グローバルな職場でのコミュニケーションのヒント

万国旗

外国人と日本人が肩を並べて働く職場は、今や珍しいことではありませんが、文化背景が異なる人々が集まるところに行き違いはつきもの。多文化対応スキルを始めとする、数々の研修で講師を務める吉中昌國さんに、コミュニケーションをスムーズにするコツや心構えをお聞きします。


目次

  • 世界の言語コミュニケーションは2タイプ
  • 一見しただけではわからない「価値観」の違い
  • グローバル環境で役立つ3つのヒント

世界の言語コミュニケーションは2タイプ

コミュニケーションと異文化理解という2つの視点から、多文化組織における円滑な人間関係構築のヒントをお話してみたいと思います。

アメリカ人の文化人類学者、エドワード・T・ホールは、言語コミュニケーションの形を、ハイコンテクスト(high-context)と、ローコンテクスト(low-context)に分類しました。

ハイコンテクストでは、文脈に込められた共通の価値観、情緒、常識、体験などを重視し、ツーカーでわかる、忖度する、察することを得意とします。世界的に見ると、アジア圏、アラブ圏、ロシア、フランスやイタリア、ギリシャなどが、ハイコンテクストの国々と言われています。

これに対して、相手に確実に伝わるように話す、ロジックを重んじる、不明点は質問するなど、言葉できっちり確認し合うのがローコンテクストです。こちらは、ドイツ、北欧、英語圏が代表的といえるでしょう。

日本はハイコンテクストが強い社会です。文化庁が実施した「平成28年度 国語に関する世論調査」によると、「相手との伝え合いで重視していること」について、「互いの考えていることを、できるだけ言葉に表して伝え合うこと」を重視する人が約半数を占める一方で、「考えていることを全部は言わなくても、互いに察し合って心を通わせること」が大事だと考える人が約3割いました。過去の調査にさかのぼってみても、この結果はほとんど変わっていません。

このように、「コミュニケーション」のあり方ひとつにも違いがあり、日本は以心伝心的なハイコンテクストが根強い国であることを、まず頭に入れておきましょう。

天秤

一見しただけではわからない「価値観」の違いも

多文化組織ではまた、異なる文化に対する理解も重要です。

文化というのは、タマネギのように「層」になっています。例えば3層に分けると、一番表面にあるのが、衣服、表情、ジェスチャーなどの「外観・見かけの文化」。その奥に、常識、マナー、慣習、法律といった「規範や原則の文化」があります。ここまではまだ理解しやすいのですが、一筋縄ではいかないのが、一番奥にある「価値観の文化」です。これには、道徳、正義、信仰、美意識、愛の概念などが含まれます。

ある日、日本人のAさんは、中国人の同僚Bさんが山ほど仕事を抱えているのを見て、残業に付き合い手伝ってあげることにしました。おかげで仕事ははかどり、Bさんもうれしそうだったのですが、帰り際になっても感謝の言葉はありません。Aさんは内心、良い気がしませんでした。しかしBさんにも、それなりの理由があったのです。

「僕たち中国人からすると、親しい間柄で『ありがとう』と言うのは、とってつけたようで冷たく感じます。そんなよそよそしい態度は、Aさんにとれません。今日は彼が助けてくれたけれど、彼が困ったときはもちろん僕が助けます」。

話を聞いてAさんに笑顔は戻りましたが、自分の文化に照らして相手の言動を判断するのは誤解の元。「自分がしてほしいことを、相手にしてあげなさい」「自分が嫌なことを他人にしてはいけない」と、そんな黄金律さえ、価値観そのものが違えば通用しないこともあるのです。

グローバル環境で役立つ3つのヒント

最後に、多文化の職場でコミュニケーションをスムーズにするコツを、3つ紹介しましょう。

明確な言葉で、意図をわかりやすく伝えよう

ハイコンテクストでは、解釈が曖昧になり誤解が生じやすい。誰にでも確実に情報を伝える手段として、ローコンテクスト的なアプローチにもっと力を入れよう。伝えたいことは、はっきりと言葉にして、論理的、具体的、なおかつわかりやすく説明する。相手の話でわからない点があれば、放置せずに質問する。自分の話についても、不明なところがあれば質問してもらう。相手の理解の程度を、その場、その場で見極めて、どの情報が不足しているか、どのように話せば伝えたいことが明確に相手に伝わるかを意識しながら会話をすること。

会社の目指す方向をしっかり共有

新入社員や外国人が入ってきたら、まずこの会社が何を目指しているのか、企業理念をきちんと伝える。その際、わかりやすく明瞭な言葉を使ったローコンテクスト的アプローチで、確実に企業理念の中身を伝え、しっかりと意味を理解してもらおう。現場の仕事と企業理念のひもづけができると、目指す方向性を常に全員で共有できるようになる。多文化組織はひとつのチームにまとまり、ダイバーシティが効果的に力を発揮し始める。

自分の当たり前は、相手にとっての当たり前にあらず

根源的な価値観にも、文化の違いがあることを理解しよう。相手の言動に対して決め付けをせず、判断を保留することも必要。率直に話し合い、ネットや本で調べることも含めて、相手の文化を知る努力は欠かせない。

私たちは概念としては「多様性」を理解していますが、それが血肉になるには時間を要します。お互い経験を通して学んでいきましょう。

吉中昌國さん
京都府生まれ。19歳で渡米し、15年間のアメリカ生活を経験。カリフォルニア大学バークレー校大学院で社会学修士号を取得。シリコンバレーで通訳・翻訳に関わる一方で、日本企業の進出をサポートするNGOの会長を務める。現在はアルクの専属講師として、日本全国の多数の企業と大学で研修を実施する。理念共有研修、グローバル・マインドセット研修、多文化対応スキル研修、ダイバーシティ研修などを立案、実施し、きめ細やかなカスタマイズ対応により高い満足度を得ている。


取材・執筆: 田中洋子

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