「中学英語」で大学入試は乗り切れる?――高校英語授業の目指すべき形

[英語学習ホントのところ 第4回]データが明かす高校英語授業の最優先課題(2)


大学入試における中学英語の「定着」の重要性に関する調査を、Sherpa*とアルク教育総合研究所(以下、アルク総研)が実施。高校英語の授業の課題があぶり出されました。

今回は中学英語と大学入試の関係について、Sherpaメンバーの臼倉美里先生と、アルク総研の木下あおいが語ります。


* Sherpa(Senior High English Reform Project ALC)とは、金谷憲先生(東京学芸大学名誉教授)をリーダーに、高校の英語の授業の改善に貢献することを目的に活動するプロジェクト。


目次

  • 大学入試の8割が中学英語で解けるという衝撃
  • 「未知語なし」は非現実的な前提ではない
  • 繰り返し練習で育つ「基礎を組み合わせる力」
  • 中学英語の定着は4技能型の入試にも効果あり


大学入試の8割が中学英語で解けるという衝撃

木下 今回は特に、中学英語(中学で学ぶ英文法などの基礎知識)の重要性と、大学入試との関係について伺いたいと思います。高校の先生方にとって、大学入試は最大の関心事の一つだからです。


臼倉 そうですね。高校で中学英語を定着させることの重要性を述べても、先生方の多くは二言目には「でも、大学入試がありますから」といった反応を示されます。そうなる理由の一つは、高校の現場には、生徒が中学英語をどの程度身に付けているのかを示す客観的なデータがほとんどないことです。


そこで、まずはデータを示そうということになりました。特に書籍『中学英文法で大学英語入試は8割解ける!』のベースになった調査は、中学英語と大学入試との関係を示したものですが、予想していたとはいえ、その結果はかなり衝撃的なものでした。


木下 大学入試の全問題の79パーセントが高校レベルの文法問題を含んでいない、そして、89パーセントが中学レベルの文法知識とその応用で解答できるという数字ですね。


この調査は、現役の高校の先生、英語教員養成課程に在籍している大学生・大学院生に、2012年度、2013年度、2014年度の3年分の国立・私立大学の入試、大学入試センター試験の英語問題、延べ4047問を実際に解いてもらって、分析したものです。ただし、派生語問題、発音・アクセント問題、リスニング問題は調査目的に合致していないので対象外とし、最終的には3852問が調査対象となりました。また、未知語はない(単語は全て知っている)ことを前提にしています。


臼倉 分析も3段階で実施し、慎重を期していますね。


木下 まず、教員養成課程に在籍中の大学生・大学院生6人が分担して実際に問題を解いて分析し(1次分析)、その内容を、教員養成大学の大学院で英語教育専攻課程を修了して現在教職に就く5人が確認(2次分析)、さらにプロジェクトの中心である3人の先生※が全体データを修正・集計した上で、分析(3次分析)しました。

※金谷 憲(東京学芸大学 名誉教授)、片山七三雄(東京理科大学 教授)、吉田翔真(浅野中学・高等学校 教諭)


「基礎の繰り返しこそ、『使える力』への近道」だと話す、臼倉先生


「未知語なし」は非現実的な前提ではない

臼倉 しかし、この結果を見せても「未知語がないという前提はおかしい」「中学英語の知識で、大学入試の長文問題を解けるはずがない」などのご批判を受けることがあります。


木下 未知語については、金谷憲先生たちが書かれた『教科書だけで大学入試は突破できる』(大修館書店)を見ると、入試難易度が上位の大学でも、入試問題の語彙の95パーセント前後が教科書既出のものであることが分かります。


臼倉 そうなんです。ある出版社の教科書を例に取ると、中学・高校の検定教科書の語彙は合わせて約7000語(旧カリキュラム)。これを生徒が全て知っていると仮定して、大学入試問題(27大学5年分)の解答可能率を調べたところ、平均で約70パーセント。東大では99.6パーセントに達します。ですから、「未知語なし」という前提は決しておかしなものではありません。


繰り返し練習で育つ「基礎を組み合わせる力」

木下 「中学英語で大学入試の長文問題を解くのは無理」という疑念に関してはいかがですか。


臼倉 この点は誤解もあると思います。「中学英語」=「中学の検定教科書」だと思われがちですが、そうではありません。「中学で学んだ英文法」という基本ユニットがあり、大学入試の長文問題のほとんどはそれらを組み合わせた形なので、中学英文法の知識があれば、大学入試英語問題は解けるという意味です。ただし、その基本ユニットがどのように組み合わされているかを判断する能力は必要です。


木下 例えば、大学入試の問題文がSVO構造のときは、中学で学んだSVOと同じだから理解できる。しかし、Sが非常に長かったり、複雑になっていたりするとき、同じ構造だと判断する力は必要になるということですね。


臼倉 そうです。中学英文法を組み合わせたり、組み合わさった複雑な英語を理解したりする能力。それを養うためにこそ、基礎を繰り返して定着させる練習が必要なのです。この「基礎を組み合わせる力」は、英語力そのものであって、それを育成するには「定着」が必須です。


中学英語の定着の重要性が調査からも
浮き彫りになったと言う、アルク総研の木下研究員


中学英語の定着は4技能型の入試にも効果あり

木下 中学英語は中学校に任せ、高校では新たな要素を学ぶべきだという意見をお持ちの先生もいらっしゃるでしょうね。


臼倉 多いですね。繰り返しには時間がかかりますから、ある程度、要素を少なくする必要がある。ところが、中学で教える内容は多く、英文法なら中学で主要な要素が出そろいます。しかも、中学3年の後半で初めて登場する重要事項も多い。だから、中学校に定着の責任まで負わせるのは無理難題かと思います。「定着」は高校で引き受けるべきでしょう。


木下 仮に大学入試のことだけを考えても、定着していなければできません。


臼倉 高校の先生は、大学入試でめったに出題されない内容も含めて網羅しようとしているのが実情でしょう。そのため定着のための時間があまり取れません。ですが、入試に合格するには6割以上得点できれば十分。だから多少教える内容を減らしてでも、中学英語の定着に時間をかける方が効果的だと思います。


加えて今後、大学入試改革が進むと、4技能型の試験や CEFR*レベルでの評価が一般化していきます。そうなれば、ますます基本的な英語の定着、つまり「使いこなす力」が合格を左右するようになるでしょう。先生方には、そうしたところまで考えていただきたいですね。

*ヨーロッパ言語共通参照枠。外国語の習得状況を測る際に用いられるガイドライン。 


【お話を聞いた人】

臼倉美里 先生

東京学芸大学 講師/Sherpa メンバー

昭和女子大学英米文学科卒業後、都立高校教諭として5年間勤務。その間、東京学芸大学大学院で修士課程および博士課程修了。専門は英語教育学。文章理解における明示的知識の必要性など、リーディング分野を中心に研究を行う。


木下あおい

アルク教育総合研究所 研究員



取材・文:織田孝一

写真:市来朋久


中学英文法で大学英語入試は8割解ける!~高校英語授業の最優先課題~
アルク教育総合研究所 監修
金谷 憲 編著/片山七三雄、吉田翔真 著

試験問題に出る語彙は全て意味・用法が分かっていると仮定した場合、大学入試の「79%の問題が高校レベルの文法知識を含まない」「89%の問題が中学レベルの文法知識で解答可能」――多くの反響が寄せられた「アルク英語教育実態レポート Vol.2」の調査結果を、入試問題の豊富な実例とともに詳しく解説。


高校生は中学英語を使いこなせるか?~基礎定着調査で見えた高校生の英語力~
金谷 憲 編著/ 隅田朗彦、大田悦子、臼倉美里、鈴木祐一 著

高校生は中学で習った英語をどのくらい使いこなせるようになっているのか。その問いに答えるために、Sherpaのメンバーが、延べ5,000名を超える高校生を対象に「高校生の基礎力定着調査」を実施。その驚きの結果と詳細な分析を基に、高校英語授業のあるべき方向を提案する。



本記事は、『英語の先生応援マガジン』2017年秋号に掲載した記事「データが明かす高校英語授業の最優先課題」を再構成したものです。

“本気の英語の先生”をアルクが応援する、登録制(会員制)ウェブサイト「英語の先生応援サイト(LTAF:Learning Teachers’ and Advisors’ Forum)」もぜひご覧ください。




アルク総研について

アルク教育総合研究所は、長年、日本の語学学習者に適した教材や学習サポート、スピーキングテストなどを開発・提供している株式会社アルクが、2015年に語学教育の専門研究機関として設立したものです。

調査・研究の対象は以下のとおりです。

(1)学習者個人・企業・教育機関の学習に対するニーズや学習実態に関する調査

(2)教材・学習法の研究と開発

(3)その効果検証など

調査・研究の成果は、『アルク英語教育実態レポート』として以下のページに公表しています。

▼調査レポート

https://www.alc.co.jp/company/report/



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