか。

平野 スピーキング力を中心に高めていく必要があると思いますね。アルクで開発したスピーキング能力を測るテスト「TSST」(Telephone Standard Speaking Test)について2万5559名の受験者の統計データがあるのですが、その能力分布をみると約4割は「レベル4」の会話力という結果がでました。仕事で英語を使っている人もおそらくレベル4が多いと推定されるわけですが、このレベルは “I go to school.”といった簡単な英語は言えるけれど、when やbecauseなどの接続詞を使ったり関係代名詞を使ったりして、やや長い複文や重文の表現はなかなか使えない。電話でのコミュニケーションや会議で発言するのには少し苦労するでしょうし、プレッシャーも感じると思います。

話す場合はまずはシンプルな構文で、単語も仕事で使っている専門用語以外は簡単なものを使うこと。話すスピードもゆっくりはっきりと話す

また円滑なコミュニケーションには、長いポーズや過度の言い直しを避けることも大切です。がんばって複文で話そうとすると途中で考え込んで黙ってしまいがちなので、シンプルな単文を使うといいと思います。単文に単文をつなげながら、内容を積み重ねて言いたいことを表現していくのです。

企業の研修では、目的や状況別の研修がよく行われます。「このフレーズを使いましょう」「この場面ではこういう言い方をして相手を説得しましょう」といった内容ですね。ケースごとの「正解表現」を学んでいくわけですが、仕事の現場では、習った通りの状況にはなることはなかなかなく、覚えた表現をそのまま使う機会はめったにありません。頻出表現を覚えることはよいのですが、与えられた場面で言いたいことを英語で組み立てる力はもっと重要です。

アルク教育総合研究所 平野琢也所長

言いたいことを表現する英語の回路を作ろう

――仕事で使う英会話力を付けるために、お勧めの練習法はありますか?

平野 アルクで行っている「クリエイティブ・スピーキング」というレッスンがあります。自分の頭の中にある単語・文法・構文力などを使って、物事を描写したり、一連の出来事をまとめて話したりする練習をします。たとえば、目の前にあるお茶の入ったペットボトルを前に英語で説明するといったことをやる。「プラスチックでできているボトル」「緑茶が入っています」「高さは15センチほどです」など、英語で表現できることを言っていく。こうした訓練をしてみてはいかがでしょうか。表現したいことを日本語から訳すのではなく、頭の中に思い浮かんだ英語を使ってどう言うかを工夫するのです。英語の思考回路を鍛えるといってもいいかもしれません。

ただ、問題はみなさん、その訓練が続かないんですよね。その理由の一つは「自分の英語は正しいのか。正解を知りたい」と思ってしまうことにあるようです。

この練習の目的は「頭の中にある英語を使って表現する」ことにあります。正解は求めなくていい。英語の回路をつくっていく練習なのだと思ってください。

――スピーキング力がなかなか上がらない人へのアドバイスはありますか?

平野 日本の英語学習者の障害になっているのは、「間違った英語を話すのが恥ずかしい」とか「英語がある程度話せるようになってから仕事で使いたい」といったマインドではないかと思います。常に「正解」を求めてしまうんですね。正確な知識を入れるための「学習」と、入れた知識を使うスキルを磨く「練習」を分けて取り組むことをお勧めしたいですね。
外国語を使えるようになる過程は、間違いを繰り返すという作業の連続です。間違いを繰り返すプロセスを経て、初めて使うスキルは上がっていきます。ですから間違えることは恥ずかしい、間違えたくないというマインドをまず崩さないと先に進めません。

実際はみなさん、仕事の現場でさまざまな英語の間違いを繰り返しています。会議が終わってから「あの時の英語、間違えたな」と反省することがよく起こります。英語を話して間違っては直し、また使ってということを繰り返すうちに、間違える頻度が減り、間違いの質が変わって徐々にスピーキング力も高まっていくものです。

仕事の英語は仕事の現場で使わないと上達しません。間違いを犯すのは誰しも嫌ですが、スキル向上への必要なプロセスを踏んでいるのだと捉え直して、積極的に仕事で英語を使って、力を付けていっていただきたいですね。

企業における人材育成に必要な視点

――企業で英語のできる人材を育成するにあたってアドバイスはありますか?

平野 英語のノンネイティブ同士がコミュニケーションできる英語力を獲得するのを最初の目標とするのが大前提ですが、会社にとって必要な英語のレベルはどこか、育成のゴールを明確にすることが大切です。限られた時間と予算で研修を行い、成果を出さなくてはなりませんからね。

ゴールを決めるための指標も必要になります。アルクのTSSTを例にとるなら、「入社5年目までに社員の○割をTSSTのレベル6以上にする」といった明確なゴールを設定し、それを実現する有効な研修を組んでいくのです。そして「間違いを恐れず、トライ&エラーを繰り返そう」と社内の「英語を使うこと」へのマインドを変えていくこと。これが最も重要なことかもしれません。英語を「学ぶ人」ではなく、英語を「使う人」をいかに育てるかという視点で、社員研修を再検討してみるのも価値あることだと思います。

アルク教育総合研究所 平野琢也所長
入社以来、教材編集や各種テストの開発・運用、英語学習アドバイザー資格認定制度の立ち上げ・運用などに関わり、2014年からはアルク教育総合研究所にて、英語教育関連の調査・研究に携わる。

取材・文: 原 智子
写真: アルクplus 編集部


アルク総研について

アルク教育総合研究所は、長年、日本の語学学習者に適した教材や学習サポート、スピーキングテストなどを開発・提供している株式会社アルクが、2015年に語学教育の専門研究機関として設立したものです。
調査・研究の対象は以下のとおりです。

  1. 学習者個人・企業・教育機関の学習に対するニーズや学習実態に関する調査
  2. 教材・学習法の研究と開発
  3. その効果検証など

調査・研究の成果は、『アルク英語教育実態レポート』として以下のページに公表しています。

▼調査レポート
https://www.alc.co.jp/company/report/

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