男子中高生が外国人観光客に鎌倉を案内! 活動実践記

ESS(English Speaking Society)同好会の活動の一環で、外国人観光客のための鎌倉案内を続けている鎌倉学園中学校・高等学校。生徒が“言葉のリアリティー”を感じ、英語を楽しんで使う活動がどのように発展してきたのか、顧問の飯塚直輝先生にご紹介いただきます。


第1回 大仏ツアーってないの?

2014年の秋、生徒たちの放課後学習をサポートしていたのがこの活動の始まりでした。学習を行う中で、彼らに英語をもっと実践的な場で使ってほしいと思い、外国人に地元である鎌倉を英語で案内する活動を始めました。準備を十分にして臨んだ初めての案内では、英語面での課題が見つかり、悔しい思いをしたことから、第2回の案内の前には生徒と英語の特訓を行いました。結果、第2回目の案内は大成功でした。


その後も、月に1回程度、鎌倉案内を続けていました。数を重ねるごとに原稿を流暢に読めるようになり、観光客の反応も良くなり、生徒のモチベーションが上がっていきました。努力したことが形になる成功体験を多く積むことで、生徒たちは努力の意味を感じることができているようでした。


しかしある日、生徒たちと鎌倉駅に立っていると、彼らが「先生、観光客がつかまりません……」と悲しそうな顔をして僕に訴えてきました。「なんで断られてるの?」と理由を聞くと、「観光客に『大仏ツアーはないの?』って聞かれるんですけど、『ない』って返すと、断られちゃいます……。大仏ツアー作りませんか?」と。鎌倉に来る外国人の行き先は大仏であることが多いようでした。そこで早速、大仏ツアーに向けて始動しました。


自分が楽しむことで体験を共有したくなる

まずは下見です。下見では、①紹介する名所、②写真撮影スポット、③コースや気配りなど、案内の際に気を付けること3点を考えながら調査することを課題にしました。


すると「大仏の頭のクルクルっていくつあるんだろう」(おそらく螺髪のことだと思います……)「大仏の高さはどのくらいあるんだろう」、と彼らの中に疑問が生じます。また「このわらじについて説明した方がいいよね」「この石碑の説明はどうする?」と案内のイメージが浮かんできます。

さらに「大仏の前での写真はこう撮った方がいいんじゃない?」とおススメの写真の撮り方まで考え始める鎌倉男子たち。最寄りの長谷駅までの帰り道に並ぶお店も確認。「タコせんべいを紹介したら驚くんじゃない?」「コロッケ買おうよ」とイメージを膨らませます。修学旅行生のように楽しんでいるようですが「自分たちが楽しむ」ことは決して悪いことではありません。相手に楽しんでもらいたいのであれば、自分たちも同じ体験をしてみる。楽しい体験は共有したくなるものです。このように大仏を案内する彼らのモチベーションは増してきました。


次に学校に戻って原稿作りです。インターネットを使って調べ、それを自分が表現できる英語に直します。すると、大仏のわらじについて説明する生徒が「ユーモアを交えて説明してみようかな」と周りの生徒に言うと、「じゃあ俺はクイズを入れてみる」と観光客を楽しませる工夫を彼ら自身で考え始めました。主体的に学び始めた生徒には強制力も罰も必要ありません。だから僕は一番最後に少し添削をするだけ。その後の暗唱や練習は生徒たちで行いました。


初めての大仏ツアー

鎌倉駅に立つと、すぐに観光客がつかまり大仏ツアー開始です。最初は緊張した様子の鎌倉男子たちも、ゲストとの会話の中で距離を縮めていきます。そしていよいよ大仏に到着です。一生懸命準備したので伝えたい思いが強く、緊張して言葉がうまく出てこない場面もありました。観光客も少し不安そうな顔をしています。しかし、ユーモアを交えて説明したいと言った生徒がわらじの説明を始めると空気が一変しました。


“This is called Waraji in Japan. It is traditional footwear and these ones are two meters high. Children in Ibaraki, Japan gave them to the Big Buddha. They wanted the Big Buddha to put these on and take a walk.”


観光客はウンウンと笑顔でうなずきます。続いて、彼の挑戦した笑いを取る箇所です。


“However, if the Big Buddha walked, I would have pain in my neck because I have to keep looking up.”


一瞬だけ間がありましたが、彼の「笑って!」と訴え掛ける表情もあってか、観光客は満面の笑みを浮かべてくれました。そこからは準備していたことを踏まえて、説明や案内ができていたようでした。おススメの場所で観光客と写真も撮り、お互いに満足したツアーとなったように思えました。

満足しなかった鎌倉男子たち。その理由とは?

案内後、生徒たちに「どうだった?」と感想を聞くと意外な答えが。「もっとゲストの方のリアクションを取れるように練習します」「もっと笑わせられましたね」と満足していなかったのです。彼らは自分に厳しい男たちなのでしょうか。実はそういうわけではなく、評価の尺度が僕と異なることに気が付いたのです。


評価の基準を教師が設けると、どうしても “文法の正しさ” や “語彙数” など英語の正しさや文の量に偏りがちです。しかし、鎌倉男子たちの自己評価の尺度は “聞き手を楽しませることができたか” でした。下見に行き、原稿を作り、家で練習している際に彼らの頭の中にあったのは、ゲストの反応や笑顔だったのだと思います。言い換えれば、鎌倉男子たちは英語という言葉を誰かに伝えるために学んでいました。


このように言葉には、常に伝える内容と伝える相手が必要です。一生懸命話した内容が誰かに伝わった時にこの上ないうれしさがあります。そのような “言葉のリアリティー” を感じることで、生徒の学びに主体性が生まれ、大きな成長を見ることができると、大仏ツアーを通じて生徒たちから学ばせてもらいました。


文:飯塚直輝先生(鎌倉学園中学校・高等学校 教諭)

2010年より同校に勤務。2014年からESS同好会「鎌倉学園 ESS 」の顧問を務める。“言語を通じて、生徒の心を揺さぶり、人間的な成長を促す”をモットーに、授業のみならず学級運営や特別活動などにおいても、常に生徒の表情の変化が絶えない実践を目指し奮闘中。


本記事は、『英語の先生応援マガジン』2017年春号に掲載した記事「鎌倉男子のアウトプット活動実践記」を再構成したものです。

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